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「自然」に魅せられて
環境省のレッドリストでは、絶滅危惧TB類に分類されている
ヤイロチョウの森の守り人 中村滝男(生態系トラスト協会会長)
四万十川の河口から100km近く遡った流域の森に、世にも美しい鳥がすむという。
めったに姿を現さない「幻の鳥」に魅せられて、森を守ることに人生をかけた男がいる。

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ヤイロチョウはスズメより少し大きい鳥で、毎年5月頃、南方から九州や四国に飛来する。熱帯の鳥にふさわしく、その羽は緑、赤、白、黒、茶、コバルトなど、さまざまな原色にいろどられ、それが「八色鳥(やいろちょう)」という名の由来になった。

中村
「最初に国内の営巣が確認されたのは四万十川流域の森でした。70年余り前のことです。高知県では県鳥になっているんですが、地元でも見たことのある人はまれです。声が聞こえても姿が見えないので土佐の山では民話ができたほどです」

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親鳥がヒナの口に運んでいるのがシーボルトミミズ


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中央のくぼ地が集落。奥地は大規模な人工林になっているため、多様な夏鳥の生息可能な天然林は、集落の周囲の山に限られている
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愛用の双眼鏡を片手に、全国を講演や打ち合わせに奔走する日々だ

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やおら、「ピフィー、ピフィー」と、中村さんの口から、澄んだ鳴き声が飛び出した。図鑑で見たヤイロチョウに憧れて高知の大学を選んだ中村さんにして、実際にヤイロチョウの姿を見るまでに25年の歳月を要したという。

中村 
「東京の『野鳥の会』本部に勤務していた1993年に、四万十のヤイロチョウの森が開発の危機にさらされていると知って、意を決して高知に帰ってきたのです。県鳥なのに、地元にはヤイロチョウの保護区もない。日本中に1カ所ぐらい、ヤイロチョウのための土地があってもいいのではないか、そのためにトラスト運動をしようと」

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地元でヤイロチョウの生態を調べるうちに、わかってきたことがある。なぜ彼らは四万十川の流域に巣をつくるのか。

中村 
「彼らの餌はミミズ、とりわけ四万十川流域ではシーボルトミミズという、紫がかったミミズです。これは成長すると40cmにもなる大物ですが、四万十にはこのシーボルトミミズの仲間だけで10種類もいる。ほかの種類も合わせると、30種類近くのミミズがいるらしいのです。つまり、四万十川流域の森は、土の中の生態系が非常に豊かなんですね。しかも、ヤイロチョウは水辺のある谷間に生息します。四万十の森にはそういう谷間が多いのです」


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94年、高知県生態系保護協会(2005年より生態系トラスト協会と名称変更)を設立した中村さんは、ヤイロチョウの生息する森を守るべく、土地の取得にとりかかる。

中村 
「ところが、最初に紹介してもらった土地を買い取るまでに8年もかかってしまいました。土地の持ち主は亡くなっていて、相続した家族は県外に散らばっていた。探し当てて趣旨を説明しても、『父の遺品を調べたけど八色帳という帳面はありませんでした』といわれる始末。ヤイロチョウを守るためならいかなる困難もいとわないという信念がないと、森は取得できない」

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地元の竹を使ってボランティアが完成させた観察小屋(上)。水場の周辺を整備するボランティアメンバー(下)

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固い信念が実り、「10年で100ha取得」の目標は、いま9割方実現しつつある。今年はヤイロチョウの観察小屋も完成した。森を調査するうち、サシバやブッポウソウなども減少していることを知り、森林の夏鳥を保護する活動に範囲を広げるようになった。めざしているのはイギリスのナショナルトラストのような息の長い活動だ。

中村 
「ヤイロチョウの森は、集落をぐるりと取り囲んでいます。早朝、集落のまんなかに立つと、真っ白な霧のなかから、ヤイロチョウだけでなく、あらゆる鳥の声が降ってきます。それはもう、夢のような世界です。台湾では、ヤイロチョウは竹林に生息しています。竹林からあの美しい鳥が夜空に飛び立つ姿を想像してごらんなさい。まるで絹の衣装を着た『かぐや姫』が月に帰るときのように見えませんか? かぐや姫のモデルがヤイロチョウだとすれば、ヤイロチョウを守る私たちは『竹取の翁・媼(おうな)のような存在ではないかと思いますね(笑)」

Profile

なかむら・たきお 1951年山口県生まれ。高知大学で学んだあと、高知県で「緑の党」を設立、市議となる。日本野鳥の会などを経て、社団法人生態系トラスト協会を設立。四万十町に「ヤイロチョウの森」をつくるトラスト活動に従事する。著書に『ヤイロチョウ』などがある。

CONTENTS
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コンテンツ
・面白くて、おいしい「キッチン火山実験」 林 信太郎(秋田大学教授、秋田大学附属小学校校長)
・世界で唯一、エビとカニの水族館 森 拓也(すさみ町立エビとカニの水族館館長)
・都会の真ん中に“山”をつくる 田瀬 理夫(造園家、プランタゴ代表)
・一粒万倍 美味しい野菜はタネが違う 野口 勲(野口のタネ/野口種苗研究所代表)
・都市の里山に宿る神々 ケビン・ショート(ナチュラリスト、東京情報大学教授)
・ムササビ先生、今夜も大滑空観察中 岡崎 弘幸(中央大学附属中学校・高等学校教諭)
・保津川下り400年─清流を守る船頭の心意気 森田 孝義(船士)
・小笠原の「希少種を襲うノネコ」引っ越し大作 小松 泰史(獣医師)
・チリモンを探せ! 藤田 吉広(きしわだ自然資料館専門員)
・スズメバチハンター走る! 松丸 雅一(養蜂家)
・東京湾のサンゴを見つめて 竹内 聖一(NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団理事長)
・芝とシカのふしぎな関係 片山 一平(京都府立桂高校教諭)
・ドブ池ドブ川奇跡の復活炭博士が行く 小島 昭(群馬工業高等専門学校特命教授)
・「木一本、鰤(ぶり)千本」─豊かな海を育んだ海底湧水の秘密 張 勁(富山大学教授)
・わくわくドキドキ! 夏の夜の生きもの探し 佐々木洋(プロ・ナチュラリスト)
・かわいい変顔 虫目で見つけた! 鈴木海花(フォトエッセイスト)
・癒しの森でいのちを洗う 降矢英成(心療内科医)
・ブナの山が育てた神の魚 杉山秀樹(秋田県立大学客員教授)
・自然と調和する酪農郷 二瓶 昭(酪農家、NPO法人えんの森理事長)
・漁師が見た琵琶湖 戸田直弘(漁師)
・田んぼの恵みはお米だけじゃない 石塚美津夫(NPO法人「食農ネットささかみ」理事長)
・「結」の心を伝えたい 和田利治(屋根葺き技術士)
・多摩川復活の夢 山崎充哲(淡水魚類・魚道研究家)
・モイヤー博士の愛した島 中村宏治(水中カメラマン)
・白神山地が育む奇跡の菌 高橋慶太郎(秋田県総合食品研究センター主席研究員)
・ありがとう、ハチゴロウ 佐竹節夫(コウノトリ湿地ネット代表)
・ヤイロチョウの森の守り人 中村滝男(生態系トラスト協会会長)
・水辺って、こんなに面白い! 井上大輔(福岡県立北九州高等学校教諭)
・地熱染め 色彩の魔術 高橋一行(地熱染色作家)
・里山っ子ばんざい! 宮崎栄樹(木更津社会館保育園園長)
・金沢和傘の伝統を引き継ぐ 間島 円(和傘職人)
・「竹のこころ」を伝えたい ジョン・海山・ネプチューン
・クマのクーちゃん 人工冬眠大作戦! 小宮輝之(上野動物園 園長)
・まつたけ十字軍がゆく 吉村文彦(まつたけ十字軍運動代表)
・氷の匠──冬に育む夏の美味 阿左美哲男(天然氷蔵元)
・日本でただひとりのカエル捕り名人 大内一夫(カエル販売業)
・「村の鍛冶屋」の火を守る 野口廣男(鍛冶職人)
・杉線香づくり100年 駒村道廣(線香職人)
・空師(そらし)──伐って活かす巨木のいのち 熊倉純一
・日本ミツバチに学んだこと 藤原誠太
・満天の星に魅せられて 小千田節男
・ブドウ畑に実る夢 ブルース・ガットラヴ
・タゲリ舞う里を描いて 森上義孝
・ホタル博士、水辺を想う 大場信義
・左官は「風景」を生み出す職人 挟土秀平
・僕は「SATOYAMA」の応援団長 柳生 博
ムツカケ名人に学ぶ──豊穣の海に伝わる神業漁法 岡本忠好
・イチローの バットを作った男 久保田五十一(バットマイスター)

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