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「自然」に魅せられて [photo]
Profile

くまくら・じゅんいち
1973年東京生まれ。中学卒業後、空師に弟子入りし、材木会社勤務などを経て、28歳で独立。さいたま市に「熊倉林業」を創業する。2007年1月、その仕事ぶりを紹介するテレビのドキュメンタリー番組が放映され、一躍「空師」の存在を世に知らしめた。
空師(そらし)──伐って活かす巨木のいのち

地上数十m。天を衝くような巨木に登り、幹や枝を伐(き)り出す職人を「空師」と呼ぶ。
熊倉さんは空師の若き親方。命綱ひとつで木と向き合い、そのいのちに思いを寄せる。


── 
空師は、寺社林や民家の屋敷林など、狭い敷地内にある木の伐採を専門にしている。周囲に家屋などがあると、木を横倒しにしたり、枝を落としたりすることができない。そこで熊倉さんの出番となる。

熊倉 
「木に登ってロープをかけ、枝や幹を伐っては、クレーンで安全な場所まで吊り降ろしていくんです。一番緊張するのは、伐った部分が木を離れる瞬間かな。ロープがうまくかかってないと、木が落ちたり、跳ねたりして大事故につながりますから。でも安全に伐るだけじゃあ、いい職人とはいえません。木が高く売れるように伐る。そこが空師の腕の見せ所なんです」

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木が離れる瞬間、「スキがあると木に殺(や)られる」という

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樹上で体を支えるのはこの胴綱だけ。
まさに命綱だ
── 
伐った木は材木商を介して市場に出る。高値がつけば空師も潤うが、材木としての価値は伐り方ひとつで大きく変わる。

熊倉 
「売れるのは真ん丸でまっすぐの丸太ですが、伐ってみて腐りが入っていたら、タダになってしまいます。だから立ち木の状態でその中身を読み、どこでどう切れば価値が上がるかを見極めなきゃならない。全体の枝ぶりから樹齢、傷の有無、土地の日当たりや水はけまで調べて、判断するんです。それでも、いい木だと思って伐ってみたら、中が空洞だったなんてことはよくあるし、その逆も珍しくない。根元が完全に枯れていて、これは薪にしかならないと思いながら伐った木が、思いがけず元気で儲かったこともありました。とにかく木は奥が深い。20 年近く接していても、まだまだわからないことだらけですよ」

── 
しかもここ数年は、樹木伐採の現場に、熊倉さんも経験したことのない異変が起きているという。

熊倉 
「伐採はもともと冬場の仕事。寒い時期は木が水分を吸い上げないから、材木にしたときに反りが出ないんです。ところが最近は暖冬が影響しているのか、早い地域では1月末から、ケヤキが水を上げ始めている。最初は幹の断面から水が滲み出しているのを見て、目を疑いました。水上げの時期が早まると、我々の掻き入れ時も短くなってしまいますからね。それに、昔より登りにくい木が増えた気もします。たぶん木の成長が早くなったせいでしょう。早く大きくなった木は目が粗く、表皮が剥がれやすい。靴の爪はひっかからないし、幹に回す胴綱も上がっていかないので、我々にとっては厄介なんですよ」

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巨木への敬意を込めて、熊倉さんは
作業の前に必ず塩と酒をまく
腰に吊るしたチェーンソーは、
燃料を入れると8kg以上に
弟子が幹にロープをしばりつけたら、その数m下を伐っていく
── 
空師としては飛びぬけて若い熊倉さんが、この道に入ったのは中学生の頃。近所の親方のところへ小遣い稼ぎで出入りするようになり、そのまま働き始めた。高い木に颯爽と登る親方の姿に憧れたからだ。

熊倉 
「最初は、こんな大きな木を伐るのはマズいんじゃないか、呪われるんじゃないかと思いましたね。でも親方から、伐った木は材木になり、家やら、お寺やら、いろんなものを建てるのに使われるんだと教えられてやっと、子供心にもこの仕事の意義がわかるようになったんです」

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民家の庭先から切り出された立派なケヤキの幹。樹齢は約200年
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意外にも高い所が苦手な熊倉さん。「でも、木だけは大丈夫なんですよ」
── 
とはいえ、街中で木を伐っていると、昔の自分のように何も知らない人たちから、「自然破壊だ」と批判されることが少なくないという。木の生命について空師はどう考えているのか。

熊倉 
「植物として生きてきた木に、材木としての新たな生命を吹き込む。木を伐るって、そういうことなんですよ。まして屋敷やお寺の木は、ご先祖様が後々使えるようにと植えたものでしょう。それを幹が腐るまで放っておいて、あげくに落ち葉の始末が大変だとか、枝が落ちるから危ないとか、厄介者にしてしまう。木にも寿命があるんだから、そうなる前に伐採して自然の恵みと先人の思いを活かせれば、最高じゃないですか。だから自分は木にチェーンソーを入れるとき、いつも感謝の気持ちを込めてこう話しかけるんです。『これまでお疲れさまでした。これから、あんたがいい板や柱になれるように伐りますよ』って。そうすると木のほうも、『おまえだったら、伐られてもいいよ』といってくれている気がする。それが木の本音だと、自分は信じているんです」


CONTENTS
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コンテンツ
・ふるさとの空に赤トンボを呼び戻す 前田 清悟(NPO法人たつの・赤トンボを増やそう会理事長)
・大自然がくれた至福の味 カニ漁師奮戦記 吉浜 崇浩(カニ漁師、株式会社「蟹蔵」代表)
・カラスを追い払うタカ─害鳥対策の現場から 石橋 美里(鷹匠)
・タカの渡りを追う 久野 公啓(写真家、渡り鳥研究家)
・微生物が創り出す極上ワイン 中村 雅量(奥野田葡萄酒醸造株式会社 代表取締役)
・「海藻の森づくり」で海も人も健康に 佐々木 久雄(NPO法人 環境生態工学研究所理事)
・大学をニホンイシガメの繁殖地に 楠田 哲士(岐阜大学応用生物科学部准教授)
・面白くて、おいしい「キッチン火山実験」 林 信太郎(秋田大学教授、秋田大学附属小学校校長)
・世界で唯一、エビとカニの水族館 森 拓也(すさみ町立エビとカニの水族館館長)
・都会の真ん中に“山”をつくる 田瀬 理夫(造園家、プランタゴ代表)
・一粒万倍 美味しい野菜はタネが違う 野口 勲(野口のタネ/野口種苗研究所代表)
・都市の里山に宿る神々 ケビン・ショート(ナチュラリスト、東京情報大学教授)
・ムササビ先生、今夜も大滑空観察中 岡崎 弘幸(中央大学附属中学校・高等学校教諭)
・保津川下り400年─清流を守る船頭の心意気 森田 孝義(船士)
・小笠原の「希少種を襲うノネコ」引っ越し大作 小松 泰史(獣医師)
・チリモンを探せ! 藤田 吉広(きしわだ自然資料館専門員)
・スズメバチハンター走る! 松丸 雅一(養蜂家)
・東京湾のサンゴを見つめて 竹内 聖一(NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団理事長)
・芝とシカのふしぎな関係 片山 一平(京都府立桂高校教諭)
・ドブ池ドブ川奇跡の復活炭博士が行く 小島 昭(群馬工業高等専門学校特命教授)
・「木一本、鰤(ぶり)千本」─豊かな海を育んだ海底湧水の秘密 張 勁(富山大学教授)
・わくわくドキドキ! 夏の夜の生きもの探し 佐々木洋(プロ・ナチュラリスト)
・かわいい変顔 虫目で見つけた! 鈴木海花(フォトエッセイスト)
・癒しの森でいのちを洗う 降矢英成(心療内科医)
・ブナの山が育てた神の魚 杉山秀樹(秋田県立大学客員教授)
・自然と調和する酪農郷 二瓶 昭(酪農家、NPO法人えんの森理事長)
・漁師が見た琵琶湖 戸田直弘(漁師)
・田んぼの恵みはお米だけじゃない 石塚美津夫(NPO法人「食農ネットささかみ」理事長)
・「結」の心を伝えたい 和田利治(屋根葺き技術士)
・多摩川復活の夢 山崎充哲(淡水魚類・魚道研究家)
・モイヤー博士の愛した島 中村宏治(水中カメラマン)
・白神山地が育む奇跡の菌 高橋慶太郎(秋田県総合食品研究センター主席研究員)
・ありがとう、ハチゴロウ 佐竹節夫(コウノトリ湿地ネット代表)
・ヤイロチョウの森の守り人 中村滝男(生態系トラスト協会会長)
・水辺って、こんなに面白い! 井上大輔(福岡県立北九州高等学校教諭)
・地熱染め 色彩の魔術 高橋一行(地熱染色作家)
・里山っ子ばんざい! 宮崎栄樹(木更津社会館保育園園長)
・金沢和傘の伝統を引き継ぐ 間島 円(和傘職人)
・「竹のこころ」を伝えたい ジョン・海山・ネプチューン
・クマのクーちゃん 人工冬眠大作戦! 小宮輝之(上野動物園 園長)
・まつたけ十字軍がゆく 吉村文彦(まつたけ十字軍運動代表)
・氷の匠──冬に育む夏の美味 阿左美哲男(天然氷蔵元)
・日本でただひとりのカエル捕り名人 大内一夫(カエル販売業)
・「村の鍛冶屋」の火を守る 野口廣男(鍛冶職人)
・杉線香づくり100年 駒村道廣(線香職人)
・空師(そらし)──伐って活かす巨木のいのち 熊倉純一
・日本ミツバチに学んだこと 藤原誠太
・満天の星に魅せられて 小千田節男
・ブドウ畑に実る夢 ブルース・ガットラヴ
・タゲリ舞う里を描いて 森上義孝
・ホタル博士、水辺を想う 大場信義
・左官は「風景」を生み出す職人 挟土秀平
・僕は「SATOYAMA」の応援団長 柳生 博
ムツカケ名人に学ぶ──豊穣の海に伝わる神業漁法 岡本忠好
・イチローの バットを作った男 久保田五十一(バットマイスター)

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