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わが街の環境マイスター 企業経営で培った組織のマネジメント
秋山 孝二さん
認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク理事長事

北海道のダイナミックな自然は、多くの市民団体や研究者の努力によって維持されている。その陰に、それぞれを有機的に結びつける中間支援組織の活動があった。


社会貢献という第二の人生
 
 認定NPO法人北海道市民環境ネットワーク(通称「きたネット」)は、北海道で160を超える会員をつなぐ中間支援組織だ。8年前にその理事長に就任した秋山さんは、意外なことに環境団体の長でもなければ、環境団体に所属して活動した経験もなかった。長年にわたって企業の経営に携わってきた、ある意味で異色の理事長である。
「先祖が明治時代に札幌で創業した秋山愛生舘という医薬品卸売会社の、5代目の社長が私でした。当初、教育者になりたくて、大学を出たあと東京の区立中学校に赴任したのですが、数年後に札幌に呼び戻されまして。4代目社長だった伯母のもとで経営を学び、1992年、41歳のとき社長を引き継ぎました」
 会社は札幌と東京の証券取引所に上場を果たし、医薬品卸売大手のスズケンと合併。秋山さんはスズケンの副社長を5年近く務めたあと2002年に退職、社会貢献という第二の人生を歩み始める。その本拠地になったのが、秋山記念生命科学振興財団である。この公益財団法人は87年、地域貢献を社是とした秋山愛生舘の創立100周年を記念して、地元北海道の研究者を支援するために設立されたもの。秋山さんは社長在任中から、その理事長を兼ねていた。
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北海道に生まれ育った秋山さんの夢は、分野横断的に北海道を考える「北海道学」の探究だ
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かつて秋山愛生舘の本社が置かれていた愛生舘ビル。いまは5階に、きたネットの事務局がある

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2008年の洞爺湖サミットに先立ち、首相官邸を訪れたNGOの代表たち(左から2人目が秋山さん)
 
「秋山財団では研究助成のほかに、04年から社会貢献活動助成を始めました。それで気がついたのは、市民活動というものが団体ごとに別々におこなわれていて、横の連携がほとんどないという現実です。たとえば同じ林業系でも、国有林関係者の団体と、一般市民の団体では、隣り合っていても付き合いがない。大学の研究者のほうがまだ共同研究というかたちで連携する土壌があるくらいです。個々の団体を支援するより、むしろネットワーク化を支援する事業が必要なのではないかと思い、08年に秋山財団でネットワーク形成活動助成を始めました」
 折しも08年は洞爺湖サミットの年。世界的に環境問題に対する関心が高まっていた。サミットの開催地では、時を同じくして世界中のNGOが集結して市民サミットが開催される。秋山さんは北海道の80のNGOからなる「市民フォーラム北海道」の3人の共同代表の一人として、開会の挨拶から報告会まで奔走した。

北海道を世界の中でとらえ直す
 
 きたネットから次の理事長就任を打診されたのは、洞爺湖サミットの翌年早々のことだった。
「私は環境活動にはズブの素人でしたが、組織のマネジメントにはいささかの経験があるので、その辺を買われたのだと思って、引き受けることにしました」
 理事長に就任して、市民活動の世界の常識が、慣れ親しんだビジネスの世界とはまったく違うことに驚かされた。
「企業と市民活動では、信じる神様が違うくらいの価値観の違いを感じました。たとえば、会議の開始時刻一つとっても、企業ならば1分の遅れも考えられない。市民活動のほうは1時間遅れても許され、そのかわり延々といつまでもやっている。一事が万事その調子です。たしかに、市民活動は別の本業を持ちながらやっている人が多いので、そのユルさも仕方ない面がある。両方の価値観を理解しないと、企業とNPO、NGOがコラボレーションするのは難しい」
 その意味で、こだわっているのは、市民活動ではあまり聞かない「中期計画」だ。単年度の計画とは別に、向こう3年先、5年先の目標を設定すれば、そこに到達するために何が必要かが見えてくる。
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「北の生物多様性を守るために」というテーマでおこなわれた「きたネットフォーラム2016」であいさつする秋山理事長
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きたネットが毎年おこなう市民活動助成セミナー。中間支援組織にとって、市民に助成制度を紹介する重要なイベントだ

 
「きたネットでは2016年に第四期中期5カ年計画を策定しました。そこでとくに意識したのは、『世界につながる北海道』というテーマです。たとえば日本ではクマといえばツキノワグマで、ヒグマのいる北海道は例外扱いです。しかし世界的に見れば、北海道はヒグマの南限なのです。北海道を都道府県の一つとしてではなく、一つの生命体が息づいている島ととらえ、その生物多様性を守るために、グローバル・ネットワークの基盤をつくる、というのがこの5年の目標です」
 北海道でもう一つ、大きな問題なのは再生可能エネルギーのマネジメントだという。たとえば木材をチップにして燃やし、発電する。規模が小さければ、木を伐り出して木材として売り、端材をチップにして発電するまでのサイクルを管理できるが、規模が大きくなると、遠方から運んでくる大量のチップが、どうやって作られているのか見えなくなる。
 
「じつは、チップにするためだけに木を伐っていたりします。それでは本末転倒です。再生可能エネルギーという言葉にごまかされず、環境に負荷をかけていないかどうか目配りするのもマネジメントの仕事です」
 興味の対象や、かかわりをもつ分野が際限なく広がっていく。だが、秋山さんの中には、すべてを貫く柱のようなものがあるという。
「それは『いのち』です。思えば、秋山財団を設立したとき、まだあまり普及していない「生命科学」という名称を使いました。当時は、医学も薬学も限りなく細分化し解析することで生命に迫りましたが、昨今はむしろ、つなぐこと、統合することでわかってくることのほうが多い。やっと時代が名称に追いついたのかもしれません」
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CONTENTS
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コンテンツ
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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