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わが街の環境マイスター 主体性のある人間を自然の中で育てたい
山本 由加さん
認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ)
副理事長兼事務局長

「環境教育」といえば、環境への関心を高めるための教育を思い浮かべるが、山本さんの所属するエコエデュでは、自然を利用して子供たちを主体性のある人間に育てる「環境教育」を目指している。はたして、その意味とは──


理念を言葉にすることの大切さ
 

 午後4時になると日本平の麓にある民家に小学生が続々と集まってくる。民家はエコエデュが近隣の農家より借り受けたもので、子供たちはここで支度を整え、これから数時間を過ごす山奥へと向かう。大人が決めるのはその日に過ごすエリアのみ。何をどのようにして過ごすのかは子供たちが自ら決める。よほどの荒天でない限り、雨の日であっても合羽を身につけ山道を登る。冷たい雨の降る10月のある日も、子供たちは山道に入るなり、大きなカエルを見つけて捕まえたり、稲刈り後の田んぼに足を突っ込んだりと、思い思いに頭と身体を動かしていた。

環境教育と聞くと大自然が広がる山村などでの実施をイメージするが、エコエデュの拠点は静岡県駿河区という人口の多いエリアにある。静岡駅からもほど近く、参加者は都市部に暮らす子が少なくない。エコエデュは、未就学児や小学生を集めた「塾」のようなプログラムを展開している。指針は草花の名前を覚えるようなものではなく、自然の中で各々の人間性を育てていくような内容だ。副理事長を務める山本由加さんはエコエデュの方針についてこう説明する。

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「子供と話しているときが一番自然な笑顔が出る」という山本由加さん

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エコエデュの事務所は借り受けている民家の2階にある。どことなく柔らかい空気が漂う
 

「常にゆらぎのある自然の中で五感を働かせ、自分が何をしたいのか、そのためには何をするべきなのかを考えられる教育を目指しています。ここでは自然は学ぶべき対象ではなく、教育のための一つの要素なんです」

エコエデュはもともと草の根の市民団体として始まった。後に行政委託の環境教育事業が増えていったが、東日本大地震が起きた頃から潮目が変わり、自主的に運営費を賄わなければ事業を継続できなくなった。しかし、草の根の市民団体らしさが失われるように感じた会員は反発、内部で意見が割れた。山本さんを初めとした当時の事務局は、その折衝を担うことになった。


 

「環境教育や環境問題に取り組む人たちは胸に熱いものを持っている人ばかり。その分どうしても衝突してしまうことが多いんです。そのため、団体をとりまく人々にエコエデュが何をしたいのか、何を目指すのかを改めて整理することが必要でした。『言葉にすることよりも活動が大事』というご意見もありましたが、とにかくわかり合うために言葉を磨くことにしたんです」

その時期から数年間の話し合いを重ね、目指すべきビジョン「笑顔で挑戦し続ける社会」と、ミッション「自然の中での教育を通じて、失敗・変化の中から自分の答えを追求する人を育てる」が生まれた。これによって、活動は一気に発信しやすくなった。わかりやすい言葉は内部の意思統一だけでなく、外部へのメッセージにもなり、プログラムへの参加者が増加。セブン-イレブン記念財団のNPO基盤強化助成を受けることもでき、運営の安定化につながっていった。

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雨の日は完全装備で。大きなカエルを発見すると、迷いなく軍手をはめた手で捕まえた。この後、手に持った棒でチャンバラが始まる

教育は将来の環境保全に繋がる
 

 子供の頃から自然の中で過ごすことが好きだったという山本さん。サラリーマン家庭に生まれたが、虫や蛇をも「かわいい」と思う少女で、周囲からは「ヘンなの」と言われることもあったという。漫画版『風の谷のナウシカ』に影響を受けると、ますます環境への興味が深まっていった。やがて進路を決める時期が来たとき、自然を科学的にみつめることできると、岐阜大学農学部生物資源学科に進学。大学院まで進んで森林について学んだが、当時の活動家たちには疑問を感じるシーンが多々あったという。

「当時の活動家は全共闘世代の人が多く、行政がすることに対しては何かと反対する姿勢をとっていました。それが間違っているとは思わないのですが、一度は自分が主体となって実行することも重要だと思ったんです」

思いを胸に修了後は静岡県の林業職に就職。そこで森林の多様な利用方法を知った。 「これを知ってもらうためには、もっと教育面に力を入れていくことが必要だと感じました」

熱い思いのあった山本さんだが、持病が悪化したこともあり、現場でできる仕事に限界を感じ、退職。縁があってエコエデュで働き始めた。

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主体性を育てるために、エコエデュのスタッフは「〜してはいけない」とは言わない。少々危険に見える遊びも見守り、子供たちは自分の体験を積み重ねていく

 

「『環境』に携わるうえで感じるのは、自分が当事者となって動くことの重要さ、そしてそれができる人同士が折り合いをつけながら事業を継続していくことの難しさです。環境事業の周りにはカリスマ事業者が多いでしょう。私はそうではないけれど、だからこそできることがあります。大切なのは未来を担う子供たちを主体性のある人間に育てること。一所懸命環境の重要さを教えても、主体性をもって物事に取り組める人間にならなければ、それを実現することはできません。自然に学んだ主体性のある人材が育ってこそ、将来の環境保全に繋がると思うんです」

 

自分がエコエデュを去る日が来ても変わらず事業が継続されるよう、次世代の育成をしっかりしたいという山本さん。いまはエコエデュの種を熱心に育てているところだ。

CONTENTS
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コンテンツ
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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