bar
文字サイズ
わが街の環境マイスター
photo
水戸の環境問題にも教育にも熱心な伊藤さん。水戸にホタルが飛び回る環境を増やしてきたいと考えている
荒れ果てた藪を、ホタルが舞い飛ぶ森に
伊藤三男さん
学校法人田中学園 学校法人緑丘学園 監事

ひょんなことから発見された学校の裏手の湧水。「ここならホタルが棲めるはず」
一人の思いつきが、やがて多くの人々を動かした。


飲めるほどの湧水を偶然発見
 

「昔は眩しいくらいホタルが飛んでいたそうです」

キビキビとした受け答えをしながらも、ホタルのこととなると相好を崩す。伊藤さんは隣県の出身でありながら、今や水戸の教育や環境保全に貢献する地元の名士である。

本業は内装用木材メーカーの会長だ。水戸市内で数校を経営する学校法人の理事長と知りあった縁で学園の監事を兼ねるようになり、ときには敷地内の整備も依頼される。水戸市で震度6弱を記録した東日本大震災の後には、グループの水戸英宏中学校の裏手にあるテニスコートがひび割れてしまったため、付近の様子を見てほしいと頼まれた。念のためテニスコートの脇にある藪を覗き込むと、そこにチロチロと清水が流れるのをみつけた。

 

「きれいな水だったので調べてみたら、人が飲めるほど清潔な湧水でした。年間を通して水温は18度で安定。直感で、これはきっとホタルが育つと思いました」

さっそく学園にかけあい、裏手の整備を申し出た。学園からの承認はすぐに降りたものの、実際にその土地を保有していた市の反応は鈍かった。

photo
木漏れ日が気持ちの良い「セブンの森」。もともと水路はなかったが、 湧き水の流れを整備して小川にした

 

「余計な仕事が増えるのが面倒だったのでしょう。1年半も役所じゅうの課をたらいまわしにされました。ほとほと困り果てていたころ、環境アドバイザーの川島省二さんと知り合い、助けてもらうことができたんです。実績のある川島さんを経由した申請や承認はトントン拍子。ちょっと腹が立つほどでした」

偶然にも、川島さんの息子さんは水戸英宏中学校の生徒だった。学園のことをよく知る人物の助けを得られたのは伊藤さんにとって幸運だった。

photo
運び出されたごみの山。荒れた藪だったころは不法投棄が絶えなかったようだ
 

整備の許可が降りてからの伊藤さんの動きは早かった。低層の草木の成長を妨げている杉を伐採し、不法投棄されていた10tもの粗大ごみを次々と運び出した。そこにはオートバイや冷蔵庫など超大型の廃棄物も含まれる。切り出した木は加工してビオトープの床材にした。清掃と整備には、水戸英宏中学校の科学同好会や川島さんが事務局長を務める逆川(さかさがわ)こどもエコクラブのほか、学内外のボランティアが参加した。人々の手により、後にセブン-イレブン記念財団の「セブンの森」となる「英宏の泉」は、鬱蒼とした藪から徐々に、木漏れ日が降り注ぐ明るい森へと変化した。

大勢の人々の手によって整備された森には、活動を始めたその年のうちにゲンジボタルとヘイケボタルの卵や幼虫を放つことができた。放流をした年はあいにく大雨が降った影響で、整備した水流は一部が崩壊してしまい、ホタルの生存が危ぶまれた。しかし、初夏には放流した場所のやや下流で、ゲンジボタルが舞い上がった。水の流れの少ない場所では、ヘイケボタルもぼんやりとした明かりを放った。翌年も翌々年も、ホタルは少しずつ数や場所を変えながら森の中を飛び回った。世代交代を繰り返しながら居着いたのだ。この一連の活動により、水戸英宏小・中学校は「低炭素杯2017」で環境大臣賞を受賞した。


森は子供たちの財産
 

子供たちへの教育にも情熱を注ぐ伊藤さんは、この森を教育でも使えるようにと考えた。隣接する中学校や小学校だけでなく、幼稚園児も安全に自然に触れ合える場所にしようと、森まで続く階段は段差を小さくしている。苦心して整備した水路は子供たちが踏み荒らすことで地形が崩れてしまうことがあるが、伊藤さんはそれでもかまわないという。

「この森は子供たちの財産です。多少地形が崩れてしまったとしても、どんどん触れてもらった方がいい」

近年はろう学校の生徒たちを受け入れ、野外学習を実施している。今後は盲学校の生徒も受け入れ、安全な環境で自然に触れてもらいたいと考えている。

ビオトープの先には、すでに整備された土地の数倍の湿地が広がる。誰も手を入れなかったために荒れ果てた、忘れられた土地だ。伊藤さんは、この湿地にもビオトープを広げ、尾瀬のような風景を作り出したいという。

 

「この森の湧き水は複数の場所から出てきています。この先の湿地にも湧水が出る場所はある。僕はここに関東最大のビオトープを作りたいと思っています。きっと偕楽園に負けない水戸の新名所になることでしょう」

photo
photo
飲めるほどきれいな湧水でできた小川には、ホタルの餌となるカワニナが大量に生息する
photo
photo
ホタルが舞い飛ぶ夜の森の様子。飛び回っているのは主にオスで、水面の近くに止まっているのがメス
 

伊藤さんたちの活動を知り、最近では国会議員が視察に来ることもある。

「じつは、ここ以外にも水戸市内には湧き水の出る場所がたくさんあるんです。現在は、それぞれの環境団体が助け合いながらその場所を保全し、ホタルを増やすための活動をおこなっています。水戸全体でもっとホタルを増やしていきたい」

多忙な諸々の活動の合間を見ては、時間があれば森で整備作業をしているという伊藤さん。理由は森にいると落ち着くからだそうだ。

「爽やかな風が吹いて気持ちがいいでしょう。こういう自然のよさを子供たちに伝えていきたいんです」

CONTENTS
------------------------------
コンテンツ
・美ら海への思いを大地に植える 西原 隆さん NPO法人 おきなわグリーンネットワーク理事長
・都市の貴重な干潟を守るボランティアの力 橋爪 慶介さん DEXTE-K代表
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

ご利用にあたってプライバシーポリシー
Copyright(C) 2000-2019 Seven-Eleven Foundation All Rights Reserved.