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わが街の環境マイスター ニッポンバラタナゴの楽園を守る
加納義彦さん
NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会代表理事

農業の衰退とともに生息場所を失いつつある希少魚ニッポンバラタナゴ。その保護は、特異な生態を明らかにすることから始まった。


ため池の水質を保つドビ流しの効果
 
 大阪府八尾市高安地域には、約400のため池が散在する。そのうち15ほどのため池に、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧TA類に指定されるニッポンバラタナゴが生息している。加納さんが地元の人たちと1998年に設立した「ニッポンバラタナゴ高安研究会」(以下「研究会」)が中心となって保護し、絶滅を食い止めているからだ。
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婚姻色の出たニッポンバラタナゴ。左下がドブガイ
 
「最初にニッポンバラタナゴの調査を思い立ったのは80年代半ば、理科教師として勤めていた大阪市内の高校の生物クラブの活動がきっかけでした。淀川のワンドの水を干し上げるのに立ち会ったら、バラタナゴがたくさんいました。それらはみなタイリクバラタナゴとの雑種でしたが、純系なら八尾市のため池に残っていると聞いて、ため池の生態調査を始めたのです」
 バラタナゴは、繁殖期になるとオスがバラ色の婚姻色に染まるため、その名がある。在来種のニッポンバラタナゴは、四国と九州の一部のほかには八尾市にしか残っていない。なぜか。 「八尾の場合、300年前におこなわれた大和川のつけかえ工事で、淀川水系から切り離され、閉鎖されたのが、雑種化しなかった要因の一つだと思います。それに、八尾のため池は比較的小さく、釣り目的でブルーギルやブラックバスを放流される被害にも遭いにくかったのでしょう」
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大阪経済法科大学構内にある保護池の前で。ここは2006年から毎年ドビ流しを実施してきた。

 
 ニッポンバラタナゴは、ドブガイという二枚貝に卵を産みつける。卵はドブガイのエラの中で成長し、体長7mmぐらいになったときに出水管から泳ぎ出てくる。いっぽう、ドブガイの幼生はヨシノボリなどの魚のヒレに寄生する。つまり、ニッポンバラタナゴは、ドブガイとヨシノボリがいる環境でなければ繁殖できないのだ。この地方では、農閑期にため池の底樋を抜いてヘドロを流す、いわゆる池干しを「ドビ(土樋)流し」と呼ぶ。明治時代につくられた樋が土管でできていたからだ。ため池の水を浄化すると同時に、ヘドロのほうは肥料として田畑に入れる、合理的な仕組みだ。しかし、ドビ流しが定期的におこなわれていたのは、戦後10年ぐらいまでのことで、米農家が減るにつれ、ため池は放置されてヘドロがたまり、水質は悪化の一途をたどった。
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眼下に大阪の町を望む高安地区。花卉(かき)と造園が地場産業だ
 
「自然に任せないで、ニッポンバラタナゴを保護する池が必要だ、ということになり、研究会を立ち上げた翌99年に、地主さんの協力を得て最初の保護池をつくりました。大雨のときに土砂で埋もれたままになっていたため池を復元したのです。太陽光発電による水の浄化装置を取り付けましたが、2年目にはアオコが発生して、ドブガイが繁殖しなくなった。そこで、改修工事をして樋をつくることにした。その際、干してあったヘドロを入れたところ、貝が爆発的に繁殖したのです。結局、ドビ流しの効果は水質の浄化だけではなく、ヘドロを天日干しすることによって、稚貝の食べる珪藻類が発生しやすくなる、ということがわかったのです。山土を入れるのも同じ効果があります」
 2004年、研究会はNPO法人の認証を受ける。長年の試行錯誤によって、ため池におけるタナゴ類の繁殖方法はほぼ確立することができた。これまでのノウハウを生かして、学校ビオトープづくりにも積極的にかかわっている。2006年からは、ため池の水位を安定させるべく、保護池に流れ込む小川の上流にある森林で、下草を刈ったり、土留めをつくったりする作業にも乗り出した。

地域が再生しなければ保護はできない
 
 いま、研究会が管理している保護池は5つ。ニッポンバラタナゴはもともと繁殖力の強い魚で、かつては池干しのたびにほとんど池の外に流れてしまっても、池の溜まりの中に一部残っているだけで、翌年はまた万単位まで増えた。しかし、農薬の汚染や、外来魚の食害に遭えば、ひとつの池の魚が絶滅することもある。そう考えると、現在の保護池の数では心もとない。少なくとも20から30の池が必要だという。
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背後の池は第4号保護池。小さい池のほうがタナゴが繁殖しやすい

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上=ドビ流しの日は、まず生き物を回収してから、中央の樋を抜く。右=ため池での生物調査は地元の小中学校の環境教育にもなっている
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「5つの池を管理するだけでもけっこう大変で、本当は毎年池干しをしたいけれど、2〜3年に1回しかできません。10カ所以上になったら、私たちが管理するというより、池の持ち主が自主的に池干しをするような形にならないと無理でしょう。そのためには、池干しをすれば経済的にプラスになるような仕組みをつくらないといけない。つまり、地域経済を再生しなければ保護はできない、ということなのです。ため池の水を使って無農薬米を育て、付加価値をつけて売るとか、アオコが肥料にならないかとか、アイデアはいろいろ湧きますが、経済的に成り立つまでの道のりは遠いです」
 だが、希望はある。加納さんが指導した高校の生物部は、いまや学校きっての人気クラブになり、毎年、多くの生徒が調査にため池を訪れる。今年から教授を務める大学でも、若者たちが保護池での活動に参加している。ニッポンバラタナゴの貴重さを知る彼らが、ため池の環境を守る頼もしい応援団として、夢を引き継ぐ日がやがて来るだろう。
CONTENTS
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コンテンツ
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 燒リ晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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