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わが街の環境マイスター 民間の力で都立公園の緑を守る
佐藤留美さん
NPO法人 NPO birth事務局長

広大な都立公園に里山をよみがえらせ、それを継続的に運営する──その難事業を、「人をコーディネートする」側面から支えている女性がいる。


現代の“虫めづる姫”

 
 「物心つく前から、身のまわりで虫や動物を見つけては話しかけていたようです」
 NPO法人birthの事務局長、佐藤留美さんは、幼少時代を振り返った。長ずるにしたがい、森の木々や路傍の石にも生命の存在を感じ取るほどになったという。
 高校時代には生物部でミミズの生態を調査し、東京農工大では林学を専攻するかたわら昆虫研究会に所属して、昆虫の生態研究に没頭する。卒業後は、自然教育や里山保全の調査に携わった。

 転機は1998年。「東京の緑をこれ以上失いたくない。暮らしの中の身近な自然を守ろう」と、この年、仲間とともにNPO birthを立ち上げた。その直後、サンフランシスコのNPOで研修を受け、組織運営や公園管理のノウハウを実地で学んだ。
 
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「自然のほうだけ向いていても保護にはつながらない。カギを握るのは人」と佐藤さん

 
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野山北・六道山公園の里山民家は移築ではなく新築。内部は来訪者が自由にくつろげる
 
 「アメリカのボランティア人口が多いのは、NPOがボランティアのコーディネートを専門に手がけているからです。プロのコーディネーターたちが次々にボランティアを世に送り出し、個々の力が大きな市民パワーに集約されて社会を変えていく原動力となっているのが、よくわかりました」
 99年には、身近な自然の保全について調査研究する「里山タスクグループ」を、他の財団や市民団体、自治体職員とともに発足させた。2006年、NPOと企業とのパートナーシップにより、狭山丘陵の都立公園(野山北・六道山公園、東大和公園、狭山公園、八国山緑地)の管理運営をスタート。公共施設の管理運営を企業やNPOが行う「指定管理者制度」を利用したものだ。
 狭山丘陵は、東京の北西部から埼玉県南西部にまたがる武蔵野台地のほぼ中央に位置する。宮崎駿監督のアニメ『となりのトトロ』(88年公開)の舞台のモデルにもなった場所である。

ボランティアがボランティアを育てる

 
 なかでも野山北・六道山公園は面積180haと、都立公園では最大の広さを誇る。江戸時代の農家を復元した「里山民家」を、田んぼや雑木林が取り囲む。落ち葉を堆肥にし、薪を燃料にした、里山での持続可能な暮らし方を次世代へ伝える活動が行われている。多くのボランティアにより雑木林が手入れされ、田んぼでは実際に米をつくっている。都内では唯一、最大級の里山体験エリアなのだ。
 樹林地管理や施設維持管理、植生保全が公園管理のハードとすれば、birthが担当するのはソフト面、つまり里山の魅力啓発、協働によるパークマネジメント、レンジャー事業、イベント・講習会の企画といった部分である。
 田んぼ体験、春・秋まつり、収穫祭、里山スローライフ講座、里山ナチュラリスト講座、藁細工教室、てくてく自然観察ウォーキングなど、 birthが打ち出してきたイベント・講習会・学習会にはボランティアの力が欠かせないが、じつは、こうした催し物はボランティアを発掘するための願ってもない場でもある。

 
 「イベントをきっかけに、里山に興味を持った方々が、次は講習会に参加し、学んだことを活かす場としてボランティアに登録するといった流れができています。ですから、イベントの参加者がいつの間にかボランティア側に回っているケースがよくあります」
 野山北・六道山公園の登録ボランティア数は、06年度の68人から10年度は310人に増え、ボランティア活動の年間参加延べ人数は、05年度の976人から10年度は6617人と、じつに7倍近くにはね上がった。ボランティアの年齢も多世代にわたり、ベテランのボランティアが初心者のボランティアを教育する理想的な状況が生まれている。
 「公園の管理運営は、いままでは行政が整備して市民が利用するという一方通行の関係でした。しかしこれからは、地域の財産として、公園に関わるすべての人々が、公園づくりを考え実践する時代です」
 佐藤さんたちは、ボランティアはもちろん、スタッフ、公園利用者、自治体、地域住民、専門家などからさまざまな意見を吸い上げながら、実現したい公園の理想像を探ってきた。構想が固まれば、アイディアを絵で具現化する。

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野山北・六道山公園では米作りの一環として参加者が案山子を作り、秋に投票によるコンテストを行う。

 
 美大で日本画を学んだというスタッフが描いた里山の風景画には、煮炊きの煙があがる農家、そこに暮らす人々、畑や雑木林、小鳥などが、ほのぼのとしたタッチで仔細に描かれている。この「里山画」は、パンフレットなどに刷り込まれ、関係者のビジョン共有に大きく貢献している。まずビジョンを発信すれば、賛同する人が自然に集まる──その原則は、birthが手がける都立公園以外の雑木林の保全や、街中の緑化などでも貫かれている。
 こうしたパークマネジメントの手法が評価され、野山北・六道山公園は09年、都市公園コンクール管理運営部門で国土交通大臣賞を受賞した。
 国土の7割が森林だが、東京都の森林率はわずか36%。都民にとってかけがえのない緑を守るため、10年6月、様々な立場のメンバーが結集して「東京の緑を守る将来会議」が設立された。佐藤さんもその一人だ。人と人、人と自然をつなぐ役目に徹している佐藤さんは、いわば扇の要なのである。
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上=来訪者への解説はbirthの仕事。下=理想の公園作りには多くの人の知恵を結集することが大切だ
CONTENTS
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コンテンツ
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 燒リ晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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