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わが街の環境マイスター 「森のようちえん」は毎日が冒険
原淳一さん
NPO法人 アキハロハスアクション理事長

北欧で始まった「森のようちえん」。
新潟でこの野外保育を実践する青年の試みは、
自然を愛する日本人をつくる息の長い活動だ。


北欧生まれの保育方法
 
「森のようちえん」は、自然の中で保育をおこなう活動や団体を指す。1950年代に北欧で生まれ、ドイツで定着したこの活動は、近年、日本でも急速な広がりを見せ、2008年に設立された「森のようちえん全国ネットワーク」に入会する団体は現在、優に100を超える。
 その一つ、「Akiha森のようちえん」は、新潟市の秋葉公園内にある里山を拠点としている。運営を担うのは、地元の子どもたちが自然と触れ合う時間と場を増やすためのさまざまな活動を展開する「NPO法人アキハロハスアクション」。同法人の設立者であり、森のようちえんの園長を務めるのが原淳一さんだ。
 地元で生まれ、造園会社を営む両親のもとで育った原さんは、木登りをしたりカブトムシやザリガニをとったりと、自然に親しむ少年時代を過ごした。高校卒業後はいったん市内の造園会社で8年間の修業を積んでから、実家に戻って家業を継ぐ。というと仕事一辺倒のようだが、じつは高校のラグビー部では主将を務め、花園に出場。就職後も国体に出るなどラグビー三昧で、結婚して次女が生まれた28歳のとき、ようやく引退したというほどの根っからのスポーツマンなのだ。
  仕事で公園づくりなどに携わるかたわら、自ら子育てを経験する中で、原さんは次第に危機感を感じ始めた。
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子育てを通じ、遊び場不足を痛感したと語る原さん

 
「自然に触れる遊び場がなくなり、子どもの運動能力も低下している。このままでは自分の子が大人になった頃には住める環境じゃなくなるんじゃないか、自然にかかわる仕事をしている自分にできることは何だろうと真剣に考えました」
 導き出した答えは、子どもが自然に触れて遊べる場所をつくること。知識を教えることも大切だが、それ以前にまず自然に親しみ、自然を守ろうという気持ちを育むことが先決だと思い至ったのだ。
 
 そこで、有志とともに任意団体「秋葉山自遊会」を結成し、里山を子どもが遊べる場として整備する活動を始めた。市民参加の森林整備イベントを企画したり、地元中学校の授業の一環として一緒にツリーハウスを製作する一方、ツリークライミングの技術を学び、体験会も開催するなど、原さんの情熱は周囲を動かし、荒れていた里山は昔ながらの生き生きとした姿を取り戻していく。

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新潟市の委託を受け、地元小学校の授業の一環として、秋葉山でツリークライミングを指導中
 
 森のようちえんのことは知っていたが、運営するとしてももっと先だと思っていたという。ところが2009年、セブン-イレブン記念財団の「環境ボランティアリーダー海外研修」に参加して、考えが一変した。
「私の印象では、当時の日本はまだビジネスチャンスだからエコに注目し始めたという感じでしたが、環境先進国ドイツの人たちはまったく違いました。自然は大切だし、残していかねばならないと国民みんなが考えている。そういう国民性を育てる一つの象徴的な場が、森のようちえんだと思ったんです」
 一刻も早く始めるべきだと実感した原さんは、帰国したら森のようちえんをつくるとその場で宣言、2年後には有言実行で開園にこぎつけた。

親の役割は「見守り」
 
森のようちえんの運営主体や活動の実態は多種多様で、通常の幼稚園や保育園が月に数回、野外活動を採り入れているケースなども含まれるが、Akiha森のようちえんに園舎はなく、一年中、平日はほぼ毎日森の中で過ごすという通年型の本格派だ。
 実際に見学すると、子どもたちの自由奔放さ、里山全部が教室というワイルドな環境には驚かされる。高木の梢までするする登る子もいれば、木ぎれを手に遊ぶ子、喧嘩を始める子たちもいるが、スタッフは一歩距離を置いて静かに見守っている。毎日登園する道からして、ころがり落ちそうな山間の急斜面だ。
 通常の幼稚園と違って、送迎バスも給食もないが、この環境を求めて片道1時間かけても通ってくる熱心な親は着実に増え続け、現在、3〜6歳の園児は合わせて35名。
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自由に木登りを楽しむAkiha森のようちえんの女の子。大人は下から見守るのみ

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森のようちえんを卒園した小学生向けに、工作や冒険など、よりダイナミックな体験の場も提供
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基本的には年中、森で過ごす。写真は、雪の中のブランコ
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朴葉に載せたタケノコの炒め物。野外料理も各活動の楽しみの一つ


 
「よく、森のようちえんに通うとどんな効果があるかと聞かれますが、効果なんてすぐ出るものじゃないです。子どもの自主性や創造性が積み上がっていく土台をつくっているのであって、本当は親の姿勢が大事なんですよ。たとえリスクを負っても、子どもが挑戦したいという気持ちを尊重して見守る。子どもの自然に対する興味や愛着を育てるには、親の理解が不可欠です」
  小学校に進学しても自然体験を継続したいという卒園児と親のために、原さんは「森のしょうがっこう」という新しいプログラムも開始した。月2回、森のようちえんの同窓生を対象に、火おこしや野外料理、ナイフを使って木を削るなど、一歩進んだ森の中での遊びが体験できる。
 さらに、昨年4月からは全国初となる、野外をメインにした子育て支援センター「森のいえ」もオープン。主に0〜2歳の未就園児を対象に、親子で自然の中で過ごし、人や地域とのかかわりを深めながら安心して子育てできる場を提供している。
 
「本業にしてもNPOにしても、身近な自然環境をつくることが私の使命だと思っています。何とか自分の人生が終わるまでに、持てる力を総動員して、地域や子どもたちの未来に役立つものを残したいですね」
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園児から「淳さん」と慕われ、園長というより、みんなのパパだ
CONTENTS
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コンテンツ
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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