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わが街の環境マイスター 自然界に学ぶ最先端の技術
萩原喜之さん
「地球に謙虚に運動」代表

世界一のスピードと斬新なデザインで人気を博した新幹線500系。
その開発には「自然界の知恵」が生かされていた。


フクロウの羽が世界最速を生み出した

 
 時速300km──開発当時、世界最速の記録を打ち立てた新幹線500系。流線型の近未来的なフォルムは「男前」と称され、ファンからこよなく愛されてきた。
 高速化をめざして500系の開発が始動したのは、1989年のことだ。当時44歳だった仲津英治さんは、JR西日本の開発の責任者だった。
「実は、速く走らせること自体はそれほど難しい課題ではなかったんです。問題は“騒音”でした。日本の新幹線は住宅のすぐ脇を走っています。でも、速さを求めれば求めるほど、新幹線の音も大きくなる」
 日本の騒音基準は世界一厳しいといわれ、25m離れた地点で75デシベル以下が基準である。これは家庭用掃除機と同程度のレベル。新幹線の音をそこまで小さくするのは並大抵のことではなく、なかでも一番の問題がパンタグラフと呼ばれる集電装置だった。
「車体から発生する音は、突起物をなくして空気抵抗を少なくするなどの工夫で大分改良されていました。しかし、パンタグラフはもともと車体から突き出た構造のため、どうしても空気が乱れて音が大きくなります。それをいかに防ぐかがポイントでした」
 
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仲津さんは自宅で太陽光発電や雨水利用など、環境に負荷をかけない生活を心がけている

 
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500系の翼型パンタグラフ。支柱側面の突起物が空力騒音を減らす
 
 仲津さんたちは、空気抵抗を少なくするために、パンタグラフを翼型へと改良。しかし、やはり突き出た支柱の音までは防げない。
 ところが、ヒントは意外なところから見つかった。
「私は30代のころからバードウォッチングが趣味で、日本野鳥の会にも入っていますが、そこで鳥のなかでもっとも静かに飛ぶのがフクロウだという話を聞きました。そこで、フクロウの羽を研究してみると、たしかにタカなどと比べて空気抵抗が少ない。風を当ててみても、タカだとうるさく音がするのに、フクロウの羽は音がしないのです。これはパンタグラフにも応用できると思いました」
 フクロウの風切羽には他の鳥にはないセレーションと呼ばれるギザギザがあり、これが空気をうまく逃がして抵抗を少なくするのだという。獲物に静かに近づく自然の工夫だ。
 仲津さんたちは4年をかけてフクロウの羽の仕組みをパンタグラフに取り入れ、空気抵抗の減少に成功。それまでの騒音を30%もカットすることができた。

鳥はもっとも燃費のいい交通機関

 
 実は新幹線500系には、もう一つ鳥の機能が取り入れられている。それはカワセミのクチバシだ。
 新幹線が高速でトンネルに突入すると、空気の圧縮波が生じて出口付近で一部放出され、非常に大きな音がする。俗に“トンネルドン”と呼ばれる現象だ。開けた空間から狭いトンネルに突入すると大きな抵抗の変化があるからだ。
「私はこれを解決するため、抵抗の大きな変化を常時経験している生き物はいないか考えてみました。するとカワセミのことが思い浮かびました。カワセミは高速で水中に飛び込んで魚を獲りますが、そのとき空気中と水中で1000倍もの抵抗差が生じている。にもかかわらず、水しぶきが極めて少ないのです」
 カワセミのクチバシの鋭い形は、水の抵抗をもっとも小さくする形状だったのだ。大がかりな実験装置の測定と、スーパーコンピューターによる解析が導き出した新幹線の先頭形状は、カワセミのクチバシに極めて近似し、仲津さんのひらめきが正しいことが裏付けられた。車体の断面も円形にした。それにより走行抵抗が30%減り、トンネル出口での騒音が解決、消費電力も15%減った。
 開発の始動から6年後、500系は静かさと速さを兼ね備えた列車として完成。1997年より「のぞみ」として運用が開始された。
「このときの経験から、私は“人間は自然に学ぶべきだ”という思いを強くしました。自然に勝とう、自然を克服しようという考えが間違っているのだと」
 そこで、仲津さんは2002年に「地球に謙虚に」運動を立ち上げた。よく使われる「地球にやさしく」という言葉は人間中心で傲慢な気がしたため、代わりにこの言葉を広め、自然に学ぶ姿勢を醸成させていきたい、と考えたのだ。いまではこの運動の呼びかけ人は50人を超え、輪は広がりつつある。
 
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500系新幹線と仲津さん。車体の先頭形状はカワセミ(上)に近似した。

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仲津さんが所属する「びわ湖自然環境ネットワーク」では、魚道の設置(写真)やヨシの復旧に力を入れている
 
 様々な環境団体への参加も心がけている。
「もっとも私は会費会員であることが多いのですが(笑)。もちろん、活動に参加できるときはします。けれど会費を払うだけであっても、会に加わるのは大切だと思うんです。たとえば、野鳥の会は日本で最大の自然保護団体ですが、4万5000人しか会員がいません。ところが、ドイツのNABUやBUNDといった自然保護団体は40万人以上で、ケタが違う。会費会員が多いからです。会費が活動資金になるわけですから、日本人はもっと気軽に会費会員になって欲しいと思います」
 仲津さんが開発した新幹線500系は2010年、惜しまれながら「のぞみ」から引退、現在は「こだま」の一部として運行している。車体が円筒形のため、窓側の席の上部が狭くなることや製造コストが課題となり、続く新型の700系から箱型断面に戻されたのだ。
 しかし、仲津さんはこう言う。
「鳥はものすごく燃費のよい交通機関ともいえます。自然の姿から考えると、高速で移動するのに適しているのは円形断面なんです。現在は箱型の車両が主流とされていますが、いずれ円形に戻るでしょう。人間だけが自然と違う枠組みでいるのは無理があるんです」
CONTENTS
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コンテンツ
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 燒リ晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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