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わが街の環境マイスター 宮沢賢治に導かれて山村へ
吉成信夫さん
NPO法人岩手子ども環境研究所理事長

岩手県の山村の廃校を、自然を学ぶ学校としてよみがえらせたのは、人生半ばで大転身を決意した元ビジネスマンだった。


学校嫌いが求めた「理想の学校」
 
 盛岡駅から車で1時間40分ほど、山懐に深く包まれた小さな山村に、吉成信夫さんが校長≠つとめる「森と風のがっこう」(NPO法人岩手子ども環境研究所)がある。廃校になった山の分校を利用し、自然の循環やエネルギー、環境などを、子どもたちが遊びながら学べるようにした施設である。
 吉成さんは、その穏やかな風貌からは想像しがたいが、1996年に東京から岩手に移り住むまで、コンサルタント会社の役員として、昼夜の別なく働きつづける第一線のビジネスマンだった。そこから携帯電話も通じない山村へと、まさに180度の大転身である。
「仕事をしていても、人生の目標がもうひとつ定まらず、自分の原風景≠探していたら、たどりついたのが、『学校』でした。ぼくは、小学校から大学まで、じつは学校が大嫌いだったんです。なんで決められた通りに勉強しなくてはいけないのか、いつも不満でした。でも、大嫌いイコール、大好きなんでしょうね。楽しみながら学べる場所がなかった。ならば、それを自分でつくってみたいと思うようになったのです」
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「50年100年先を考えての森づくりと同じように、夢に描くエコビレッジも、一歩ずつじっくりとつくりあげていくつもりです」

 
 当時吉成さんは仕事で、企業が設立した地球環境国際賞「ブループラネット賞」に関わっているうちに、NGOという市民活動組織が国境を越えてつながり、政府を動かそうとする時代になっていることを知った。
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廃校になった校舎を中心に、多くのボランティアや子どもたちの手で活動用の施設が建て増しされた
 
 環境問題に関する本を熱心に読んでいた高校時代の自分がよみがえってきた吉成さんは、「市民フォーラム2001」という市民団体の発起人となり、仕事とNGO活動の二足のわらじをはくようになった。そこに入ってきたのが、吉成さん同様、企業とNGOの両方で休む間もなく働いていた友人の突然死という衝撃的なニュースだった。
 「人目もはばからず号泣しました。大切な友人を亡くした悲しみもありますが、いつ自分がそうなっても不思議はないと……。東京を離れることを決心したのは、これが直接のきっかけですね」
 吉成さんの胸にあったのは、自給自足しながら自然エネルギーと暮らしを学ぶ、英国の「CAT」だった。夢を実現するために選んだ場所は、大好きな宮沢賢治の故郷、岩手県。何のつてもないまま、一家そろって飛び込んだ。吉成さん、39歳のときである。

遊びながら「循環」を学ぶ場
 
 ようやく「森と風のがっこう」の開校にこぎつけたのは、岩手に移住して5年後の2001年。少し前に廃校になった山の分校が見つかったのだ。
「裏に森があり、森との間に小川が流れ、反対側には広々とした牧草地。そして、廃校前からあったというブルートレインを利用した図書館……。いろいろ場所を探しましたが、ここを見たとたん、一目ぼれしました」
 開校したとはいえ、吉成さん自身は縁あって岩手県立児童館「いわて子どもの森」の館長となり、またもや二足のわらじ生活。2010年、子どもの森館長を退職し、いよいよ「森と風のがっこう」だけに力を注げるようになった。
 がっこうのテーマは、「循環」だ。畑の作物から命をいただき、残飯は鶏のエサにし、排泄物はバイオガスや肥料となる……。この命の循環を、畑をつくったり、収穫物で料理をしたりしながら、遊び感覚で子どもたちに知ってもらう。土日や夏休みなどに、さまざまなイベントをおこない、地元・葛巻(くずまき)町はもちろん、県内県外の学校やフリースクール、被災地などの子どもたちが集まってくる。
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廃校前から図書館として使用されていたブルートレイン
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誰でも気軽にがっこう見学ができるように、道路ぎわに手づくりで建てた「カフェ森風」。たくさんの絵本が並び、子どもたちだけでなく、地元の人たちの憩いの場にもなっている。円内は看板

 
 吉成さんは指導をするのではなく、子どもたちの自主的な行動にまかせ、みんなと一緒に遊びまくる。森のなかにクラブ(ディスコ)らしきものをつくり、太陽光パネルで蓄電した電気を使ったミラーボールのもと、子どもたちと大はしゃぎしたこともある。植物の茎でタバコを吸うマネをする子どもに、大笑いする。だから吉成さんは、「おんちゃん」や「ミミズ校長」という愛称で、多くの子どもたちから慕われているのだ。
 吉成さんがいま注目しているのは、森だ。森づくり体験や、森のなかで絵本を読むイベントなどを実施しているが、一歩進めて、「子どもたちのための自然エネルギーテーマパーク」を企画した。環境が見える%W示オブジェを校舎や森に設置、森の動物たちに導かれながら、コンポストトイレや太陽光パネルを訪ねていくと、これからの世界で大事なことがわかってくるというストーリーで、2013年春に完成の予定だ。
「知識として知るだけでなく、遊びとして体験すると、自然や環境に対する見方や考え方が変わる。そこが大切なんです。誰も教えなくても、子どもたちは太陽光パネルをちゃんと太陽の方向に動かします。そういう体験を、もっともっと多くの子どもたちに味わってほしいのです」
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電気は太陽光パネルですべて自給、コンポストトイレの汚物は最終的に作物の栄養源に――エコを追求したモデルキャビン。宿泊施設として使用している
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2013年完成予定の自然エネルギーテーマパークは、写真のような森の動物たちのオブジェに導かれて小さな旅をする仕組み
CONTENTS
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コンテンツ
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 燒リ晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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