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わが街の環境マイスター 花の湿原を守る肝っ玉かあさんphoto
三膳時子さん
認定NPO法人霧多布湿原トラスト理事長

ナショナルトラストによる保全が進む
北海道・霧多布湿原。
その活動は、生まれたときから目の前にあった自然を
「貴重なもの」と気づくことから始まった。


風変わりな東京人との出会い

 
 大らかな人柄は、霧多布の自然によって育まれたものなのだろう。NPO法人「霧多布湿原トラスト」理事長、三膳時子さんは屈託のない笑顔で迎えてくれた。
 「湿原の保護とかかわるようになってあっという間に四半世紀です。民有地の買い上げ運動も一段落しました。やっとここまで来ることができたのは、地域の人たちの助けがあってこそです」
 昔から昆布漁が盛んな北海道厚岸郡浜中町に生を享けた三膳さんは、目の前に広がる「花の湿原」を遊び場にして育った。仏壇に供える花を摘むのも、ジャムの材料にするコケモモを採るのも、この湿原だった。
 1993年にラムサール条約に登録され、国際的にも知名度の上がった霧多布湿原だが、かつて地元の住民から「何の役にも立たない厄介な土地」といわれていた時期があった。

 
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「活動内容はまず町の人たちに知ってほしい」と三膳さん



 
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クサレダマ(左) エゾリンドウ(右)

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キタキツネ

 
 1960年代半ばまでは、海で収穫した昆布を干し場まで運ぶ馬が湿原に放牧されていた。やがてモータリゼーションが到来し、トラックが昆布の運搬を担うようになると、湿原は放牧地としての役割を失い、家庭の残飯や使わなくなった漁具、廃船までが捨てられる場所になってしまったのだ。
 そんな霧多布に、いまから25年ほど前、東京から一人の男がやってきた。のちに霧多布湿原トラストの事務局長を務めることになる伊東俊和さんだ。伊東さんは、一流企業の管理職を辞して浜中町に居を移し、湿原の近くに喫茶店「てんぼうだい」を開業する。地元の人々が興味津々、ここに通うようになった。地元漁師と結婚して家業の手伝いをしていた三膳さんも、その一人だった。
 初夏になると花々が咲き乱れ、タンチョウもやってくる。そのすぐそばを、小学生たちが悠々と歩いて学校に通っていく。こんな素晴らしい場所は、日本中どこを探したってない――伊東さんがそんなふうに霧多布を絶賛するのを、三膳さんは驚きながら聞いていた。タンチョウもエゾカンゾウもエゾシカも珍しいと思ったことなどなかったし、ごみ捨て場と化している場所もある。霧多布の風景が人をそれほどひきつけるなんて、信じられない思いだった。
 伊東さんの情熱にほだされた地元の仲間が中心になって、1986年、「霧多布湿原ファンクラブ」が発足する。三膳さんは、その事務を担当した。
 「『てんぼうだい』で伊東さんや霧多布を訪れた旅行者たちと話をしているうちに、霧多布って、そんなにいいところだったんだと気づかされました。『通りすがりの旅行者が知らない景色や花が、霧多布にはまだたくさんあるんですよ』と、反対に自慢したくなってきたのです。その頃から、ありきたりの風景だった霧多布湿原が私の中で少しずつ色づき始めました」

民有地の半分を取得

 
 当時、約3168haを誇る霧多布湿原の約3分の1にあたる周辺部は民有地であった。地主の多くは地元の漁師だが、なかには、いかがわしい原野商法によって北海道以外の人間に売られた土地もある。
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湿原トラストの事務局(上)は誰でも気軽に寄れる場所だ。きょうは副理事長の瓜田勝也さんと打ち合わせ(下)
 
 未来の子どもたちに霧多布の美しさを伝えていくためには、この民有地をまず確保しなければならない。
 「霧多布湿原ファンクラブ」の情熱を継承しつつ、2000年1月、当時はまだ全国的にも数が少ない環境NPO「霧多布湿原トラスト」を設立、三膳さんはその理事長に推された。本格的なナショナルトラスト運動を進めるにあたって、外部の湿原ファンと地元の人々の双方から信頼を寄せられる三膳さんの存在は大きかった。2004年6月には、道内初の認定NPO法人となる。
 トラスト活動の柱となったのが、湿原内の民有地買い取り運動である。三膳さんたちは、地主ひとりひとりに手紙をしたためた。
 「手紙に『湿原を買います』と書いて、地主さんたちに意思表示するようにしました。湿原の緑が美しくなる季節に、感謝の言葉を添えてお手紙を出すと、秋になって返事をいただけることが多かったですね。地主さんはみな高齢の方で、なかには、『俺の目が黒いうちは、あの土地は絶対に渡せない』とおっしゃる方もいました。でも、口コミの影響もあって『あそこは霧多布を守るために湿原を買っているんだ』と、理解していただけるようになりました」

 
 10年間、こつこつと買い上げていった民有地は、2009年に過去最大規模の150haを取得したことによって、総計583haに達した。民有地全体の57%を取得したことになる(そのうち半分強がセブン−イレブン記念財団からの支援による)。これで、万一、大規模開発の計画が浮上する事態になっても、慌てる必要はない。
 「民有地の買い取りは今後も続けていくつもりですが、これからは湿原をただ守るだけではなくて、地元の人たちにも霧多布をもっと楽しんでもらえる場所にしていきたいですね。昔のように、馬を放してもいいでしょう。馬がいる霧多布湿原が、私たちにとっての原風景ですから」


 
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ワタスゲの白、エゾカンゾウのオレンジ、
ノハナショウブの紫が点在する夏の湿原
CONTENTS
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コンテンツ
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 燒リ晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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