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「自然」に魅せられて 左官は「風景」を生み出す職人 挟土秀平
挟土秀平

年々減っていく土壁の家。
だが、左官のしごとはあらゆる場所にある。
伝来の技術に独自の感覚を加えて、
職人はきょうも土と向き合う。


── 
「職人社 秀平組」を率いる挟土さんの名刺には「左技士 秀平」とありますが。
挟土
本来は「左官技能士」で、厚生労働省の技能検定に合格した証です。でも目立ちたがりなもんで、「詐欺師」にも通じるようにしたんです。抜け落ちた二文字は「官」と「能」。「官能」が隙間から見えてくるというわけです。


── 
「飛騨の匠」という言葉があるように、飛騨は材木と大工さんで有名ですが、左官職にも伝統があるんでしょうか。
挟土
いや、たいしたものはありません。僕の場合は家業が左官業だったから、最初は義務感で継いだだけでした。それがバブルの時期に体験した組織や人間関係のわずらわしさから逃れるように、土や壁と向かい合ってみると、どんどんその素晴らしさに惹かれていったんです。壁の材料になるのは土ですが、土は本来の「地球の色」だなってことが実感できるし、この仕事が本当に好きになった。
新しい「風景」を生み出すのは、鋭い視線と熟練を思わせる手の技だ
── 
左官という仕事の醍醐味は。
挟土
一言でいえば、人間の身のたけに合った仕事ということ。土は日本中、いや世界中どこにでもあるものです。それを使って住まいをつくる。その建物の近くの土を使う。その時代の輸送手段で無理なく運べる――たとえばリアカーならリアカーで運べる――範囲の土に限定されるんです。できあがった建築は、永久に建ってるわけじゃなくて、自分の目で確かめられる程度の時間で風化して、また土に還っていく。これがまたいいんですよ。それ以上の堅固な建築物をつくろうとするところから環境問題が起きてくる。


つねに新しい意匠を求めて、見本づくりは欠かせない


── 
土以外の材料を使った、松ぼっくりの野菜蔵をつくったりもしていらっしゃいます。
挟土
松ぼっくりだって壁はできる。僕は土だけにこだわりません。すべてが土の延長ですから。左官が扱えば、木の葉も土だし、木は「伸びる土」、石は「固い土」です。里山の斜面に花を植えたって、それは左官の仕事だと思うし、その意味では農業だって同じだと思いますよ。



「しょせん壁はオーナーのもの」という職人が、自分の「王国」をつくりはじめた


さまざまなアイディアに満ちた見本が事務所の壁に並ぶ


──
仕事に熱中しているときというのは、やはり楽しいものですか。
挟土
いや、苦しいことのほうが多いね。条件を与えられて構想を練ってるときも、実際に作業をしているときも苦しい。
壁は本来、とても不安定なものなんですよ。もともと湿った素材である土に、さらに水を加えて練って塗る。だから実感としては、土じゃなくて水を塗っているんですよ。「蒸発」を感じながら塗っているといってもいい。水は人間にとって一番大事なものだけど、一番不安定で、恐い存在でもある。それをコントロールしていかなきゃいけない。でも読み切れないし、偶然性からも逃れられない。塗り終わったから終わりというわけにはいかないんですよ。塗り終わって1年ぐらいは見守らなきゃいけない。その頃になって、オーナーが喜んでくれていたら自分も嬉しいかな。
結局、左官の仕事って「風景」をつくり出すことだと思うんです。大工がつくった構造物だけじゃ家にならない。四面に壁が塗られてはじめて空間になる。その「面」が風景を生んでいくんです。


── 
これからはどんな仕事をしていきますか。
挟土
いまいった「風景」にもつながるんだけど、内装とか一軒の家じゃなくて、自然のなかに左官の仕事を全部ぶち込んだような「王国」をつくりたい。じつは、高山市内にあった大正4年に建てられた小ぶりな洋館があって、それを譲り受けたんですよ。その建物を再建するのに、ふさわしい環境を選んで土地も手に入れてある。これは自分がオーナーだから、工期も自分で決められるし、自分のセンスで色も選べる。環境への配慮もする。木の伐採から始めたくらいです。こんな贅沢な仕事はありません。名づけて「歓待の西洋室」。落葉樹の森にどんな「風景」が生まれるのか、それが楽しみです。

「地球の色」を生かすために使いこまれた道具類

Profile
はさど・しゅうへい 1962年飛騨高山生まれ。左官職人の2代目に生まれ、技能オリンピック全国大会優勝の技を誇る。2001年独立して「職人社 秀平組」を設立。土壁を純金で仕上げた金沢市内の黄金の土蔵や、土を原料にした化粧品など、その境界をこえた仕事ぶりが賞賛を浴びている。

CONTENTS
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コンテンツ
・タカの渡りを追う 久野 公啓(写真家、渡り鳥研究家)
・微生物が創り出す極上ワイン 中村 雅量(奥野田葡萄酒醸造株式会社 代表取締役)
・「海藻の森づくり」で海も人も健康に 佐々木 久雄(NPO法人 環境生態工学研究所理事)
・大学をニホンイシガメの繁殖地に 楠田 哲士(岐阜大学応用生物科学部准教授)
・面白くて、おいしい「キッチン火山実験」 林 信太郎(秋田大学教授、秋田大学附属小学校校長)
・世界で唯一、エビとカニの水族館 森 拓也(すさみ町立エビとカニの水族館館長)
・都会の真ん中に“山”をつくる 田瀬 理夫(造園家、プランタゴ代表)
・一粒万倍 美味しい野菜はタネが違う 野口 勲(野口のタネ/野口種苗研究所代表)
・都市の里山に宿る神々 ケビン・ショート(ナチュラリスト、東京情報大学教授)
・ムササビ先生、今夜も大滑空観察中 岡崎 弘幸(中央大学附属中学校・高等学校教諭)
・保津川下り400年─清流を守る船頭の心意気 森田 孝義(船士)
・小笠原の「希少種を襲うノネコ」引っ越し大作 小松 泰史(獣医師)
・チリモンを探せ! 藤田 吉広(きしわだ自然資料館専門員)
・スズメバチハンター走る! 松丸 雅一(養蜂家)
・東京湾のサンゴを見つめて 竹内 聖一(NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団理事長)
・芝とシカのふしぎな関係 片山 一平(京都府立桂高校教諭)
・ドブ池ドブ川奇跡の復活炭博士が行く 小島 昭(群馬工業高等専門学校特命教授)
・「木一本、鰤(ぶり)千本」─豊かな海を育んだ海底湧水の秘密 張 勁(富山大学教授)
・わくわくドキドキ! 夏の夜の生きもの探し 佐々木洋(プロ・ナチュラリスト)
・かわいい変顔 虫目で見つけた! 鈴木海花(フォトエッセイスト)
・癒しの森でいのちを洗う 降矢英成(心療内科医)
・ブナの山が育てた神の魚 杉山秀樹(秋田県立大学客員教授)
・自然と調和する酪農郷 二瓶 昭(酪農家、NPO法人えんの森理事長)
・漁師が見た琵琶湖 戸田直弘(漁師)
・田んぼの恵みはお米だけじゃない 石塚美津夫(NPO法人「食農ネットささかみ」理事長)
・「結」の心を伝えたい 和田利治(屋根葺き技術士)
・多摩川復活の夢 山崎充哲(淡水魚類・魚道研究家)
・モイヤー博士の愛した島 中村宏治(水中カメラマン)
・白神山地が育む奇跡の菌 高橋慶太郎(秋田県総合食品研究センター主席研究員)
・ありがとう、ハチゴロウ 佐竹節夫(コウノトリ湿地ネット代表)
・ヤイロチョウの森の守り人 中村滝男(生態系トラスト協会会長)
・水辺って、こんなに面白い! 井上大輔(福岡県立北九州高等学校教諭)
・地熱染め 色彩の魔術 高橋一行(地熱染色作家)
・里山っ子ばんざい! 宮崎栄樹(木更津社会館保育園園長)
・金沢和傘の伝統を引き継ぐ 間島 円(和傘職人)
・「竹のこころ」を伝えたい ジョン・海山・ネプチューン
・クマのクーちゃん 人工冬眠大作戦! 小宮輝之(上野動物園 園長)
・まつたけ十字軍がゆく 吉村文彦(まつたけ十字軍運動代表)
・氷の匠──冬に育む夏の美味 阿左美哲男(天然氷蔵元)
・日本でただひとりのカエル捕り名人 大内一夫(カエル販売業)
・「村の鍛冶屋」の火を守る 野口廣男(鍛冶職人)
・杉線香づくり100年 駒村道廣(線香職人)
・空師(そらし)──伐って活かす巨木のいのち 熊倉純一
・日本ミツバチに学んだこと 藤原誠太
・満天の星に魅せられて 小千田節男
・ブドウ畑に実る夢 ブルース・ガットラヴ
・タゲリ舞う里を描いて 森上義孝
・ホタル博士、水辺を想う 大場信義
・左官は「風景」を生み出す職人 挟土秀平
・僕は「SATOYAMA」の応援団長 柳生 博
ムツカケ名人に学ぶ──豊穣の海に伝わる神業漁法 岡本忠好
・イチローの バットを作った男 久保田五十一(バットマイスター)

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