bar
文字サイズ
わが街の環境マイスター 土木工学が出発点。海辺の環境保全に挑む「ハゼ博士」
古川恵太さん
NPO法人 海辺つくり研究会 理事長

アマモ場や干潟の再生によって海辺の環境保全に取り組むNPO法人 海辺つくり研究会。研究一筋だった新理事長は、海辺の面白さを伝えるために、江戸前ハゼの歌作りまで手がける。


江戸前ハゼの復活を目指して
 

「1960年代まで東京湾ではハゼ釣りが盛んだったんですよ。釣り人1人あたりにつき100匹は釣れた。みんなそれを持ち帰って食事にしていました」

photo
「マハゼは東京湾の環境をはかる指標として重要な魚。調査には釣り人の協力が欠かせません」ハゼにかける思いは熱い
 

古川さんが示したモノクロ写真には、釣竿を握った人々が所狭しと並ぶ情景が写っている。高度経済成長期の前半、東京湾はまだ人々の生活とともに生きている海だった。当時、年間1億尾は獲れていたことが予想されるハゼだが、古川さんは収集したデータから、現在獲れるのは10万〜100万尾だと推測している。

「東京湾で獲れるハゼを『江戸前ハゼ』と命名し、復活プロジェクトに力を注いでいます。ハゼをきっかけに、たくさんの人に海辺の魅力を感じてほしいんです。ハゼは環境が良くなればすぐに戻ってきてくれる魚。ハゼが棲める場所を少しずつ増やしていけば、東京湾全体ひいては日本の海全体の環境を良くすることができると考えています」

そのために、まずはハゼのことを知ってもらいたい。古川さんは自らハゼ博士を名乗り、多くの人に興味を持ってもらえるようハゼを広める活動を始めた。親子を巻き込めば関係人口を増やすことができると考えて歌やダンスの制作にも着手。ハゼ博士はこれまでに『東京湾ハゼ音頭』の作詞・作曲、『東京Wonderエクササイズ――みんなの東京湾体操』の作詞を手がけている。


生物学との出会い
 

古川さんのもともとの専門は土木工学だ。子供のころは船長になりたかったと言う。 「父が船のコーディネートを仕事にしていたので、家によく船長が訪ねてきてくれたんです。かっこよくて憧れました。それで将来は大型客船に乗って働きたいと思ったのですが、いまは日本人が船長になるケースは少なく、進路を変えることにしました。船じゃなくてもできるだけ大きなものを手がける仕事をしたいと思ったときに行き着いたのが土木関係だったんです」

そこで大学では土木工学を、大学院では建設工学を修め、港を管理する運輸省(当時)に就職。運輸省が港や空港を新設する際に環境保全に取り組むようになっていた時期だったため、干潟や藻場を整備することで海洋環境を保全する研究を進めることになった。

「キャリアの途中でオーストラリアの研究所に留学することになったんです。1994年のことでした。当時、私は海藻やヨシ原を使って海水を浄化する研究を進めていましたが、オーストラリアでは生態系全体を俯瞰して環境保全を考えていました」

ここで古川さんは転機を迎えることになる。それまでは物理的なアプローチで環境保全を考えていたが、研究所で多くの生物学者に囲まれる中で生物学に目が向くようになっていったのだ。

「オーストラリアの研究所ではグレートバリアリーフの環境を守るために、サンゴ礁やマングローブをどのように守っていくのかといった研究に取り組む人たちが大勢いました。これまでの私のアプローチにはあまりなかった発想です」

 

帰国後には干潟の再生・創出に関する研究を進めることになった。当時は港やごみの廃棄場をつくるために次々と干潟を埋め立てていた時期。愛知の藤前干潟や長崎の諫早湾の埋め立てが話題となっていた。

「研究を進めていくうちに、干潟には海水をフィルタリングして海をきれいにする役割があることがわかったんです。さらにオーストラリアの生物学者たちのアプローチを参考に実験場だけでなく現地調査を実施してみたところ、干潟は日常的に使う人がいないと理想的な環境が保たれないことがわかった。役人や事業者が大々的に環境を整備するだけではだめで、漁師や観光客、地元の子供といった市民が一緒になって活動をしなければ環境を守れないんです」

photo
ミクロネシアのポナペ島でマングローブ林の調査にあたる

沿岸域の総合的管理を実現
 

市民と連携して干潟を守るには、他の省庁との協力が不可欠だった。しかし管轄をまたいだ協働は予算使用の面から困難とされた。「このままでは海辺を保全することはできない」。古川さんは国交省を辞職し、より活動をしやすい民間の団体へと転職した。そこでは、地方自治体の人々と協働して、沿岸域の総合的管理の実現に向けたモデルサイト事業に携わる。その後、その団体の改組があり、自らも管理職になったことから、またも自分がやりたいことからは遠ざかる結果となってしまった。海辺の環境という大きなものを自分の力を使って変えていくこと。古川さんの思いは、何年も変わらない。本当にやりたいことを続けるため、古川さんは民間団体も辞職。独立して、環境事業のコンサルタント会社に身を置く傍ら、悪化した海辺の環境を再生しようとアマモ場の造成や生物調査、環境教育などに取り組むNPO法人「海辺つくり研究会」代表として昨年から理事長を務めている。

「海辺の環境という大きなものに目を向けてもらうためにテーマとしているのがハゼなんです。ハゼは愛嬌があるし面白い魚。日本国内には700種もいるんですよ。いまの東京湾には1年しか生きない小さいハゼばかりですが、昔は20㎝を超える2年生のハゼもいた。些細な話のようですが、このような小さな話を集めて、より規模の大きな活動につなげていきたいですね」

 

「海辺の環境という大きなものに目を向けてもらうためにテーマとしているのがハゼなんです。ハゼは愛嬌があるし面白い魚。日本国内には700種もいるんですよ。いまの東京湾には1年しか生きない小さいハゼばかりですが、昔は20㎝を超える2年生のハゼもいた。些細な話のようですが、このような小さな話を集めて、より規模の大きな活動につなげていきたいですね」

photo
横浜みなとみらい地区にある高島水際線公園で、定期的に一般公開の生物調査をおこなっている
photo
ハゼの棲みか調査と連携した夏休みの親子ハゼ釣り教室
CONTENTS
------------------------------
コンテンツ
・土木工学が出発点。海辺の環境保全に挑む「ハゼ博士」 古川恵太さん NPO法人 海辺つくり研究会 理事長
・故郷の廃村に新たなにぎわいを 松浦成夫さん NPO法人 時ノ寿の森クラブ 理事長
・荒れ果てた藪を、ホタルが舞い飛ぶ森に 伊藤 三男さん 学校法人田中学園 学校法人緑丘学園 監事
・美ら海への思いを大地に植える 西原 隆さん NPO法人 おきなわグリーンネットワーク 理事長
・都市の貴重な干潟を守るボランティアの力 橋爪 慶介さん DEXTE-K代表
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

ご利用にあたってプライバシーポリシー
Copyright(C) 2000-2019 Seven-Eleven Foundation All Rights Reserved.