2005(平成17)年10月29日(土)、“100年後トキを再び日本の空へ”という夢を持ったシンポジウムを大分県玖珠郡九重町の九重文化センターで開催しました。このシンポジウムは、“トキのすめる環境づくり”をテーマに活動する地元団体、NPO法人九重(くじゅう)トキゆめプロジェクト21(以下、トキゆめプロジェクト)と、九重町で“人と自然、自然環境と地域社会の共存・共栄”をテーマにした自然学校開校準備中のセブン-イレブンみどりの基金とが連携をはかり、合同主催で行ったものです。会場には九重町内外から約200人が集まり、「トキ子ども大使」(2005年8月、九重町の小中学生8名が新潟県佐渡市を訪問)も聴講しました。
まず始めに、基調講演「トキと生息地の保護における住民参加の意義と課題」を環境文化創造研究所主席研究員で日本文理大学客員教授の蘇雲山さんからお話いただきました。中国でもトキは絶滅の危機にありましたが、1981年奇跡的に陝西省洋県草覇村で7羽の野生のトキが発見され、現在900羽にまで増えています。「住民一丸となった自然環境の復元・保全に取り組めば、30年後にはトキの住めるような環境を取り戻すことも不可能ではない」という言葉に、会場は励まされる思いでした。
続いて、中国陝西省野生動植物保護協会副秘書長の常秀雲さん、野生のトキが地域住民と共存・共栄している同省洋県草覇(そうば)村村長の華英さんのおふたりによる中国の事例が紹介されました。
トキは険しい山岳地帯など原生自然のあるところではなく、人が管理する水田を中心とした里地里山環境に棲みます。草覇村では行政と住民が一体となって有機無農薬栽培の稲作に取り組み、農業の生産性・質を向上させながら、同時に多様な生き物が豊かに生息する里地里山環境を作り出しました。その結果、トキを頂点にした生態系全体の保護・保全が実現し、保護されたトキだけでなく野生のトキも飛躍的に増えることができた、というお話でした。
次に日本からの事例として、100年後にトキの舞う霞ヶ浦を目指して自然環境保護・保全活動に取り組むNPO法人アサザ基金(以下アサザ基金)代表理事の飯島博さん、主催団体であるトキゆめプロジェクト副理事長の時松和弘さんから、2例紹介がありました。
アサザ基金では、小学校を核にした環境保全活動を展開、霞ヶ浦周辺の小学校70校を結ぶことで流域全体を網羅する広域的な取り組みを行っています。市民一人ひとりが参加できる気軽さをもちながら、森と海・湖を結ぶ大きなビジョンで市民活動をつなぎ、「環境を創造する」「市民型公共事業」が実現しているとのことです。この活動の大きさと意義の深さに、会場一同目を見張りました。
一方トキゆめプロジェクトからは、耳を傾ける地域の方々へやさしく語りかけるような親しみやすい口調で話が進められました。自分たちが住むこの九重町のよさをもう一度見直し、等身大の環境活動を今から皆でやって行こうではないか、という呼びかけにお年寄り・子どもからも賛同の声が聞こえてきました。
また、トキこども大使の子ども達が、九重町ふるさと祭りで設置した「生きもの募金箱」で集まった浄財を「トキのすめるような環境づくりに使ってください」とトキゆめプロジェクトの高橋裕二郎理事長に寄付をしました。また高橋理事長からは、中国陝西省野生動植物保護協会副秘書長の常秀雲さんに、トキを飼育しているゲージ内の状況を観察できるカメラやモニターなどを寄贈する目録を贈呈されました。
最後に、日本文理大学助教授でトキゆめプロジェクト21副理事長でもある杉浦嘉雄さんのコーディネートによる「トキのすめる里づくり」と題したパネルディスカッションでは、それぞれの立場から活発な論議が繰り広げられました。
会場に隣接する展示室では、熊本県文化企画課博物館プロジェクト班から特別にお借りしたトキの剥製を公開しました。トキの実物を目の当りにし、遠い存在だったものがより身近に感じられたようで、興味深く観察する方が多く見受けられました。
このシンポジウムは、トキの野生復帰を目指したものではなく、『トキのすめる環境づくり』を主眼にして開催したものです。100年後でよいから気長に、しかし確実な足取りで、トキが舞う豊かな自然環境を取り戻そうという夢を、200人の聴講者とともに共有できた熱い一日でした。