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「自然」に魅せられて
かわいい変顔 虫目で見つけた! 鈴木海花(フォトエッセイスト)
チョウでもガでも、見つけたら撮ったり飼育したり。
著書『虫目で歩けば』が話題の鈴木海花さんは虫好き女性のトップランナー。
定番の昆虫採集とはひと味違う、虫の愛で方の極意とは?
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「虫に触れない人でもカメラがあればその美しさや面白さを堪能できますよ」。本日のモデルはオオクモヘリカメムシ
 

虫の骨のない生き方≠ノ憧れて
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春は「虫好き」にとって待ち遠しい季節だ。街角の緑が芽吹き、虫たちを誘いはじめると、鈴木海花さんはもう居ても立ってもいられなくなる。
鈴木
虫の少ない冬場は図鑑などを見ながら、「これが見たい、あれも見たい」と虫への思いを蓄えます。春になると、そのエネルギーを一気に爆発させるんです。短距離走のスタートダッシュみたいに。でも走り出すんじゃなく、虫目≠ノなって、ゆっくり見て歩くんです。
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ヒメジャノメの幼虫。丸い顔にとがった耳(角)はまるで猫!?
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珍奇希少な虫をどこまでも追いかける、いわゆる「虫屋」ではない。鈴木さんの虫探しの場所はもっぱら身近な公園や緑地。出会うのはありふれた小さな虫ばかりだ。でもその発見が、楽しくてたまらないという。
鈴木
誰もが見過ごしがちな道端の何げない緑に足を止めて、葉っぱの上を5秒ほどじっと見つめていると、不思議なことに、はじめは見えなかった虫が見えてくるんですよ。1匹見つかると2匹、3匹と、体長1cmにも満たない小さな虫に目のピントが合ってくるからおもしろい。そういう感覚のことを、私は虫目≠ニ呼んでいます。虫目を磨くコツは、まずカメより遅く歩くこと(笑)。立ち止まってじっくり観察すると、たとえば駅までの道のりでいつも見かける小さな草むらにも、思いがけなく豊かな世界を発見することがあるんです。
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海の近くで生まれ、以前は海の生き物が好きだった。虫目に目覚めたのは十数年前、1匹のクモとの出会いがきっかけだった。
鈴木
家族でよく海へ行ったりしたのですが、子どもが成長するにつれてそういう機会も少なくなり、つまらないなと思っていたある日、ふと部屋の壁を見ると、1匹のハエトリグモがいたんです。手元にたまたま写真用のルーペがあったので、面白半分にパッとかぶせてのぞいてみたら、びっくり! 巣を張らずに獲物をつかまえるハエトリグモは、クモの中でも視覚が発達しているんですね。そのクモが頭部を上げると同時に、大きな目玉が黒から灰色に色を変えて、こっちを見たんです。こんな小さな虫と目が合うなんて。身近にこんなおもしろい世界があるとは思ってもみませんでした。そうと知って辺りを探してみたら、ほかの虫たちが次々と見えてきて、「これならわざわざ海まで行かなくてもいいじゃない」と(笑)。以来、虫への興味は膨らみ続け、いまだに収まる気配はありません。
── 
「虫を好きになってから人生が3、4倍楽しくなった」と喜ぶ鈴木さん。どこにそれほど惹かれるのか。
鈴木
無脊椎動物の虫は背骨がないかわりに、外骨格といって、体表が硬くなっています。この外骨格は、成長とともに伸びてはくれません。だから虫は成長の過程で脱皮をくり返し、体の形状やしくみそのものも変えていく。つまり「変態」するわけです。そんな無脊椎動物ならではの骨のない生き方≠ヘ、変態をしない脊椎動物の私から見ると、すごく奔放で奇想天外。そこに憧れさえ覚えてしまうんです。その意味で、卵から幼虫、サナギ、成虫へと完全変態を遂げ、しかも劇的に姿を変えていくチョウやガの仲間には、特別な思いがありますね。もちろんその翅の多彩な色模様、壊れそうなはかない姿形にも魅力を感じます。喩えるなら、チョウの美しさはあでやかな振袖、ガは小粋な江戸小紋といったところでしょうか。
鈴木さんが撮影したアオバセセリの幼虫(中央)。「“虫目”になると周囲が見えなくなるから危ないんです、私」
何度見ても感動する羽化の神秘
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網でチョウをつかまえることはほとんどしない鈴木さんだが、卵や幼虫を見つけては採集し、飼育している。変態するその一生を、間近で見届けたいからだ。
鈴木 
いまはゴマダラチョウ、アカボシゴマダラ、アサギマダラの幼虫を飼っています。かわいいし、何度飼っても驚きと感動の連続ですよ。チョウの飼育のクライマックスは、やはり羽化へと至るプロセスです。終齢幼虫(数回の脱皮が終わった段階)がサナギになる前、前蛹(ぜんよう)と呼ばれる状態を迎えると、それまでエサをもりもり食べていたのが嘘のようにシンと静まりかえって、もう動きません。その姿は神秘的でさえあり、見るたびに、間もなく始まるいのちの変容への期待と厳粛な思いをかきたてられます。
公園の手すりで見つけた小さな虫もルーペで観察
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最初にチョウを飼育したときのこと、鈴木さんは羽化の瞬間をぜひ自分の目で見たいと思い、徹夜して待ち構えた。ところが……。
鈴木 
早朝、ナミアゲハのサナギが黄色い後光のような色を発していました。それがいよいよ始まるという兆しだったのですが、決定的瞬間を万全の態勢で迎えたくて、トイレへ立ったわずかなスキに、羽化が始まってしまいました(笑)。もともとチョウやガは種ごとに成長の条件・過程が違うので、飼うたびに難しさを痛感します。それでも、変態する虫の一生を見られる飼育観察の楽しさは、何物にもかえられません。
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トゲに毒があるイラガの幼虫もお気に入り。刺されながらも採集し、飼った。ところが、これほど虫が好きなのに、3年前に著書を発表するまで、虫好きであることをなかなか公にできなかった。
鈴木 
女性の虫好きに対する世間の目は、男性にくらべてまだまだ厳しいんですよ。相手を間違えてうっかり口に出そうものなら、露骨にいやな顔をされ、「女性なのに変わっている」と変人扱いされかねません。だから昔から虫好きの女性はけっこういるのに、みんな孤独。同じ思いを抱えているんじゃないでしょうか。実際、本を出版してから同好の士が増えましたし、女性限定の観察会が開かれるなど、周囲では虫好き女性の輪が少しずつ広がっています。
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虫たちが棲む環境を保全するのは大切だと頭ではわかっているのに、虫と聞いただけでヒステリックに反応する人もいる。

鈴木 
虫は人間にとって、管理下におけない「身近な野生」なんだと思うんです。どんな行動をするかわからないし、いきなり飛びかかってくるかもしれない。だから警戒したり、忌避したりするのは自然な反応です。私は、虫嫌いな人にまであえて虫を好きになれというつもりはありません。でも、超のつく虫好きと、虫嫌いの中間にいる人たちに、専門の知識なんかなくても虫の魅力は楽しめますよ、歩き方や見方をちょっと変えるだけで新たな世界が広がりますよ、と伝えたい。私が実践する“虫目”とは、身近な自然のディテールの美しさ、おもしろさを発見できる目のことです。その発見の積み重ねが、生息環境の保全につながっていく可能性は大です。
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トナカイのような2本の角が愛らしいゴマダラチョウの幼虫

Profile

すずき・かいか 自然や生きもの、旅の記事などを、写真とともに雑誌・単行本に執筆。著書に『虫目で歩けば』『よりみちチェコ』など。隔月に東京・原宿の喫茶店で虫好きが気軽に集まる「虫カフェ」を主宰している。2013年5月には2冊目の虫関連書を出版予定。
ブログ『虫目で歩けば』
昆虫写真提供:鈴木海花
CONTENTS
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コンテンツ
・大自然がくれた至福の味 カニ漁師奮戦記 吉浜 崇浩(カニ漁師、株式会社「蟹蔵」代表)
・カラスを追い払うタカ─害鳥対策の現場から 石橋 美里(鷹匠)
・タカの渡りを追う 久野 公啓(写真家、渡り鳥研究家)
・微生物が創り出す極上ワイン 中村 雅量(奥野田葡萄酒醸造株式会社 代表取締役)
・「海藻の森づくり」で海も人も健康に 佐々木 久雄(NPO法人 環境生態工学研究所理事)
・大学をニホンイシガメの繁殖地に 楠田 哲士(岐阜大学応用生物科学部准教授)
・面白くて、おいしい「キッチン火山実験」 林 信太郎(秋田大学教授、秋田大学附属小学校校長)
・世界で唯一、エビとカニの水族館 森 拓也(すさみ町立エビとカニの水族館館長)
・都会の真ん中に“山”をつくる 田瀬 理夫(造園家、プランタゴ代表)
・一粒万倍 美味しい野菜はタネが違う 野口 勲(野口のタネ/野口種苗研究所代表)
・都市の里山に宿る神々 ケビン・ショート(ナチュラリスト、東京情報大学教授)
・ムササビ先生、今夜も大滑空観察中 岡崎 弘幸(中央大学附属中学校・高等学校教諭)
・保津川下り400年─清流を守る船頭の心意気 森田 孝義(船士)
・小笠原の「希少種を襲うノネコ」引っ越し大作 小松 泰史(獣医師)
・チリモンを探せ! 藤田 吉広(きしわだ自然資料館専門員)
・スズメバチハンター走る! 松丸 雅一(養蜂家)
・東京湾のサンゴを見つめて 竹内 聖一(NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団理事長)
・芝とシカのふしぎな関係 片山 一平(京都府立桂高校教諭)
・ドブ池ドブ川奇跡の復活炭博士が行く 小島 昭(群馬工業高等専門学校特命教授)
・「木一本、鰤(ぶり)千本」─豊かな海を育んだ海底湧水の秘密 張 勁(富山大学教授)
・わくわくドキドキ! 夏の夜の生きもの探し 佐々木洋(プロ・ナチュラリスト)
・かわいい変顔 虫目で見つけた! 鈴木海花(フォトエッセイスト)
・癒しの森でいのちを洗う 降矢英成(心療内科医)
・ブナの山が育てた神の魚 杉山秀樹(秋田県立大学客員教授)
・自然と調和する酪農郷 二瓶 昭(酪農家、NPO法人えんの森理事長)
・漁師が見た琵琶湖 戸田直弘(漁師)
・田んぼの恵みはお米だけじゃない 石塚美津夫(NPO法人「食農ネットささかみ」理事長)
・「結」の心を伝えたい 和田利治(屋根葺き技術士)
・多摩川復活の夢 山崎充哲(淡水魚類・魚道研究家)
・モイヤー博士の愛した島 中村宏治(水中カメラマン)
・白神山地が育む奇跡の菌 高橋慶太郎(秋田県総合食品研究センター主席研究員)
・ありがとう、ハチゴロウ 佐竹節夫(コウノトリ湿地ネット代表)
・ヤイロチョウの森の守り人 中村滝男(生態系トラスト協会会長)
・水辺って、こんなに面白い! 井上大輔(福岡県立北九州高等学校教諭)
・地熱染め 色彩の魔術 高橋一行(地熱染色作家)
・里山っ子ばんざい! 宮崎栄樹(木更津社会館保育園園長)
・金沢和傘の伝統を引き継ぐ 間島 円(和傘職人)
・「竹のこころ」を伝えたい ジョン・海山・ネプチューン
・クマのクーちゃん 人工冬眠大作戦! 小宮輝之(上野動物園 園長)
・まつたけ十字軍がゆく 吉村文彦(まつたけ十字軍運動代表)
・氷の匠──冬に育む夏の美味 阿左美哲男(天然氷蔵元)
・日本でただひとりのカエル捕り名人 大内一夫(カエル販売業)
・「村の鍛冶屋」の火を守る 野口廣男(鍛冶職人)
・杉線香づくり100年 駒村道廣(線香職人)
・空師(そらし)──伐って活かす巨木のいのち 熊倉純一
・日本ミツバチに学んだこと 藤原誠太
・満天の星に魅せられて 小千田節男
・ブドウ畑に実る夢 ブルース・ガットラヴ
・タゲリ舞う里を描いて 森上義孝
・ホタル博士、水辺を想う 大場信義
・左官は「風景」を生み出す職人 挟土秀平
・僕は「SATOYAMA」の応援団長 柳生 博
ムツカケ名人に学ぶ──豊穣の海に伝わる神業漁法 岡本忠好
・イチローの バットを作った男 久保田五十一(バットマイスター)

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