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わが街の環境マイスター カメラに託した「水」への熱き思い
豊田 直之さん
写真家

あるときは水源の森へ、あるときは海の底へ ──「水」を追求する写真家のもう一つの顔は、海と山をつなぐ水の循環を考えるNPO法人の理事長だ。


釣りから始まった水への興味
 
 今年5月から6月にかけて、東京・品川で水中写真家・豊田直之さんの写真展が開かれた。展示されたのは、川の源流の湧き水から海底まで、姿を変えながら循環する水をとらえた写真で、1点1点から水の美しさ、大切さが伝わってくる。
 じつは豊田さんには、もう一つの顔がある。NPO法人「海の森・山の森事務局」の理事長として、山の森からサンゴや海藻が形づくる海の森へと、水がつなぐ自然の尊さを広く伝える活動をおこなっているのだ。
 横浜市生まれの豊田さんは小学生の頃、叔父に連れられ、よく近海に釣りに出かけたという。その後、しばらく海から遠ざかっていたが、魚への興味が再燃したのは、友人と釣りに行くようになった中学2年のときだった。
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手にしているのは、ハウジングと呼ばれる防水ケース入りの愛機

 
「クロダイを狙ったんですが、なかなか釣れない。水泳部にいたこともあって、下手で釣れないのか、狙った場所にいないのか確かめてみようと思って初めて海に潜ったら、クロダイはいた。下手くそだから釣れなかったわけです(笑)」
 魚の生態への関心を深めた少年は、やがて東京水産大学へ進学し、漁船のレーダーや魚群探知機をつくるメーカーに就職。仕事自体はおもしろかったが、一生、会社員を続けることに疑問を感じ、後先も考えず4年で退職するや、漁師になろうと伊豆で島暮らしを始めた。が、2年で挫折し、次は釣り雑誌のライターに転向する。
 「ところが、いくら写真家に注文をつけても、自分のイメージに合った写真にならない。いっそ自分で撮ったほうが早いのではと、28歳で初めて一眼レフを買ったんですが、素人がすぐ思いどおりの写真が撮れるほど甘い世界ではありませんでした」
 
 そんなある日、居酒屋で偶然、水中写真家の中村征夫さんに出会う。専門学校に行ったほうがいいかと相談したところ、近々アシスタントを募集するから来てみるかと誘われた。後日いそいそと事務所に作品を持参したら、中村さんが自信作に目を留めた。長崎の男女群島という絶海の孤島に取材に行ったときの写真で、奇岩の間から朝日が昇る瞬間をとらえたものだ。内心やったと思いつつ、どうやって撮ったか聞かれ、岩の上に布を敷いて望遠レンズを装着したカメラを載せて撮ったと答えたところ、10倍のルーペで見てみろ、ぶれているぞと指摘された。
「一生に一度行けるかどうかわからない場所で貴重な瞬間を、三脚も据えないような雑な撮り方したらダメじゃないか、二度と来ない一瞬をとらえるのが撮影なんだ、と。凹(へこ)みましたね。すごすご帰ろうとしたら、『明日から来てくれるんだろ』と言われたんです」

五感で楽しむビジュアルコンサート
 
 中村さんのもとで2年半修業したあと、豊田さんは独立した。仕事が増えるにつれ、撮りためた海の生き物の写真を生かす方法はないかと思案するようになった。考えついたのが、映像と音楽のコラボレーションによる「ビジュアルコンサート」という手法だ。写真だけでなく、新たな動画も加え、音楽は画像に合わせて作曲家にオリジナル曲を依頼し、プロに演奏してもらう。テーマは「水の輪廻」。これなら単に海の生き物を紹介するだけにとどまらず、五感で楽しみながら、老若男女に水の大切さに気づいてもらえるのではと思った。
 手始めに40名参加のコンサートを開いたところ、好評で、回を追うごとに観客動員数が増え、800名規模のコンサートを開催するまでに発展。とても個人で運営できるレベルではなくなったため、NPO法人の設立に至ったというわけだ。
 いまや撮影とNPO法人の運営は、豊田さんにとって車の両輪。昨年はセブン-イレブン記念財団が実施する環境ボランティアリーダーの海外研修に参加して、ドイツの環境意識の高さを学んだ。活動が広がるにつれて、日本の水資源の豊かさと、その恩恵を受ける日本人の意識の低さを痛感すると豊田さんは語る。
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多様な水の姿をとらえた写真79点が一堂に会した会場にて
 
「上流では透明度70mもある水が、人間が住むエリアを通過した途端、濁って汚い水になって海に流れ出る。もしきれいなまま海まで至れば、飲み水もおいしくなり、海からの恵みも豊かになり、田んぼや作物にもいい影響が出る。いいことも悪いこともみな私たちに戻ってくるんです」
 最近では、イベントやフェイスブックを通じ、プラスチック系のごみを出さないようにしようという呼びかけやごみ拾いの活動も推進中だ。
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3点とも豊田さんの作品。これは海につながる湧き水の「最初の一滴」
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西表島で撮影したマングローブの芽。海水の中でたくましく生き抜く
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丹沢の水深約5mのダム底から水面越しに見た、燃えるような紅葉


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今回の展覧会中に開かれた「ビジュアルコンサート&デジタル紙芝居」の様子。読み語りや演奏と、作品のスライドショーが並行して行われた
 
 「湘南で上がったアオウミガメのお腹から出てきた、スーパーのカゴ1杯分ぐらいのいろんなごみを見たことがあります。毎朝、犬の散歩がてらごみを拾うと、レジ袋やおにぎり、パンの包装紙、タバコのパッケージフィルムなど、ものすごい量が落ちている。捨てる人は最終的にごみがどこへ行き、どんな影響を及ぼすのか、想像もしていないんですよ」
 それでも、地道に活動を続けることによって、数十年後には目に見えて海を漂うごみが減ることにつながっていけばいい、と豊田さん。
「日本の里山、里海が本来の自然を取り戻し、あちこちでウミガメが産卵し、水中にはサンゴの森がある、日本中の海をそんな竜宮城のような海にしたいですね」
CONTENTS
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コンテンツ
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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