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「自然」に魅せられて
里山っ子ばんざい! 宮崎栄樹(木更津社会館保育園園長)
千葉県・木更津社会館保育園の5歳児は、年間50日を近くの森で過ごす。
宮崎園長が取り組む「里山保育」にいま、なぜ注目が集まるのか。
子どもたちの眼の輝きに、その答えはあった。

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片道3kmの里山歩きは道草の連続。園長が立ち止まるとすぐに子どもたちの輪ができる
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みそ汁も自分たちで作る。だからおいしい
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朝9時半。園児たち約40人は、宮崎園長を先頭に元気よく歩き出した。緑濃い谷津田や雑木林をめぐり、森の奥へ──。「里山保育」の拠点となる古民家に着く頃には、いまどき珍しい“泥んこ”たちの出来上がりだ。

宮崎
私が住職を務めるお寺も近くにあるのですが、市街地にあって、この辺りだけは昔から変わっていません。私が小さい頃は、里山じゅうが遊び場でした。地元の腕白小僧ならみんな、どの道を行けばどこへ通じるか、隅々まで里山を知り尽くしていたものですよ。今日、園児たちが歩いてきたのもそういう道のひとつです。

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もちろんどこでも好き勝手に駆け回っていいわけではない。里山歩きには最低限のルールがあるという。

宮崎 
大半が私有地ですから、森でも田畑の周りでも、許されているところしか通れません。山で道をはずれると林床が荒れるし、斜面が崩れたところに大雨でも来たら大変でしょう。決められた道を通り、途中で誰かに出会ったら必ず挨拶するのが里山の掟。園児たちにもそれだけは注意しています。5歳の子どもにどうやって言い聞かせるか? 簡単ですよ。守らないと里山保育ができなくなると言えばいいんですから(笑)。子どもは行きたくってしかたがない。彼らにとって里山は、それほど魅力的な場所なんです。


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行く手には崖やヤブ、蜂やマムシも潜む。それでも子どもたちはずんずん進む。園長ら大人は見守るだけ。口も、手もほとんど出さない。

宮崎 
駆け回って転んだり、泥んこになったり、ときには危ない目にも遭いながら遊びに熱中してこそ子どもは健全に育ちます。危険や困難を避けて、守られてばかりじゃ、心身の免疫力はつきません。ケンカだってOK。叩いたり、叩かれたりしてはじめて、相手の痛みや怒りが自分のことのように感じられる。他者への共感が養われるんです。危ないからと無理に引き離したら、恨みだけが残るでしょう。大声でケンカして、泣いて、笑って――子どもの心は解き放たれてこそ豊かになる。ここへ来るたびにそう実感します。

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園長が「里山保育」を始めたのは10年前。当初は園のスタッフも無謀と反対した。しかし身近な自然の中で輝きを増していく子どもたちの変化は、誰の目にも明らかだった。

宮崎 
それまでも年2、3回は里山を歩いて、生き物の名前を教えたりしていました。でも、それでは大人の自己満足に終わっていないかという思いから、子どもたちと森で一日じゅう過ごすためだけに里山保育を提案したんです。森には何もないけれど、何でもある。トイレもある(笑)。とにかく行ってみようと。初年度は年に10日。翌年から20日、30日と、回数を増やしていきました。そうするとね、2、3年目ぐらいからかな、子どもたちの中に「里山の英雄」が現れ始めたんですよ。昆虫にすごく詳しい子とか、カナヘビやザリガニを捕まえるのがうまい子とか。そういう子どもは園内では逆に目立たなかったり、ちょっと乱暴でトラブルを起こしたりもするんだけど、里山に来ればみんなから一目置かれる。自然が彼らの才能を引き出し、ヒーローにしてくれるんですよ。

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木登り大好き! お目当ては熟したヤマモモの実

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ゆっくりと、しかしときには大人の予想をはるかに超えて成長していく里山っ子たち。園長にはとりわけ忘れられない思い出があるという。

宮崎 
足が少し不自由な女の子がいて、里山で小川に落ちそうになったんです。そうしたら彼女が倒れる寸前、そばにいたもう一人の女の子がさっと彼女を抱きかかえて、そのまま下敷きになって自分が水に落ちたんですよ。おかげで足の悪い子は転んだけれど濡れずにすんだ。そのとき偶然、県から森林インストラクターの方々が視察に来ていましてね、助け合いの大切さをよく知る山のベテランたちも驚いていました。「身を挺して人を助けるとは」って。誰に教えられなくても、危険や困難をともにすることで、弱いものを守り、できる子はできない子を助けようとする思いやりが自然と育つんです。考えてみれば、昔の里山っ子はみんなそうでしたね。

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そんな里山保育の舞台は驚くほど市街地に間近い。宮崎園長は子どもたちのために、貴重な環境を開発の波からどう守るかにも心を砕く。

宮崎 
秋になったら、子どもたちが里山で1年かけて育てた稲を収穫します。もちろん自分の手で。鎌を使って刈るんですよ。この地域も高齢化の影響で休耕地が増えました。園でそれを引き継いで、農作業を続けています。この古民家は、空き家になって荒れていたのを手入れして、森での遊び場にしています。子どもが五感を目いっぱい解放できる貴重な環境を、何としても残したいんですよ。私たちの“先生”は、自然しかいないんですから。

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地元では“御前さん”としても慕われる宮崎園長
Profile

みやざき・えいじゅ 1948年千葉県生まれ。北海道大学文学部哲学科西洋哲学専攻課程卒業。実家の寺院の住職を務めるかたわら、千葉県職員などを経て現職。2007〜08年、同園の保育風景を描いたテレビ番組や記録映画が話題を呼び、一躍「里山保育」に注目が集まった。
CONTENTS
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コンテンツ
・大自然がくれた至福の味 カニ漁師奮戦記 吉浜 崇浩(カニ漁師、株式会社「蟹蔵」代表)
・カラスを追い払うタカ─害鳥対策の現場から 石橋 美里(鷹匠)
・タカの渡りを追う 久野 公啓(写真家、渡り鳥研究家)
・微生物が創り出す極上ワイン 中村 雅量(奥野田葡萄酒醸造株式会社 代表取締役)
・「海藻の森づくり」で海も人も健康に 佐々木 久雄(NPO法人 環境生態工学研究所理事)
・大学をニホンイシガメの繁殖地に 楠田 哲士(岐阜大学応用生物科学部准教授)
・面白くて、おいしい「キッチン火山実験」 林 信太郎(秋田大学教授、秋田大学附属小学校校長)
・世界で唯一、エビとカニの水族館 森 拓也(すさみ町立エビとカニの水族館館長)
・都会の真ん中に“山”をつくる 田瀬 理夫(造園家、プランタゴ代表)
・一粒万倍 美味しい野菜はタネが違う 野口 勲(野口のタネ/野口種苗研究所代表)
・都市の里山に宿る神々 ケビン・ショート(ナチュラリスト、東京情報大学教授)
・ムササビ先生、今夜も大滑空観察中 岡崎 弘幸(中央大学附属中学校・高等学校教諭)
・保津川下り400年─清流を守る船頭の心意気 森田 孝義(船士)
・小笠原の「希少種を襲うノネコ」引っ越し大作 小松 泰史(獣医師)
・チリモンを探せ! 藤田 吉広(きしわだ自然資料館専門員)
・スズメバチハンター走る! 松丸 雅一(養蜂家)
・東京湾のサンゴを見つめて 竹内 聖一(NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団理事長)
・芝とシカのふしぎな関係 片山 一平(京都府立桂高校教諭)
・ドブ池ドブ川奇跡の復活炭博士が行く 小島 昭(群馬工業高等専門学校特命教授)
・「木一本、鰤(ぶり)千本」─豊かな海を育んだ海底湧水の秘密 張 勁(富山大学教授)
・わくわくドキドキ! 夏の夜の生きもの探し 佐々木洋(プロ・ナチュラリスト)
・かわいい変顔 虫目で見つけた! 鈴木海花(フォトエッセイスト)
・癒しの森でいのちを洗う 降矢英成(心療内科医)
・ブナの山が育てた神の魚 杉山秀樹(秋田県立大学客員教授)
・自然と調和する酪農郷 二瓶 昭(酪農家、NPO法人えんの森理事長)
・漁師が見た琵琶湖 戸田直弘(漁師)
・田んぼの恵みはお米だけじゃない 石塚美津夫(NPO法人「食農ネットささかみ」理事長)
・「結」の心を伝えたい 和田利治(屋根葺き技術士)
・多摩川復活の夢 山崎充哲(淡水魚類・魚道研究家)
・モイヤー博士の愛した島 中村宏治(水中カメラマン)
・白神山地が育む奇跡の菌 高橋慶太郎(秋田県総合食品研究センター主席研究員)
・ありがとう、ハチゴロウ 佐竹節夫(コウノトリ湿地ネット代表)
・ヤイロチョウの森の守り人 中村滝男(生態系トラスト協会会長)
・水辺って、こんなに面白い! 井上大輔(福岡県立北九州高等学校教諭)
・地熱染め 色彩の魔術 高橋一行(地熱染色作家)
・里山っ子ばんざい! 宮崎栄樹(木更津社会館保育園園長)
・金沢和傘の伝統を引き継ぐ 間島 円(和傘職人)
・「竹のこころ」を伝えたい ジョン・海山・ネプチューン
・クマのクーちゃん 人工冬眠大作戦! 小宮輝之(上野動物園 園長)
・まつたけ十字軍がゆく 吉村文彦(まつたけ十字軍運動代表)
・氷の匠──冬に育む夏の美味 阿左美哲男(天然氷蔵元)
・日本でただひとりのカエル捕り名人 大内一夫(カエル販売業)
・「村の鍛冶屋」の火を守る 野口廣男(鍛冶職人)
・杉線香づくり100年 駒村道廣(線香職人)
・空師(そらし)──伐って活かす巨木のいのち 熊倉純一
・日本ミツバチに学んだこと 藤原誠太
・満天の星に魅せられて 小千田節男
・ブドウ畑に実る夢 ブルース・ガットラヴ
・タゲリ舞う里を描いて 森上義孝
・ホタル博士、水辺を想う 大場信義
・左官は「風景」を生み出す職人 挟土秀平
・僕は「SATOYAMA」の応援団長 柳生 博
ムツカケ名人に学ぶ──豊穣の海に伝わる神業漁法 岡本忠好
・イチローの バットを作った男 久保田五十一(バットマイスター)

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