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わが街の環境マイスター 東北に国産材のサイクルを築く
大場隆博さん
NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク副理事長

安価な輸入材が幅をきかせる日本。東北の豊かな森を資源として活かす道はないのか ── 林業のプロが立ち上がった。


森の国なのに木材を輸入
 
 初夏、山肌の雪が解けて馬の形が現れることから名が付いた栗駒山。その麓に、東北の林業と森林環境保護、地域再生を語らせたら右に出る者がいないという情熱家がいる。宮城県栗原市生まれの大場隆博さんだ。本業は植林、木の伐採、製材などを一貫して行う企業の営業担当だが、その傍ら、木質ペレット燃料や国産材など森林資源の活用を通じ、持続可能な地域社会の実現を目指す「NPO法人日本の森バイオマスネットワーク」の副理事長、さらには森林保全活動や人材の育成を中心に行う「NPO法人しんりん」の理事長も務めている。
 山と川を遊び場に、林業家の父の元で育った大場さんは東京の大学を卒業後、故郷に戻り、父と同じ道を歩み出す。転機が訪れたのは環境問題について学び始めた1998年。偶然参加したセミナーで聞いたアトピーの少女の話がきっかけだった。
「原因不明の湿疹で病院をたらい回しにされていた少女が、壁紙の接着剤から出る化学物質が原因とわかり、それを改善したらよくなったというのです。人を守るはずの家が人を傷つけるのかとショックでしたね」
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地元の森を活用した循環型社会を築くのが夢だと語る大場さん

木くずを固めてつくる木質ペレット燃料
 
 一方、世界各地で森林の生態系に甚大な影響を与え、水害や土石流の要因になっているといわれる違法伐採の実態と、世界有数の木材消費国かつ木材輸入国である日本がその片棒を担いできた現実も知った。
 その後、大場さんの熱心な働きかけによって、会社は徐々に生産方式や販路をシフトし、現在では、木材を煙でいぶして乾燥させた杉板をメインに、製造・販売する全商品が防かび剤や防虫剤などの薬剤を一切用いない国産材100%を達成している。また、建材として使えないものは紙の原料となるチップに利用。さらに製材時に出る端材やおがくずは木質ペレット化し、工場内の木材乾燥炉でも燃料として使用している。
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(左)はペレット製造機の一部。加圧されながら穴を通って固まった木くず(右)が下から押し出される
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間伐した杉で製作中の椅子

 
「日本の森で年間に生長する木の総量は、木材の年間消費量を上回っています。つまり、数字上は自給できるのに、実際には国産材は値段が高いので27%しか使われず、残りは外材。国土に対する森林率も世界平均30%に対し、日本は66%もある。山がいっぱいあるのに山のない国から木を大量に買い、人の山も自分の山も荒らしている。こんな国、ないですよ」
 
 しかし、消費者が安い外材を好んで買う限り、悪循環は断ち切れない。念願のマイホームが毎年、大勢の死者を出す水害の遠因である違法伐採の木でできていると知って、心安らかな人はいないだろう。それを知らしめるには啓発や子どもの頃からの教育が不可欠だと大場さんはいう。2009年に日本の森バイオマスネットワークを立ち上げたのは、その思いがあったからだ(2年後にNPO法人化)。

目指すはオーストリア
 
 山から住宅までをつなぐシステムをつくるのが目標の大場さんにとって、本業は木を伐って使うという、いわばサイクルの半分。残り半分はいうまでもなく、木を植えて育てることで、この部分を担うのもNPOでの活動だ。
 大場さんが勤める製材所は、隣町の大崎市に「エコラの森」と名づけた約260haの広大な森を所有している。かつてはリゾート開発業者が取得していたが、バブル崩壊とともに開発計画は頓挫。債権者たちによって木が乱伐されたまま放置され、荒廃が進んでいた。数年前、産廃業者がこの森の取得に乗り出したため、見るに見かねて買い取ったものだ。目下、さまざまな企業や団体の手を借りながら、植林、下草刈り、間伐といった整備を進めている。
「日本の森バイオマスネットワークでは『キコリ講座』も開催しています。自分たちの山は自分たちで手入れする。チェーンソーを誰でも使える身近なものにしていきたい」
 間伐した小径木も無駄にはしない。乱伐で残された木の中には20年余りがたち、板材や家具材として立派に活躍できるものも増えているそうだ。
 大場さんは森林資源の活用を通じて、東北に産業と雇用を生み出したいと熱弁を振るう。
「今の東北は原材料工場にすぎません。せっかくの資源をそのまま関東に出し、関東で製品化したものをまた東北人が買うのでは、いつまでたっても潤わない。森林資源を使った完成品を外で売って、お金を地元に還元するシステムを構築しなければ。森は厄介者扱いされているけれど、見方を変えれば地元の資源であり、薪やペレットなどのバイオマスエネルギー産業を生み出す宝の山です。みんながそこに気づけば、豊かさが生まれてくるはずです。5年後10年後には、林業に就く人が尊敬され、都会で暮らすより山で暮らすほうが、裕福ではなくても豊かだといわれるような社会にしなければと思います」
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森の一部は「宮城セブンの森」としてセブン-イレブン記念財団が植樹などの整備を行っている
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エコラの森に放牧中のジャージー牛。牛が下草を食べることで木の生長が促される

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「キコリ講座」でプロからチェーンソーの使い方を学んだ参加者がイベントで間伐を行う様子
 
 林業立国と先進的なバイオマスエネルギー利用で知られるオーストリアのように、100年後200年後にも生きる森と、自立した循環型社会をつくりたいと遠大な夢を語る大場さん。聞けば、オーストリアと東北6県は人口や面積が近く、とりわけ一人当たりの森林面積はほぼ同じという。
 夢の独立国づくりに向け、いつまで東奔西走の日々が続くのかと水を向けると、こんな答えが返ってきた。
「次代にうまく引き継げなければ、夢は絵に描いた餅で終わってしまう。老後はのんびり山で薪を割って過ごしていることを願いたいですね」
CONTENTS
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コンテンツ
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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