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わが街の環境マイスター 生ごみの堆肥化で循環社会を創る
たいら由以子さん
NPO法人 循環生活研究所理事長

ダンボール箱の中で生ごみを分解、熟成させ、できた堆肥で作物を育て、地域で消費する──「循環生活」というライフスタイルの提案が各地で反響を呼んでいる。


半径2kmの循環社会
 
 循生研(じゅんなまけん)(循環生活研究所)の運営する8カ所の菜園のうちの一つ、福岡県東区蒲田の畑。強い日差しの下、ナス、ピーマン、トマト、シシトウ、畝にはスイカ、カボチャ……色鮮やかで見事な夏野菜が実っている。ここで使われる堆肥は、市民がダンボールコンポストで作ったものだ。
 各家庭から出される燃えるごみの約40%は、じつは食事作りで出る生ごみ。それらは人手をかけて収集され、焼却処分されるが、そのエネルギーコストは、都市化が進めば進むほど高くなる。人口密度に比例してごみの量が増えるからだ。
 
 生ごみを堆肥化=資源化し、それを肥料に作物を育て、地域で消費すれば、ごみは減量され、コストはぐんと低減する。省エネにつながるばかりか、地域の住民たちは安全で栄養バランスのよい野菜が手に入る。健康の維持は医療費を軽減させる――「循環生活」と呼ぶたいらさんの提案の先には、安全で豊かな暮らしのできる地域社会作りがある。暮らしと食をつなぐ循環の輪は、ご近所さんの顔が見える、半径2kmほどが理想だと、たいらさんはいう。
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博多湾の人工島にあるコミュニティガーデン。「この土も何年かすると真っ黒になるんです」
 
「主婦が自転車で移動できる生活圏であること、それに都市近郊でお年寄りの買い物難民が増えているという現実を考えると、2kmというのは、住民のコミュニケーションや輸送コストを含めて効率がちょうどよいサークルなんです。全国に地域の特色を活かした小さな輪が広がっていくと嬉しいですね」
 なぜ活動の大本が堆肥作り、それもダンボール箱のコンポストだったのか――21年前、末期がんで余命3カ月と宣告されたお父さんの看病が動機になった。結婚して大阪で暮らしていたたいらさんは帰福、栄養士の資格を持っていたこともあって、日々の食べ物から父親の体質を改善しようと、安全な水と無農薬野菜を探し歩いた。だが、これはというものが見つからない。近年、作物を育てる土の力が衰えていることを知った。幸い食事療法の甲斐あって、父親は2年の延命の後、安らかに息をひきとったという。
「よい土は水を浄化し、抗酸化作用の高い作物を育てます。なにより病んでいる土を変えたかったのが堆肥に行き着いた理由です」
 
 このとき役に立ったのが、長年、自宅の庭木の手入れをつづけてきた、たいらさんのお母さんの経験だった。海岸のそばだったため、植物の育ちが悪い。生ごみや雑草、剪定枝で堆肥を作ったが、なかなか思うようなものが出来ない。あるとき、材料をダンボール箱に移し、しばらくたって開けてみたら、なんと、きれいな堆肥ができているではないか。以来改良を重ねて完成したのが、誰でも堆肥が作れる、現在のダンボールコンポストである。
 堆肥作りの基材は、籾殻(もみがら)の燻炭と椰子殻(やしがら)のチップを混ぜたもの。その中に、野菜くず、卵の殻、魚のアラ、肉の骨など、家庭から出る生ごみを入れれば、貝殻以外はバクテリアが分解して土にしてくれる。ダンボールは自然素材だから水分調整も簡単。ベランダでも日当たりと風通しさえよければ、ふっかふかの堆肥ができる。
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主婦が手軽にできると口コミで広がったダンボールコンポスト。堆肥ができるのは約3カ月後だ
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気をつけたいのが虫の侵入。アブが卵を産んだりしないよう防虫キャップをかぶせる

新たな拠点作りがスタート
 
 たいらさんが、生ごみを資源化し地域で循環させるという取り組みを始めて20年。堆肥作りから菜園作りまでが学べる講座、週末農業で野菜の自給自足を目指す「半農都会人養成講座」、さらにはダンボールコンポストアドバイザーの養成講座と、循生研の啓発活動は多岐にわたる。ダンボールコンポストによる堆肥作りは、ベトナムやインドネシアなどアジア各地に広がった。生ごみ堆肥を使って育てた野菜を販売する「小さな循環ファーム」事業が、2012年、「ふくおか地域づくり活動賞・グランプリ」に輝くなど、行政の評価も高まった。
 たいらさんがいま力を入れているのが、博多湾に作られた人工島・アイランドシティで、市と計画して始めた農園(コミュニティガーデン)の運営とサポートである。土地は島の住宅開発を手がける積水ハウスに提供してもらった。市民だけではなく、大学、公民館、幼稚園、保育園がこの農園の区画を借り、堆肥作りと野菜作りをとおして環境学習に取り組んでもらおうという試みだ。ここには、海藻のアオサと松葉を堆肥化する木枠のコンポストがある。
 
「ここは和白(わじろ)干潟に面していて、環境の良いところですが、生活排水が原因でアオサが異常発生し、ひどい悪臭を放つことがある。だったら、それらを回収して堆肥化することで、悪臭は緩和されるはずだと。もう一つ、この一帯はかつて白砂青松の美しい浜でしたが、人が入らなくなってから松枯れが始まった。それなら松葉も活用して堆肥を作ろうかと」
 ある幼稚園では、子供たちがこの農園で育てた大根で、切り干し大根を作るという授業を始めた。ある大学生のグループは、柚子胡椒を販売したい、と青唐辛子を作付けした。焼酎作りのためのサツマイモの収穫も近い――たいらさんはこの農園を資源循環=自給自足の拠点にしたいと考える。そして、「ゆくゆくは、病院などと連携して、地域の人たちの健康増進やリハビリの仕組みも作りたい」という。人と環境にやさしい循環社会の構築に向けて、たいらさんのさらなる挑戦はつづく。
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コンポストの考案者、波多野さん。驚くほどの収穫量を見て、農家も堆肥の威力に脱帽するという
CONTENTS
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コンテンツ
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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