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「自然」に魅せられて
左=愛用の笠をかぶって活動する前田さん。右=アキアカネは棒などの先端にとまる習性がある
ふるさとの空に赤トンボを呼び戻す
前田 清悟(NPO法人 たつの・赤トンボを増やそう会 理事長)
かつて日本中どこでも見られた、赤トンボが群れ飛ぶ光景は、赤トンボの代表格といえるアキアカネの減少とともに消えつつある。童謡『赤とんぼ』の作詞者である三木露風のふるさと、兵庫県たつの市に、アキアカネの復活を夢見て奮闘する人がいる。

童謡の舞台なのに赤トンボがいない
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夕やけ小やけの赤とんぼ 負われて見たのは いつの日か」で始まる童謡『赤とんぼ』。三木露風が作詞、山田耕筰が作曲して大正10年に発表されたこの曲は、いまなお老若男女に親しまれている。日本には体の赤いトンボが20種以上生息するが、ここで歌われている「赤とんぼ」とは、アキアカネだといわれている。
前田

4番の歌詞に「とまっているよ 竿の先」とあるでしょう。アキアカネは棒の先端にとまる習性があるんです。三木露風は移住先の北海道で赤トンボを見て故郷の龍野(現・たつの市)を思い出し、この詞を書いたといわれています。

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上=小京都と呼ばれるたつの市内。下=龍野城跡近くに残る三木露風の生家。6歳で母と別れるまで、この家で暮らした
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かつては日本中で見ることのできたアキアカネだが、現在は7府県でレッドリストに掲載されるほど、急激に数を減らしている。
前田
最初にアキアカネが減っていると知ったのは、地元の旅館の社長の相談からでした。「たつの市へ行けば赤トンボが見られるのですね?」というお客さんからの電話があったそうです。しかし、昔のようにアキアカネが群れ飛ぶ姿はまったく見られなくなっていて、どこを案内したらいいのかわからなかったというのです。これはなんとかしなければいけない、と赤トンボを増やすための市民グループを立ち上げることにしました。13年前、家族の事情で大阪から郷里のたつの市に居を移し、持っていたスキルを活かして、たつの市の魅力を内外に発信するウェブサイトの制作・運営を始めてしばらく経った頃のことです。2007年に姫路市長はじめ著名人の方々と新春の夢を語る座談会に参加し、「龍野に赤トンボを復活させたい」と発言しました。後から主催者の神戸新聞の支局長から「時間のかかる取り組みになると思うよ」と言われました。実際そのとおりになりましたね。

減少の犯人は?
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赤トンボを増やす取り組みに時間がかかったのは、近くにアキアカネの繁殖方法を知る人がいなかったからだ。
前田

アキアカネを増やすためにまず捕獲しようとしたのですが、そもそも本物のアキアカネを見たことがなかったのです。幸い地元にも日本トンボ学会の方がおられて確認することができました。秋の繁殖期になんとか21対を捕獲して飼育カゴを作って飼育しましたが、何も生まれませんでした。また、偶然、メスのしっぽを水に浸けると産卵することはわかったのですが、その後も孵化がなかなかうまくいかない。水量や水温の調整が難しく、試行錯誤を繰り返しました。首尾よく孵化に成功したと思い、顕微鏡を覗き込んだら、そこにいたのはミジンコだった、なんてこともありました。しかし、孵化させる方法を教えてくださる方がいて、ようやく室内での羽化に成功しました。その後は屋外での羽化に取り組み、卵やヤゴを天敵から守るために、木の箱などを使って飼育を試みました。そして、トロ箱を使ったり木箱を改良したりして水位を安定させ、エサのミジンコを補充する方法で、羽化数は増えていきました。

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増やす方法ばかりでなく、アキアカネが減った原因も、活動を始めた頃はわかっていなかった。
前田

2012年に開催した当会の活動報告を兼ねた講演会で、石川県立大学の上田哲行教授(現・名誉教授)が、田植え前に使用する箱処理剤の殺虫成分がアキアカネを減少させたと述べられました。アキアカネは11月ぐらいに田んぼの浅い水たまりに産卵し、翌年の7月に羽化するまでの約9カ月間田んぼの水中で過ごします。当然田植え時の箱処理剤の影響を受けると思われますので、私たちは上田先生のアドバイスで、従来使われている箱処理剤とは異なるものを試すことにしました。そこで農家の方に協力をお願いし、ある箱処理剤を使ってもらったところ、田んぼに設置した飼育カゴでかなりの数が羽化しました。またその田んぼではシラサギが他の田んぼよりもせわしなく餌を食べている様子が観察できました。つまり田んぼの中の水生生物も増えていることがわかったのです。

左=首から下げているのはカメラとビデオ。右=羽化したアキアカネは観察のためマーキングしてから放す

アキアカネが生育できる農法とお米のブランド化
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たつの市内では赤トンボを守る協力の環が広がってきている。特産品を作りたいと考える県や市も農家の支援に乗り出した。近隣の農家のグループ「たつの赤とんぼ米研究会」が、アキアカネが成育できる農法で栽培した米を「たつの赤とんぼ米」として売り出し始めた。
前田
協力していただける農家には、農薬の変更だけでなく、稲の育成の途中で田んぼの水を抜く「中干し」もやめてもらいました。水がなくなったらヤゴは死んでしまうからです。またアキアカネが産卵しやすいよう収穫後の田んぼには浅い水たまりを残してもらっています。こうしてできた「たつの赤とんぼ米」はもっちりとした歯ごたえがあり、甘みがあって香りが良い米になりました。食味は最高ランク。今後はこれをブランド化することで農家に利益を還元し、さらに参加農家を増やしていくことが目標です。この農法で栽培する面積が増えたら自然にアキアカネも増えると思われます。
また、私たちが実験のために借りている休耕田では、休耕田対策としてマコモダケの栽培を始めています。稲と同じように水面下の土に根を張る植物で、中華料理では高級食材として扱われます。家庭ではてんぷらやみそ汁の具にしても美味しいですよ。栽培に手間がかかるのでなかなか参入してくれる農家はないのですが、挑戦してくれる人が見つかるとうれしいですね。休耕田になると地面が乾いているためアキアカネは卵を産めません。マコモダケの実は良い値段で売れますから、アキアカネや水生生物を増やすために、転作時の作物として採用してほしいです。
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上=たつの・赤トンボを増やそう会の活動拠点となっている「トンボ池」の全景。下=様々な実験をしてきた赤トンボハウスの前で仲間と。
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上=赤トンボ飼育田。田植えと水入れ時期を変えて実験している。左=敷地の最奥にある谷池。トンボ池一帯の水の供給源だ
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赤トンボが舞い飛ぶ光景を末永く残していくため、地元の小学生を対象にした啓蒙活動も続けている。
前田
小学校の特別講座として稲作を体験してもらうと同時に、赤トンボについて関心をもってもらおうとしているんです。講座の中では必ず童謡『赤とんぼ』を小生がハーモニカを吹いて子供たちが合唱しますよ。赤トンボが群れ飛ぶ環境をつくることは水辺の生き物を守ることにつながります。今年はこれまでで最多の346匹の羽化数を記録しましたから、かつての里山の環境に一歩近づいたような気がします。
Profile

まえだ・せいご 1949年兵庫県たつの市生まれ。大学卒業後、大阪の企業のインターネット部門に勤務。2005年に郷里であるたつの市に戻り、たつの市の観光・文化情報を発信するサイト「たつのへようきたったなぁ」を開設。2008年たつの・赤トンボを増やそう会を立ち上げる(2014年にNPO法人化)。学生時代から音楽に傾倒、作曲も手がける
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①孵化したばかりのヤゴ。体長0.5mm。②稲の茎を伝って上り、羽化したあとのヤゴの殻。③羽化したばかりのアキアカネはまだ赤くない。涼しい山で夏を越し、秋に再び人里へ戻ってきたときには鮮やかな赤い色になっている。④産卵するアキアカネ。雌雄連結し、雌が腹を水面に打ちつける
CONTENTS
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コンテンツ
・溺れるカエルを救いたい!秘密兵器を開発した少女 藤原 結菜
・ふるさとの空に赤トンボを呼び戻す 前田 清悟(NPO法人たつの・赤トンボを増やそう会理事長)
・大自然がくれた至福の味 カニ漁師奮戦記 吉浜 崇浩(カニ漁師、株式会社「蟹蔵」代表)
・カラスを追い払うタカ─害鳥対策の現場から 石橋 美里(鷹匠)
・タカの渡りを追う 久野 公啓(写真家、渡り鳥研究家)
・微生物が創り出す極上ワイン 中村 雅量(奥野田葡萄酒醸造株式会社 代表取締役)
・「海藻の森づくり」で海も人も健康に 佐々木 久雄(NPO法人 環境生態工学研究所理事)
・大学をニホンイシガメの繁殖地に 楠田 哲士(岐阜大学応用生物科学部准教授)
・面白くて、おいしい「キッチン火山実験」 林 信太郎(秋田大学教授、秋田大学附属小学校校長)
・世界で唯一、エビとカニの水族館 森 拓也(すさみ町立エビとカニの水族館館長)
・都会の真ん中に“山”をつくる 田瀬 理夫(造園家、プランタゴ代表)
・一粒万倍 美味しい野菜はタネが違う 野口 勲(野口のタネ/野口種苗研究所代表)
・都市の里山に宿る神々 ケビン・ショート(ナチュラリスト、東京情報大学教授)
・ムササビ先生、今夜も大滑空観察中 岡崎 弘幸(中央大学附属中学校・高等学校教諭)
・保津川下り400年─清流を守る船頭の心意気 森田 孝義(船士)
・小笠原の「希少種を襲うノネコ」引っ越し大作 小松 泰史(獣医師)
・チリモンを探せ! 藤田 吉広(きしわだ自然資料館専門員)
・スズメバチハンター走る! 松丸 雅一(養蜂家)
・東京湾のサンゴを見つめて 竹内 聖一(NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団理事長)
・芝とシカのふしぎな関係 片山 一平(京都府立桂高校教諭)
・ドブ池ドブ川奇跡の復活炭博士が行く 小島 昭(群馬工業高等専門学校特命教授)
・「木一本、鰤(ぶり)千本」─豊かな海を育んだ海底湧水の秘密 張 勁(富山大学教授)
・わくわくドキドキ! 夏の夜の生きもの探し 佐々木洋(プロ・ナチュラリスト)
・かわいい変顔 虫目で見つけた! 鈴木海花(フォトエッセイスト)
・癒しの森でいのちを洗う 降矢英成(心療内科医)
・ブナの山が育てた神の魚 杉山秀樹(秋田県立大学客員教授)
・自然と調和する酪農郷 二瓶 昭(酪農家、NPO法人えんの森理事長)
・漁師が見た琵琶湖 戸田直弘(漁師)
・田んぼの恵みはお米だけじゃない 石塚美津夫(NPO法人「食農ネットささかみ」理事長)
・「結」の心を伝えたい 和田利治(屋根葺き技術士)
・多摩川復活の夢 山崎充哲(淡水魚類・魚道研究家)
・モイヤー博士の愛した島 中村宏治(水中カメラマン)
・白神山地が育む奇跡の菌 高橋慶太郎(秋田県総合食品研究センター主席研究員)
・ありがとう、ハチゴロウ 佐竹節夫(コウノトリ湿地ネット代表)
・ヤイロチョウの森の守り人 中村滝男(生態系トラスト協会会長)
・水辺って、こんなに面白い! 井上大輔(福岡県立北九州高等学校教諭)
・地熱染め 色彩の魔術 高橋一行(地熱染色作家)
・里山っ子ばんざい! 宮崎栄樹(木更津社会館保育園園長)
・金沢和傘の伝統を引き継ぐ 間島 円(和傘職人)
・「竹のこころ」を伝えたい ジョン・海山・ネプチューン
・クマのクーちゃん 人工冬眠大作戦! 小宮輝之(上野動物園 園長)
・まつたけ十字軍がゆく 吉村文彦(まつたけ十字軍運動代表)
・氷の匠──冬に育む夏の美味 阿左美哲男(天然氷蔵元)
・日本でただひとりのカエル捕り名人 大内一夫(カエル販売業)
・「村の鍛冶屋」の火を守る 野口廣男(鍛冶職人)
・杉線香づくり100年 駒村道廣(線香職人)
・空師(そらし)──伐って活かす巨木のいのち 熊倉純一
・日本ミツバチに学んだこと 藤原誠太
・満天の星に魅せられて 小千田節男
・ブドウ畑に実る夢 ブルース・ガットラヴ
・タゲリ舞う里を描いて 森上義孝
・ホタル博士、水辺を想う 大場信義
・左官は「風景」を生み出す職人 挟土秀平
・僕は「SATOYAMA」の応援団長 柳生 博
ムツカケ名人に学ぶ──豊穣の海に伝わる神業漁法 岡本忠好
・イチローの バットを作った男 久保田五十一(バットマイスター)

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