セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

※こちらはアーカイブ記事です。

 ホームへ戻る

 

文字サイズ
活動のご紹介

がんばろう日本!〜ドイツから日本へ〜 連載-第2回- 「ドイツの自然と人から学ぶ」

→バックナンバー

 ドイツは「森の国」と呼ばれています。また都市部でも大きく成長し枝を広げた街路樹や、道路の中央にある広面積の緑化帯が町を印象づけており、人々の生活の中に自然が溶け込み、ドイツの人たちは自然に触れることをこよなく愛していることが分かりました。その自然に人びとはどのように関わってきたのか、見聞したものをまとめてみました。
ドイツで生まれたビオトープという概念
 みなさん、「ビオトープ」という言葉を聞いたことはありますか?日本でも浸透してきていますが、実は100年も昔にドイツでうまれた言葉なのです。「ビオ(Bio)=生物」と「トープ(top)=空間」から出来た概念で、「生物の棲む空間」つまり、自然環境そのものを意味しています。自然の中に生物が棲んでいるのはごく当たり前のように思いますが、ただ棲んでいるのではなく、その生物たちが食う・食われる(食物連鎖)のバランスを保って、世代交代を繰り返すことが重要です。日本ではビオトープというと、学校の校庭などで人為的に囲った水辺環境に生きものを飼う、呼び寄せる、という発想のものが多いと思いますが、本来は水辺に限らず、森や草地などありとあらゆる自然環境がビオトープと言えます。日本でも森を増やすための植樹活動などがありますが、これもビオトープの創出になりえます。植樹という同じ活動でもその視点によってはビオトープを作るのか、お花見会場を作るのかの分かれ道になります。つまり、「自分たちの目を楽しませるための樹木を植えよう」ではなく、「生きものが棲みやすい環境にするために、その土地の植生に合った樹木を植えよう」という視点が大切なのです。研修で訪れたNABUラインナウアー自然保護センターでは、鳥やカエルなどある特定の1種に焦点を当て、その種を中心に保護活動をすることで他の生物にとっても棲みやすいビオトープを維持管理していました。このように「○○が棲みやすいビオトープ作り」などは取り掛かりやすく、理解を得られやすいものだと参考になりました。
 ビオトープの概念からドイツの人たちの生きものの立場に立ち俯瞰した自然観について近づくことが出来たように感じました。しかし過去のドイツでは人間の経済活動を優先したがために自然環境に大きな影響を与えてしまった歴史があります。その反省が現在どのような結果をもたらしているのでしょうか。
ライン川の過去・現在・未来
photo01
ライン川に造られた水制(河岸が湾曲しているところ。水の流れが穏やかで生物が棲みやすい)
 ライン川は川幅が広く流れが緩やかで、複数の国にまたがっていることから、昔から運河として利用されてきたヨーロッパ有数の河川です。充実した水運によって沿岸部の産業が発達したことから、ライン川は経済活動の動脈として大きな役割を果たしてきました。しかしその一方で自然への負担は大きく、工業化・人口増加でライン川の水質汚染は深刻なものとなっていきました。その状況は沿岸の国であるスイス、フランス、ドイツ、オランダに共通していました。また運河として利用しやすいように1800年代から川の蛇行している部分をまっすぐにする河川改修工事が進み、ライン川はもとの流れより4分の3の長さになったと言われています。また氾濫原がなくなったことで水鳥の大切な生息場所である湿地がわずか10分の1ほどになってしまったと言われています。
photo02
水質が自動測定されており、電光掲示板に表示されている
photo03
自然保護地域であることを示す標識
 1970年、富栄養化による酸欠で魚が大量死したのをきっかけに汚水処理場の整備や飲料水に関する法律の制定が一気に進みました。さらに1986年、上流の国スイスの化学工場で火災があり、その消火作業によって水質が悪化し、生物がほぼ全滅するという事態が起きました。このことが大きな社会問題となり、NABUなどの自然保護団体によって生物を復活させる様々なプロジェクトが始まりました。そして生物のためには水質向上だけでなく、護岸などの河川環境も大切だということが認識されるようになりました。
 現在では水質は問題のないレベルに戻ったそうです。ライン川沿いにあるヘッセン州の環境ステーションでは、ライン川の水質が自動的にチェックされ、水位、温度、pHや窒素など水質に関するデータをオンタイムで市民が分かるように電光掲示板に表示しています。ちなみにこの環境ステーションは、沿岸のヘッセン州、ラインランドファルツ州、マインツ市、ビィスバーデン市が共同で運営しており、行政区を超えてライン川について一緒に問題解決に取り組んでいる様子がよくわかりました。
photo04
ライン川支流にて。ポプラの黄葉が美しい。ドイツでは「黄金の10月」と言われている。
 また現在ライン川の河川敷で自然保護地域に指定された場所では、人工的な護岸を自然状態に戻す取組みが進んでいます。同時にNABUも河川敷の土地を団体で買い上げ、同様の活動を行っています。復元がすすみ、自然状態に戻された河岸には石積みなどによる陸と川を隔てる境界がなく、川からカモなどの水鳥たちが自然に上がってこられるゆるやかな勾配の砂地になっています。そうなると気になるのは水害についてですが、ヘッセン州の洪水対策の担当官に伺ったところ、コンクリート護岸より氾濫原を含めた自然状態の河岸のほうが洪水時に下流域に与える影響が少ないなどのメリットがあるそうです。そして洪水対策として危険地域には建物の建築を禁止するドイツ連邦政府による法律の制定や、ハザードマップや地区ごとのマネジメントプランの作成などしっかりとしたリスクマネージメントが進められているとのことでした。ライン川を自然豊かな河川環境に戻すとともに、人間の技術で洪水を抑え込むことから予防することへの発想の転換がありました。人と自然が調和して生きる術を見出していると感じました。
 ライン川の取り組みについては、州の環境省やNABUなど複数の機関からお話しをうかがいました。その際に印象的だったのはどの立場の方も私たちに事実をしっかりと伝えてくれたことです。過去の現実を受け止め二度と同じ過ちを繰り返さないという信念を感じました。しっかりとしたビジョンを持ち、縦割りの役割分担ではなく様々な立場・側面から進めている現在の取り組みが有機的に結びつき、現在よりもよりよい未来に着実につながっていくことが実感できました。

人と自然との関わり方の違い
 ドイツの森に入ると、日本でもよく見られる樹木と同じ仲間を目にすることが出来ました。ドイツは緯度が北海道と同じかそれより高く、落葉広葉樹や針葉樹の森が広がっています。ヨーロッパアカマツやヨーロッパブナは日本のアカマツとブナに見た目もほぼ同じで、まるで日本の森にいるような感覚になりました。またよく見られたヨーロッパナラは葉っぱがカシワに似ていて、ユーロの硬貨の模様にもなっています。材としても有用で、ドイツだけでなくヨーロッパの人々にとって身近な存在の樹木であることが伺えました。日本ではコナラやクヌギが同じような存在と言えるでしょう。日本ではコナラやクヌギは里山の主要な樹木です。日本では人が薪や炭などの生活の糧を得るために里山が維持されてきました。里山では人の関わりによって一定の自然環境が維持され、その中で豊かな生態系が形成されてきました。そこで、ドイツにも里山のような森があるのか聞いてみたところ、そのような概念はドイツにはないのか、「自然に対して人間は何もしないことが一番である」という言葉がほぼ100%返ってきました。これには過去、産業革命で多くの木が乱伐され、現在も酸性雨によって多くの樹木が枯死していることも影響しているのだと考えます。原生の森を守り育てているドイツ、持続可能な循環型の里山を維持する日本、それぞれ自然に対しての関わり方は違いますが、どちらが良いというものではなく、もともとの環境の違いや歴史・文化の違いなどが背景にあるのだと興味深く感じました。ちなみにドイツの森林面積は国土の30%だそうです。それに対して日本は70%近くを森林が占めています。その分、日本に住む私たちにとって森はすぐ近くにあり、その恵みを得られることがドイツの人よりもごく当たり前のことだったのかもしれません。それほどの豊富な森林資源を有する日本も「森の国」なのです。
photo01
野鳥保護観測センターの森。木々の背が高く、林床がすっきりしていて、気持ちよい。
photo02
植林も多く見られた。樹種はアカマツやヨーロッパナラなど。
photo03
硬貨の模様になっているヨーロッパナラ(1セント、2セント、5セント)
photo04
農地の奥に広がる森。
がんばろう日本〜自然も心も豊かに〜
 ドイツの豊かな自然を目の前にしたとき、ひと昔前はそうではなかったとほとんどの人は思わないでしょう。経済活動を優先し自然に負担を強いた時期もありましたが、その反省をもとに自然の重要性を再認識し行動した結果、現在では森の国と呼ぶにふさわしい自然が広がっています。今回ドイツの自然に触れたことと同時に、日本の自然が豊かであることを再認識することができました。しかし今日本では生活様式の変化によって森が人々の生活から遠ざかり、必要性が減少した結果、担い手不足による里山の荒廃などによって、森林環境が変化してきています。「あるのが当たり前」だからと無関心でいられる状態ではなくなってきたということです。その自然に対して今私たちがどのような選択をしどう行動に移すのか、たくさんのヒントをドイツで得ることができました。
 最後になりますが、研修で訪れた自然保護団体BUNDの方の言葉を紹介します。「生きものたちはしゃべることができないでしょう?だから私たちが生きものの代わりに声をあげて活動しているのですよ。」
 私たち人間も生きもの、自然の中の一員です。「人間がすみやすい環境(ビオトープ)が他の生きものにとってもすみやすい場所になっているのだろうか」少しだけ生きものの立場に立って考えてみる、そんな視点を持つことから始めませんか?きっと私たちの環境も心も豊かになると思います。




このページの先頭へ
ご利用にあたってプライバシーポリシー
Copyright(C) 2000-2019 Seven-Eleven Foundation All Rights Reserved.