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わが街の環境マイスター 魚食復活をめざし、本日も全力疾走
上田勝彦さん
魚食復興集団 Re-Fish代表

「魚食の伝道師・ウエカツ水産」としてマスコミでも引っ張りだこの上田さん。型破りの水産官僚はいかにして生まれたのか?


漁師の声を行政の場へ
 
 海の近くで生まれ育ったわけではないのに、小さい頃から魚の世界に惹かれていたという。
「空気中とはまったく異なる、水の中の生き物の不思議さに引き込まれたんです。魚のことが学べる大学があると知って、行ってみたいなと思ったのは中学の頃でした」
 初志貫徹で長崎大学の水産学部に進み、在学中に縁あって漁船で働き始めた。しかし、卒業後も漁師として働くつもりだった青年には、厳しい現実が待っていた。
「僕が働いていたのは大型のシイラ船で、シイラ漁には5人は必要なんです。ところが、高齢化で1人脱け、2人脱け、最後は船長と2人になり、船を小型化せざるをえなくなりました。それだと2世帯は食えないわけです」
 この先の進路を仲間に相談したところ、「せっかく学校出たんだし、中央に行ってみんか」と勧められた。一念発起した上田さんは、国家公務員試験に挑戦して見事合格し、水産庁に勤務することになった。
 やがて、さまざまな現場に出向し、次第に本領を発揮。中でも、現在のウエカツ流活動の礎を築いたのが、鳥取県の境港での「資源管理」の仕事だった。このまま捕り続けると底をつくベニズワイガニの漁獲量をどう回復するかを漁業者と話し合って調整する、むずかしい役目だ。
「漁業者にすれば生活がかかっていますから、漁獲制限がすんなり通るわけがない。ぎりぎりの議論の中で、船を減らす、休漁日数を増やす、漁網の目を大きくするなど、多くの選択肢を出し、一緒に方法を考えていく。資源管理というのは、要は漁業者の我慢に支えられているんです」
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Re-Fishが浦安で開催したイベントの様子。
会場では多種多様な海の幸(左)が振舞われた

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2013年6月に築地場外市場に開店した「Re-Fish食堂」。
日本全国の魚と調理法を伝える情報発信の場だ
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境港時代、イベントでベニズワイガニの魅力を伝える上田さんと仲間たち。現在の活動の原点がここにある
 
 がんばって辛抱してくれる現場の心が折れないように何をすべきか。考えた末、上田さんは毎月、大量のカニを買い込んでは大鍋に湯を沸かし、自宅の庭先でゆで始めた。ベニズワイガニはとかく高級品のズワイガニと比較され、鮮度落ちが早く、大半が加工品になってしまううえ、新鮮なものでもゆでるか味噌汁ぐらいしか使い途がないと、二級品扱いされてきた。だが、もっと食材としての可能性が広がれば、多少高くても売れるし、それが漁業者の励みにもつながると考えたからだ。
 その結果、深海に住むベニズワイガニはミソ部分に脂分が多いため、ゆでても固まりにくく、ミソが固まるまでゆでると、身がパサパサになることがわかった。そこで、ミソと胴体、脚は別々にゆで、かつ解体してゆでることで旨みが逃げぬよう、最適な塩分濃度とゆで時間を追究。加えて、素材の味を損なわないレシピも20種類ほど開発した。
 型破りな官僚の並々ならぬ孤軍奮闘ぶりを知り、まず2人のカニカゴ漁の船主が実験に協力してくれるようになった。年を追うごとに協力者の輪は広がり、鮮魚店、仲買、加工業者、飲食店、漁協など、皆が力を合わせ、試食会やイベントの開催も実現した。それを地元のケーブルテレビが取り上げ、しだいに全国ネットでも紹介されるに至ったのだ。
「資源管理とは漁師だけではなく地域全体の問題で、末端の消費者までつながっているんです。僕がいま全国展開している活動は、境港でやったことの拡大版のようなものです」

日本の食は魚中心が合理的
 
 上田さんは現在、漁業関係者、消費者団体、飲食店、教育機関などから依頼を受け、講演や料理教室を実施、魚ごとに異なる「活け締め」による鮮度保持の技法まで教えている。
 一方、境港の経験から、もっと魚を食べてもらえる活動がしたいと、異業種有志のメンバーを集めて「水産の復興を考える会」を立ち上げ、「Re-fish」を合い言葉に、さまざまな魚食推進活動も展開中だ。
「もともと魚は水の中の生き物だから、決して身近なものじゃないんです。外食ではけっこう魚を食べるのに家で食べなくなったのは、当たり前に売ってきた時代が長かったために、伝え方がわからなくなってしまったことが一因ではないかと思う」
 なぜ、そこまで魚食を進めるのか。
「島国の日本は狭い国土のわりに長い海岸線を持ち、食べられる海産物は500種類もある。食の中心に魚を持ってくるのが合理的であり、むしろ中心にしないとマズい国なんです。しかも、魚を食べると、米と野菜が自動的についてくる。熱いごはんと一緒にうまい魚を食ったときの感動は肉にはない」
 私たちが魚を食べ、適度な漁獲が継続することは、食物連鎖の輪をつなぎ、沿岸域の環境保全に貢献することにもなる。上田さんは官民が衆知を結集する「東京湾再生官民連携フォーラム」でも江戸前ブランドをPRするチームの座長を務めている。
 あまりの多忙さに、去年は依頼を受けすぎたと反省する上田さん。でも、魚食の伝道師の来訪を待ち望む全国からの声はやみそうもない。
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毎年年末には浦安魚市場にある魚食推進仲間の鮮魚店「泉銀」を手伝い、店頭に立つ
CONTENTS
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コンテンツ
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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