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わが街の環境マイスター 付加価値の高い木材で山を元気に
藤﨑 昇さん
NPO法人 もりずむ代表理事長

間伐されることなく放置された人工林は木が弱体化し、斜面崩落などの危険を孕む。藤﨑さんが代表を務めるNPO法人もりずむは、木材の価値を向上させて販売することで地主や業者に利益をもたらし、健全な人工林の育成に寄与している。


伝統の手法「葉枯らし乾燥」
 

 三重県津市美杉町は、その名のとおり杉の森に囲まれた町だ。これらの杉の多くは、およそ70年前に植林された。戦後の復興期、住宅需要が高まり木材の価格が高騰。山間の地主たちは畑を潰し、こぞって杉や檜を植林した。しかしその後、安価な木材が輸入されるようになり、国産木材の価格は暴落。人工林はそのまま放置され、異様に細い木が密集する山となってしまった。

「間伐されることなく放置された人工林の木は根が充分に育たずひ弱です。大雨が降った際に地面を支えることができず、大災害を引き起こすおそれがあります」

もりずむの発起人、藤﨑昇さんはそう危惧する。

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町の9割を山林が占める林業の里、美杉町

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父親が建設関係の仕事に就いていたことから土木に興味を持った藤﨑さん。関心は土木の土台となる森へと移った
 

「私はかつて土木事業を手がける企業でダム建設のための調査に従事していました。日本全国の山林を見てまわるなかで、高齢となった林業従事者が『山は自分の代で終わりだ』と口にするのを耳にしたんです。林業自体が実質破綻しかけていて、そのため山は荒れ放題。これを放置していくわけにはいかないと、森を支える仕事に就くことにしました」

森林に関して特定のノウハウをもっていたわけではなかった藤﨑さんは、まずは森林組合の職員として働くことにし、美杉町へ移り住んだ。転勤族の子として育ったためさまざまな都市を見てきたが、田舎暮らしは初めての経験だった。

森林組合では、木材の需要創出のために木を使ったものづくりを推進。公園や標識づくりなどを手がけたが、大きなニーズを生み出すことはできずにいた。そのころ、現在もりずむの副理事を務める三浦妃己郎さんに出会う。三浦さんはきこりとして代々林業に携わっており、木や森に関する知識が豊富で、地主に依頼されて山の手入れや木の切り出し作業を担っていた。「葉枯らし乾燥」という時間はかかるが木材の質を向上させる手法を実践しており、藤﨑さんの関心をひいた。


 

葉枯らし乾燥とは、伐採後に葉をつけたまま丸太を3カ月から1年ほど森の中に置いて乾燥させる伝統的な木材の製法だ。幹の中のでんぷんを消費させることで、割れにくく上質な木材ができあがるが、機械乾燥が主流の現在、ほとんどおこなわれていない。

藤﨑さんはこれを材質にこだわる建築関係者に販売すれば、より大きな利益を出し、林業従事者に還元できると考えた。しかし、いろいろなしがらみのある森林組合では少々身動きしにくい。木材に付加価値をつけ、林業従事者の利益を生み出すことが健全な森の維持につながると考えた藤﨑さんは、組合を辞職し、もりずむを立ち上げた。高齢化や専門技術の継承がなされなかったことによって地主が持て余している人工林の管理のほか、木材の切り出しから販売までを請け負っている。

現在は、広報や営業を藤﨑さんが、現場の取り仕切りを三浦さんが担当する。建築用の大型の木材の販売はもちろん、端材を使ったまな板やデスクの制作なども手がけ、事業は堅調だ。

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葉枯らし乾燥の現場。葉をつけたまま乾燥させることで水分の蒸発が早くなり、搬出の際の重量も減る。皮は剥いで置いておけばなめされたようになり、こちらも製品になる
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葉枯らし乾燥の後は、粗挽きしてさらに森の近くで天然乾燥させる。環境の変化が少ない場所で熟成させることで割れにくい木材になる

木材は工業製品ではない
 

 もりずむはそのほかにも、子供たちに向けた「木こり体験」イベントを主催したり、一般の人に木の里親になってもらうプロジェクトを企画したり、森で発生する不用木を薪ストーブに使う事業を展開したりと精力的に森と人を繋ぐ活動を推進している。美杉町がロケ地になった2014年公開の映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)』(三浦しをんさんが美杉町をモデルに書いた『神去なあなあ日常』が原作)では多くのシーンで制作に協力した。セブン‐イレブン記念財団の所有する「セブンの森」でのイベント監修などもおこなっており、活動範囲は多岐にわたる。

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木材にはナンバーをつけてトレーサビリティを確保している。エンドユーザーに木材のストーリーを伝えることで付加価値があがる

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キュー太と三浦さん。単独行動するキュー太の安全を確認するため、首にはGPSをつけている
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鹿に食べられた木はそこから部分的に腐敗し、価値が下がってしまう
 

 また、山で増えすぎた鹿が木の皮を食べてしまうのを防ぐため、鹿追い犬の育成による生態系バランスの健全化にも挑戦している。訓練した犬に追わせることで鹿にプレッシャーをかけ、過剰な繁殖を防ごうというのだ。美杉町第1号の鹿追い犬「キュー太」は、街中でみかける犬とは明らかに異なるシルエットを持ち、猛スピードで山を駆ける。鹿の食害に悩む地方は多いが、鹿追い犬はまだ珍しい取り組みだ。

林業は、数年で報われる事業ではない。ときには世代を超えた仕事となる。もりずむは「いまさえよければよい」という考えの対極にある事業に向き合っている。藤﨑さんは木材は工業製品ではないと話す。

「林業は、『木』という生き物を扱う産業です。だから木一本一本の価値をきちんと見極めて販売したい。そうすれば山林所有者の多くが山で稼ぐことができ、管理・健全化に力を入れられる。それはやがて森林の健全化につながっていきます」

長い森の歴史のなかで、もりずむの活動は始まったばかりだ。

CONTENTS
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コンテンツ
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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