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わが街の環境マイスター 日本型の環境教育を求めて
新田 章伸さん
NPO法人 里山倶楽部副代表理事

夢を追いかけて会社を飛び出して以来、欧米のモノマネではない環境教育のあり方を追求してきた。「里山キッズクラブ」はその実践の場だ。


従来型のキャンプにあきたらず
 
奈良との県境に近い大阪府河南町の山あいの民家に、月に一度、20人ほどの子供たちが集まる。野菜を作り、田植えをし、森や竹林に入り、収穫したものを食べ、野山で遊び、ドラム缶風呂にも入る――1年を通じて同じメンバーが顔を合わせ、季節ごとの里山の暮らしを一緒に体験する魅力的なプログラムだ。新田章伸さんが、NPO法人里山倶楽部の事業としてこの「里山キッズクラブ」を立ち上げたのは、いまから12年前のことだった。
「ふだんは町に住むご夫婦が、農作業や法事のときだけ帰ってくる築150年の家を提供してくれたばかりか、自ら活動にも参加してくれました。いまの子供たちは洋風の生活しか知りませんから、初めてここへ来ると、『わー畳だ!』『わー縁側だ!』と大騒ぎです」
 里山倶楽部は、有機農法家として知られる故・久門太郎兵衛氏が会長を務めていた団体で、1995年に設立された。新田さんがかかわりを持ち始めたのは創立2年目の頃。40歳を前に、人生の大きな転機を迎えていた。
「当時、お菓子メーカーの江崎グリコに勤めていました。もともとキャンプがやりたくて、京都の大学時代は子供たちのキャンプの指導をするサークルに所属していたのですが、卒業後は、残念ながらキャンプでは食べていけない。せめて子供に関係のある仕事をしようと、グリコに入社したのです」
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里山倶楽部の活動拠点の一つとなっている元会長・久門太郎兵衛氏の旧宅で

 
 人事部時代は「カリスマ人事マン」の異名をとるほど意外な適性を発揮したが、やがて花形部署であるお菓子の開発企画部に異動、店頭に並ぶ数々の商品の企画に携わった。やりがいのある仕事だったが、子供たちと直接触れ合えないのが寂しくもあり、塾を開いた友人の求めに応じて、休日に子供たちをキャンプに連れていくようになった。とはいえ、キャンプの現場を離れて10年ほどたっており、活動のネタも切れがちに。そんなとき紹介されたのが、里山倶楽部だった。
「そこでは山で木を伐って炭を売ったり、野菜を作ったり、生産・消費に直接かかわる活動をしていたのです。キャンプ場でするキャンプでは得られないものがありました」
 その頃、触発された一冊の本がある。日本の自然体験の最先端の事例が詰まった『自然の学校』という本で、そこに登場するリーダーたちの話を聴きたいと、週末ごとに各地を訪ね歩く生活が始まった。キャンプの指導も続けていたため、どうにも休日が足りない。会社員との両立は限界を迎え、ついに退職を決意した。
 
「その年たまたま、日本環境教育フォーラム(JEEF)が自然学校のプロを養成する講座を開いたのは、まさに天祐でした。その講師陣こそ、自分が話を聴きにいきたいと思っていた人々だったので」
 セブン-イレブン記念財団の第1回海外研修に参加し、環境活動先進国オーストラリアを視察したのも、大きな収穫になった。
「日本と欧米の自然観の違いについて考えさせられました。あちらでは環境活動の多くは法律を作るためのロビー活動や募金活動であって、日本のように直接山に入って木を伐ったりすることではないのです。広大な国土を守るにはそのほうが効果的だったのでしょうね。欧米の環境教育には学ぶべきことがたくさんありますが、それをそのまま日本に持ち込んでも役に立たない。日本の自然や文化に合った環境教育を自分たちでつくりあげなければ――そう思ったとき、最適の場がごく身近にあることに気がつきました。それが里山だったのです」
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子供たちが田植えから稲刈りまでを体験する田んぼの前で。新田さんの愛称は「ポッキー」。グリコ時代の名残だ

自然と一体で生きる日本人
 
 心機一転、本格的に里山倶楽部の運営にかかわり始めた新田さんは、倶楽部初の試みとなる子供だけを対象にした事業、キッズクラブに取り組んだ。無我夢中で打ち込んだが、イベントに追われていると、ついつい何のためにやっているのか見えなくなることがある。そこで新田さんは、「日本的自然観実践研究会」を作り、活動の背骨となる理論を構築することにした。
「欧米では、自然というのは人間が保護する対象であったり、開発する対象であったりしますが、日本人にとっては自然と人間は一体のものです。自然すなわち『おのずからしかる』、自然体でいることが日本人の理想の生き方なのだと思います。人智を超えたものに対する畏敬の念、和を尊ぶ精神、もののあわれを感じる繊細さ……すべて『自然(じねん)』から発している。山や川があり、田畑があり、村があって、人と自然が一体となっている里山こそ、それが学べる場なのです。子供たちのほとんどは、この先ずっと町や都会で暮らすでしょう。でもそれでいいのです。自然体で生きるとはどういう感覚なのかがわかれば、どこで暮らしてもそれを実践することができますから」
 
近頃、小学生は習い事で忙しく、高学年になるまで継続してキッズクラブに参加できる子は減ってきている。しかし新田さんは信じている。里山での体験がいつの日か彼らの中で確実に実を結ぶ日が来るのを。
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キッズクラブの拠点として借りている民家。古民家だったが6年前に火事で焼け、家主さんを助けて再建した。右は庭に設けたかまど
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キッズクラブの活動は今年第12期。年12回の活動のうち、3回は泊まりがけ。親は参加せず、子供の主体性を尊重している
CONTENTS
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コンテンツ
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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