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わが街の環境マイスター 北海道から広げる自然教育ネットワーク
髙木晴光さん
NPO法人 ねおす理事長

北海道は自然を体験するのに最適の地。自然教育の草分けとして知られる高木さんも、この地の豊かな自然に魅せられて住みついた一人だ。


廃校を活かした自然学校
 
 函館と札幌のほぼ中間、渡島(おしま)半島のつけ根にある黒松内(くろまつない)町。人口約3000人、酪農と畑作が中心の広々とした農村地帯に、廃校になった小学校を利用した自然学校がある。「黒松内ぶなの森自然学校」だ。ここは、自然体験やキャンプ、大人の自然講座などを北海道内で広く展開している「NPO法人ねおす」の活動拠点のひとつ。同法人の理事長であり、黒松内ぶなの森自然学校の代表として、元教員住宅に暮らしているのが、高木晴光さんである。
 ねおすは札幌を本拠地とし、北海道内に数か所、拠点となる施設をもっているが、そのなかで唯一、黒松内町ぶなの森自然学校はねおすの直営ではない。環境省の「ふるさと自然塾構想」のモデル指定を受け、1999年に黒松内町との協働で立ち上げた施設だ。
「ねおすでは当初、札幌から近郊へ人を連れ出して活動していましたが、こちらから行くのではなく、人を呼べる拠点をつくり、それをネットワーク化したいと考えていました。その拠点探しと、国の支援、そして地域の活性化を図ろうとする黒松内町のニーズが、タイミングよく合致したんです」
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黒松内町の「生涯学習館」でもある廃校を利用した広々とした敷地には、キャンプ場や研修生などが宿泊するゲストハウスが設けられている。設立当初は札幌から通っていた高木さんは13年前から奥さんと元教員住宅に居住して活動。スタッフも元教員住宅に住む

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自然学校の活動は夏休みが最盛期。参加者の半数は本州から訪れ、北海道の夏を楽しむ
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カヌー遊びは人気プログラムのひとつ。スタッフの指導で操作方法を習得する
 
 自然学校の活動のひとつは、子どもたちを中心とした自然体験プログラムである。厳寒の冬も含め、活動は1年を通して行われるが、やはりもっとも活発なのは、夏休みだ。北海道はもとより本州からも多くの子どもたちが集まり、キャンプをしたり、近くの海でカヌーをこいだりして、自然とふれあう。
 自然学校のもうひとつ重要な目的に、次代を担う人材の育成がある。ねおすでは、大学や他団体、さらに海外からも実習生を受け入れている。実習生たちは、自由な発想で自然体験プログラムを自らつくり、それを試行錯誤しながら実行し、具体的なノウハウを学んでいく。

全国に巣立った研修生
 
 高木さんがねおすを立ち上げるまでには、紆余曲折があった。北海道大学の出身だが、生まれも育ちも千葉県船橋市である。「中学時代、家族旅行で北海道に行き、そのあまりの広さにびっくりした」。このときの感激が、北海道への憬れに結びついたという。
 しかし時は1980年代。好景気の波に乗り、大学卒業後は企業戦士として、ビジネスの最前線で戦った。「当時は自然のことなど眼中になく、年収アップをめざしてました」と、高木さんは笑う。
 何回か転職した後、札幌の大型レジャー施設開設にかかわり、オープン後は併設したスポーツクラブのマネージャーに就任。このとき、水泳教室の子どもたちを、夏にキャンプに連れ出すことも始めた。自然教室への第一歩はこのときだったかもしれない。
 転機は、バブルの崩壊とともに訪れた。リストラに直面し、自分を振り返る時間ができた。そして思い出したのが、北海道の農場を夢見た中学生時代、尾瀬のスーパー林道に反対し、自然保護の会をつくって初代会長になった高校時代……。自分の原点である自然にかかわる仕事をしたいと考えた高木さんは、専門学校でアウトドアのインストラクター育成コースをつくったり、有料の登山ガイドも始めた。そのなかで知り合った仲間と、アウトドアスクールをつくろうと立ち上げたのが、ねおすの前身「北海道自然体験学校NEOS」だった。
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厳寒の冬も北海道ならでは楽しみが
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ねおすのモットーは、「どうにかする力(りょく)」を身につけること。自分自身で困難を乗り越える力を養うことは、子供だけでなく指導するスタッフにも重要。それを学んだスタッフたちは、やがて全国へ巣立っていく

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学校の廊下には、これまでの活動記録がところ狭しと貼り出されている
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地元との交流も自然学校の役割。黒松内町から“つながり”は広がっていく


 
 高木さんの活動は、自然学校や人材育成だけでなく、エコツアー、地域交流や地域支援、ボランティアや国際ボランティアの受け入れなど、ひじょうに幅が広い。そのつながりはいま、さらに飛躍しようとしている。北海道に誕生する予定の大型国際ネイチャーリゾート事業や、認知症の治療・療養のための森林浴を行う、〝病院林〟づくりにもかかわるようになったのである。
 活動範囲がどんどん広がるなか、ねおすで実習を受けた卒業生も、すでに100人を数え、日本各地で独自の活躍をしている。
「ぼくのこれからの役目は、関連した多くの活動や人材を紡いでいくことかな。それぞれがもつ個性や特徴を尊重しながら、それをネットワークで繋いでいく。ぼくは、〝銀河ネットワーク構想〟と呼んでいるんです」
 
 その構想が具体的な形をとるのは2015年。関連の各種活動団体のネットワーク化をめざし、それらの団体が構成員となる「一般社団法人ねおす」を始動させるのだ。
 田舎暮らしに憬れ、長年住み慣れた札幌を離れ、家族と一緒に黒松内に移住して13年がたつ。当初は人づきあいなどにとまどうことはあったが、すでに高木さんの根っこはどっしりこの地におろされている。社団法人化しても黒松内にとどまり、北海道はもとより日本全国、そして世界へと、自然とのかかわり方を発信するつもりだ。
CONTENTS
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コンテンツ
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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