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わが街の環境マイスター 「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生
岩井 克己さん
NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター専務理事

かつては魚庭(なにわ)と呼ばれたほど漁獲量が豊富だった大阪湾。岩井さんは、「死の海」のイメージが定着してしまった海の本当の魅力を伝え、本来の姿に戻す取り組みを続けている。


地元の魚の美味しさを知らない人々
 

「大阪湾の魚ってどんなイメージがありますか。あまり良くはないでしょう? でもね、じつはすごくうまいんです。栄養豊富な海で獲れていますから。この事実は大阪近郊の人ほど知らない。スズキなどの高級魚はまっすぐ築地へ向かうんですよ。東京の舌の肥えた人たちは大阪湾の魚を食べています」

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 あるときは環境コンサルタント企業の社員として、またあるときは環境団体の理事として大阪湾の調査や保全に携わる岩井克己さんは、日焼けした顔をほころばせながら語る。

 岩井さんは東京都町田市の出身。自然の中で蛇や虫を捕まえて遊ぶような幼少期を過ごしたが、海とはあまり縁がなかった。何か自然に携わる学問を修めたいと考えて東海大学海洋学部に入学したことが、海とかかわるようになったきっかけだ。卒業研究の期間は西表島の海を調べるために人里離れた研究施設で暮らし、魚を獲っては食べるワイルドな生活を送った。卒業後は土壌や水質の調査を手がける環境コンサルタント、日本ミクニヤ株式会社に就職。大阪に赴任し、水質向上に役立つと謳われる製品の導入試験などを担当したことから大阪湾との縁ができ、再生に携わるようになっていった。


小学生の心を引きつけた昆布の養殖
 

「大阪湾で活動を始めたのはおよそ15年前。大阪府が行政をあげて大阪湾の再生に乗り出した頃です。ヘドロだらけだった最悪の時期は脱していましたが、魚はまだ多くなかった」

 行政がどんなに法を整備しても、地域住民の協力が得られなければ海の再生はありえない。岩井さんたちは市民団体に繰り返し再生活動の内容やその理由などを説明したが、当時は反応がいまひとつだった。

「環境について何の知識も持たない人に、いきなり専門的な話をしても伝わらないんですよね。これは伝え方を改めるべきだと思いました」

 岩井さんは、大阪湾には栄養分が多すぎること、しかし海藻や魚を通して人間が摂取すれば再び海が生き返ることを伝えるべく、堺市浜寺の子供たちと昆布の養殖に挑戦した。堺市はおぼろ昆布を切り出すための刃物の生産で栄えた街で、古くから昆布と縁がある。

「一応昆布は育ったものの、海が温かいから異常に生育が早くペラッペラ。高級なものにはなりませんでした。しかし子供たちは海への関心を持ってくれたし、対話の手応えもありました」

 

 

 市民への理解を得るにはこのスタイルが適していると考えた岩井さんは、活動の輪を広げていく。そしてアマモ場を広げることによって海の再生に取り組むNPO法人「海辺つくり研究会」(神奈川県)に出会うこととなった。アマモは海の栄養を吸収する力があるだけでなく、魚の住処にも適している。大阪湾もアマモ場によって再生できないかと考え、小学生と一緒にアマモの苗を育て、海に植える活動を始めた。

「最近、アマモにイカが産卵しているのが見られるようになりました。イカが生まれるとそれを狙った魚が集まり、さらにその魚を狙った大型魚もくるようになる。いい傾向です」

 アマモによる海の再生活動は、いま全国に広がりを見せている。海辺つくり研究会が中心となって2008年に始まった「全国アマモサミット」には、岩井さんも毎年かかわっている。今年の開催地は地元、阪南市だ。

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海藻や海草が茂る海には、餌や産卵場所を求めて魚が集まる
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育ってきたアマモ。アマモは胞子で増える藻類ではなく、種で増える種子植物だ
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アマモの花枝を採取して種をとる

小学生の心を引きつけた昆布の養殖
 

「大阪湾で活動を始めたのはおよそ15年前。大阪府が行政をあげて大阪湾の再生に乗り出した頃です。ヘドロだらけだった最悪の時期は脱していましたが、魚はまだ多くなかった」

 行政がどんなに法を整備しても、地域住民の協力が得られなければ海の再生はありえない。岩井さんたちは市民団体に繰り返し再生活動の内容やその理由などを説明したが、当時は反応がいまひとつだった。

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海藻や海草が茂る海には、餌や産卵場所を求めて魚が集まる
 

「環境について何の知識も持たない人に、いきなり専門的な話をしても伝わらないんですよね。これは伝え方を改めるべきだと思いました」

 岩井さんは、大阪湾には栄養分が多すぎること、しかし海藻や魚を通して人間が摂取すれば再び海が生き返ることを伝えるべく、堺市浜寺の子供たちと昆布の養殖に挑戦した。堺市はおぼろ昆布を切り出すための刃物の生産で栄えた街で、古くから昆布と縁がある。

「一応昆布は育ったものの、海が温かいから異常に生育が早くペラッペラ。高級なものにはなりませんでした。しかし子供たちは海への関心を持ってくれたし、対話の手応えもありました」

 市民への理解を得るにはこのスタイルが適していると考えた岩井さんは、活動の輪を広げていく。そしてアマモ場を広げることによって海の再生に取り組むNPO法人「海辺つくり研究会」(神奈川県)に出会うこととなった。アマモは海の栄養を吸収する力があるだけでなく、魚の住処にも適している。大阪湾もアマモ場によって再生できないかと考え、小学生と一緒にアマモの苗を育て、海に植える活動を始めた。

「最近、アマモにイカが産卵しているのが見られるようになりました。イカが生まれるとそれを狙った魚が集まり、さらにその魚を狙った大型魚もくるようになる。いい傾向です」

 アマモによる海の再生活動は、いま全国に広がりを見せている。海辺つくり研究会が中心となって2008年に始まった「全国アマモサミット」には、岩井さんも毎年かかわっている。今年の開催地は地元、阪南市だ。


魚を食べることで大阪湾が生き返る
 

岩井さんの目標は大阪湾で獲れる魚の量、流通量、漁師の人数を増やし、大阪湾を「生きている海」にすることだ。

「漁師が魚を獲り、引っかき回すことで海は活性化する。人間の営みも自然の一部なんです。しかし、いまの漁獲量ではまだ大勢の漁師が十分な利益を上げるには厳しい。漁師を増やすためには大阪湾の魚の魅力を多くの人に知ってもらい、消費量を増やすことが大切です」

 そのために注力しているのが地元の人への理解促進だ。岩井さんはキッチンカーで魚卸市場に向かい試食会を開いたり、阪南市の小学校や高校を中心に、大阪湾やそこで獲れる魚の魅力を伝える授業をおこなったりしている。

「子供に伝えることには大きな意味があります。本人が興味・関心をもってくれるだけでなく、家族に授業の内容を伝えてくれるので波及力がある。子供が『魚を食べたい』と言えば家族は喜んで食べさせるでしょう。先日も子供にリクエストされたことがきっかけとなって、地元のお母さんが、我々が主宰している魚の捌き方教室に来てくれたんですよ」

 岩井さんは魚の付加価値を上げるため活動にも前向きだ。その一環が大阪府立大学との共同研究である。港湾のすぐ横に実験施設を備え、魚の鮮度を落とさず急速冷凍する技術の開発などに取り組む。

 

「大阪湾の魚を見かけたらぜひ食べてみてください。魚を食べてもらうことで、流通量が増え、漁師の利益を確保できます。そうすれば『これなら食べていける』と地元の漁師が増える。すると海はますます活性化され、さらに魚が増える。魚を食べることが環境保全につながるんです。そして何より、美味しいですから」

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地元の小学生とのワークショップ。海の幸を獲ったり調理して味わったりする
CONTENTS
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コンテンツ
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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