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わが街の環境マイスター 冬の山中湖を彩るキャンドル

渡辺長敬さん
NPO法人 富士山自然学校代表

ダイヤモンド富士をバックに
アイスキャンドルがきらめく冬の山中湖。
「地域発展に貢献する自然保護」が、
渡辺さんの自然学校のモットーだ。

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メンバーに「先生」と慕われる渡辺さんには、まだまだやりたいことがたくさんある


観光客が7倍に増えた

 
 冬の山中湖から眺める富士山の景色は格別だ。夕方になると太陽が富士山の稜線に落ちかかる。その夕陽がちょうど山頂に沈む瞬間、あたかも金環食のような輝きを見せる。「ダイヤモンド富士」と呼ばれる現象だ。
 その美しさを愛でようと数多くのカメラマンや観光客が山中湖を訪れる。しかし、そのほとんどが夕闇とともに山中湖を去ってしまう。それが5年前までの現実だった。
 山中湖村にとって観光は重要な産業である。何とかして集まった人々に宿泊してもらうことはできないだろうか。そう考えたのが、自らの故郷である鳴沢村と山中湖村を拠点に自然保護活動をする渡辺長敬さんだ。
 
「私は、思いついたことを、文書で説得するのではなく、小規模でも実行して、目の当たりに見せてしまうんですよ」と話す渡辺さんが企画したのは、「アイスキャンドル祭り」というイベント。
 ダイヤモンド富士が夕闇に包まれるころ、湖畔に並べた1000本以上の氷のキャンドルに次々と灯りを点す。すると、えもいわれぬ幻想的な風景が出現する。それを見た他の自治体からも声がかかり、今では三会場で実施される一大イベントに成長した。
 このアイスキャンドルは、牛乳の紙パックとペットボトルを型枠に使って作る。使用する油は食用油の廃油だ。もちろん使用後はリサイクルに回せるエコ仕様になっている。
photophotoダイヤモンド富士(右の写真)の輝きが消えた後、アイスキャンドルが湖畔を彩る
 
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自然公園の観光客にも気軽に声をかける
 

「単に自然を守ろうと訴えるだけでなく、それが地域の発展につながるようにしないと共感が得られません」と語る渡辺さんは、イベントに華を添える工夫も忘れない。09年の2月14日には、メインキャンドルに点火するカップルを公募し、祭りの盛り上げを図っている。
アイスキャンドル祭りが定着して以来、それまで一万数千人に過ぎなかった冬期3カ月間の観光客は7万人に増え、うち10%は宿泊してくれるようになった。

富士山が見える街づくり

 
 渡辺さんが自然環境に関心をもつようになったのは、東京での仕事をやめ、故郷に帰って自ら工場経営に携わるようになった60年代末のこと。ちょうど中央自動車道が開通するようになったころだった。
 富士山麓に住む人々にとって自然が生きていくための財産なんです。それを使い果たさないように、次の世代に引き継いでいかなければいけません」
 93年に「富士山自然学校」を開校。まず取り組んだのはエコツーリズムの推進だった。とくに青木ヶ原樹海に関しては、利用のガイドラインの作成を手がけ、民間から問題提起するきっかけになった。山梨県では、04年7月からこのエコツアーガイドラインが施行されている。
 現在渡辺さんたちの活動拠点になっているのは、「きらら」と呼ばれる山中湖交流プラザだ。ここは複合施設になっていて、野外劇場山中湖シアター「ひびき」、スポーツ施設、自然公園などが湖畔に広がる。
 渡辺さんたちは、「きらら」の企画段階から参画し、さまざまな提案を行った。運営に携わる人材育成の重要性を訴え、過去の公園事業を総括し、施設には富士山麓の土地にふさわしい工夫を凝らした。
 野外劇場「ひびき」のステージは、ホリゾント(舞台後方の壁)が吹き抜けになっていて、山中湖と富士山が見通せる。野球場のナイター用照明設備は、景観を壊さないよう普段は低い位置に収納され、使用するときだけ必要な高さになる。
「富士山は単独峰ですから、どこから見ても同じ景観を保つべきです。そのためにどうするかという視点が大切なんです」
 富士山自然学校のメンバーは、「きらら」の自然公園の管理・運営を引き受けている。ここでは自然の観察のほか、枯れ木や木の実を使ったクラフト教室や手織りの体験ができる。
 

左:集まったメンバーとはいつでも話し合う 右:クラフトコーナーの素材は無限にある

 季節を問わず訪れる人は絶えないが、渡辺さんがいま最も力を注ぐのは、夏休みの「キッズエコクラブ」だ。小中学生を対象に、子どもたち自身がテーマを決めて、自由研究の一環として「フィールド観察ノート」づくりに取り組む。富士山自然学校のスタッフは、サポート役に徹する。


 子どもたちは自然公園を散策しながら、植物の葉の付き方や日光と生長の関係、昆虫の生態などの課題を自分で見つけて、レポートを作成する。
「子どもを育てるのは地域の役割ですから、地元の小学校に出前教室もやっています」。渡辺さんの夢は、こうして出会った子どもたちのなかから科学者が現れたり、地域の後継者が育ってくれることだという。
 しかし、その前に現実的な夢が待っている。周囲の山をすべて自然公園にすることだ。管理を受託した県有林に植林するための苗木の育成も始まった。渡辺さんに休日は当分なさそうだ。
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野外シアター「ひびき」でMt.Fujiジャズフェスティバルを再現するのが夢のひとつ
CONTENTS
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コンテンツ
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 燒リ晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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