セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

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環境ボランティアリーダー海外研修

2005年(平成17年)第8回環境ボランティアリーダー海外研修レポート

海外研修レポート 感想 特定非営利活動法人 ネットワーク『地球村』
阪本瑞恵 さん

7日間という研修期間で、何をつかんで帰ってこれるか。吸収できるものはすべて吸収してこよう、という決心の反面、この短い期間でいったいどれくらいのことが得れるのか、多少懸念していた。研修を終えてみると、私にとっては大きな転機となるほどの充実した研修となった。朝から晩まで、環境先進国といわれるドイツの現状や制度を学び、研修参加者同士でお互いの気付きや考えをぶつけあえた。また何より、様々な人やNPOの生の声を聞き、書籍からはわからないドイツの環境分野の現状を肌で感じることができた。具体的な活動や組織運営に関するヒントはもとより、これからの日本の環境NPOの発展のために必要なこと、そして私たちは何をしていけばいいのか、未来のほのかな輪郭が自分なりにつかめたように思う。
この報告書の中では、まず
訪問団体の活動やマネジメントから、日本に生かせること。訪問先団体と自らの団体がパートナーシップを組むとすれば、どの部分に共感し、どのように展開するか。日本の環境分野の発展のために大切だと思うこと、研修全体を振り返って、の4点を述べたいと思う。また、まず断っておきたいのが、現時点でつかんだもの、聞いたことはわずか7日間の中であるので、ドイツの一面を垣間見たにすぎないことは十分承知の上で、つかみとったものの中から、私なりの結論と学びをグリップし、日本の環境NPOの発展へむけてこの経験を生かしていきたいと思う。

①訪問団体の活動やマネジメントから日本に生かせること:
これを考えるにあたって、ドイツの社会やNGOがなぜ「環境先進国」といわれているのか、その成功の要因を抽出することが重要であると考えた。成功に寄与している要因の中で、日本に反映していきたいものをいくつか述べたいと思う。
  • 環境政策や制度の充実
    ドイツの環境政策や制度の充実ぶりは、日本でもさまざまな書籍で紹介されているが、ドイツ市民の環境意識が「飛びぬけて高いわけではない」、ということはあまり知られていない。私自身、あまりにもドイツ市民の環境意識の高さに期待をよせていたばかりに、大きな驚きであった。研修中、ドイツのNGOスタッフや講師、学生、一般市民など、様々な人から話を聞いたが、話は一貫して、多くの市民と一部の関心層との環境意識のギャップの大きさ、についてであった。たとえばゴミだしマナーの悪さや、有機食品や環境に負荷が少ない商品を買うのはまだまだ一部の人間であったり、自分の利益・不利益に関係すること(ボトルを返すとお金が返ってくるデポジット制度、家庭ゴミの有料化による過剰包装の削減)については実践されているが、それ以外については成されていない、といった内容であった。日本のNGOが抱えているのと同じ課題や苦労話を聞く中で、結局は政策や制度の充実が、環境先進国たるドイツの大きな成功要因の柱であることがわかった。そしてドイツの環境制度の充実は、ドイツ人の国民性(論理的、合理的、感情に流されない)や、ライン川の汚染など歴史的な背景もあるが、やはり環境NPOの努力の賜物ではないかと思う。ドイツでは、行政とのパートナーとして認められている環境NPOがあり(BUNDも認められている)、開発計画などに提言することができる。

  • 社会における環境NPOの役割の広さ、視野の広さ
    そんな重要な役割を担っているドイツの環境NPOの役割は、かなり幅広い。環境保護ももちろんであるが、環境教育、自然教育、青少年育成、人材育成、政策提言、ロビー活動、企業や行政の対等なパートナーシップ、行政の監査機関、消費者保護、学校教育における専門家派遣、などさまざまである。ドイツの小中学校の半日制から全日制への移行にあたっても、BUNDはパートナーとして認定を受け、各地域の学校と連携をとりながら学校の中へ入り込み、持続可能な開発のための教育(EDS)にも取組んでいる。既に環境分野のみならず、ドイツの市民社会の中で、なくてはならない存在であるように思う。社会の中のさまざまな市民のニーズに対して、環境という切り口でいかによりよい市民社会を築いていけるか。その社会全体にむけられた視野の広さと、姿勢が、現在の環境NPOの役割を生み出したのではないかと思う。

  • 民主的な意思決定と組織構造
    組織規模の大きな環境NPOは、いったいどんな組織構造で成り立っているのであろうか。ここではドイツ環境保護連盟、BUNDから学びたいと思う。BUNDの話しを聞く中で、一番印象に残ったのは、「BUNDはボランティアから成る組織である」という言葉である。当たり前に聞こえるかもしれないが、会員39万人、年間予算18.6億円というBUNDの規模を考えるとこの言葉の大きさがわかるのではないだろうか。BUNDは連邦(国)、州、地域という三層構造で成り立ち、連邦と州には、それぞれ事務局があり、有給スタッフが勤務している。それぞれのレベルで、政策提言やその立場にあった役割を担っているのだが、特筆すべきはその構造のあり方である。地域はボランティアによって構成されているが、そのメンバーの中から地域代表が決まる。それぞれの地域代表が集まり、州委員会が構成されている。その州委員会メンバーの中から、州の代表が決められ、連邦委員会には、州の人数の割合によって、連邦委員会へ州代表が参加する。つまり、組織はボランティアによってなりたち、そこで決められた内容を実行するための事務局、という位置づけである。もちろん、事務局にいる専門家や具体的な活動を担う事務局スタッフが、ボランティアの方向けにセミナーなどを行ったりもするわけだが、あくまでも主役は、地域に根ざすボランティアである。BUNDには、43000人から成る青年部もあるが、この青年部においても意思決定は青年たちによるものである。このような組織構造と、明確な意思決定方法によって、大きな組織としてのメリットをフルに利用しているのである。
    民主主義という点で、とてもおもしろいエピソードが2つあるので紹介したい。ひとつは、森の幼稚園という、建物の中ではなく森の中で行っている幼稚園を訪問した時のことだ。これは、主に父兄などによってつくられることが多く、現在ドイツでは300もの森の幼稚園があるという人気が高い形態の幼稚園である。幼稚園で子どもたちは大人から学ぶのではなく、自然そのものから学び、その日、行うことを子どもが自分たちで決める。その日のリーダーを交代で行い、その日行きたい場所を5つ選び、子どもたち全員が1票づつ投票し、その日の計画を決める。ちょうどその日は、同じ票数の場所が2箇所あったが、なんと決戦投票までちゃんと行われた。こんな小さな頃(3歳)から一人一人の意見や、リーダーシップ、透明性のある意思決定を行っていくということが、ドイツの環境NPOの民主的な組織形態や、合理的な物の考え方につながっていくのではないかと思う。
    もうひとつは、ある環境NPOで働いていた人から聞いた話しだが、「どのような意思決定をするか、その方法をどのような意思決定方法で決めるか」といったところから話しが始まるそうだ。まさに笑い話のようなこのエピソードに、私はドイツ人の国民性と、それがいかに環境NPOの組織形態に結びついているか感じずにはいられなかった。

  • 明確なビジョン
    BUNDの地域グループや州事務局を訪れた際に、一番感じたのは明確なビジョンがあり、それがメンバー間で共有されているということである。10年後、20年後にどういう社会、地域を築いていきたいか。アジェンダBUNDウォールシュタットを訪れた際に、代表のマルクス・ゼッツエファンドさんに、メンバー間で意思決定をすることが難しくないか尋ねてみた。マルクスさんいわく、「ミーティングで、いろんなアイデアがでてくるが、それは私たちの目指す目的を達成するための方法や手段でしかありません。一番重要なのは、到達したい目標が共有されていること。どんな地域にしていきたいか、というビジョンが共有されていることなのです。そして、長い議論の末に選択してきて決断は、すべて最良のもので遭ったと自信を持っていえます。」個人が集まったグループでも、団体が集まったネットワークでも、一番大切なのは、明確なビジョンを持ち、それをしっかりと共有することであると感じた。日本のNPOやグループは、活動を始める前、一番初めに、とことんそのビジョンを共有しているだろうか。まだまだ学べる点が多くあるように感じた。

  • 専門性
    ドイツは専門性を重視される国である。NGOスタッフの多くも、環境教育や物理学の専門家であるなど、自分の専門性をはっきりと名言している。そういったバックグラウンドもあり、NGOでもプロフェッショナルとして活動を行ったり、団体として求める役割も明確に提示されている。BUNDでも一番重要な専門性として、組織運営の専門的な能力を持った人、そして団体を魅力的にアピールできる能力を持った人、ということがあげられていた。今回訪問したファンドレイジングアカデミーのような、専門家を育てるシステムや考え方が社会の中に根付いている。

パートナーシップの活用
「活動を広げようと思うなら、よいパートナーをみつけることです」。ドイツで大きな広がりをみせているプロジェクトである『生物多様性の日』のプロジェクトリーダーであるトム・ミューラー氏や、ラインランドファルツ州 州環境情報センター所長のローランド・ホーン氏をはじめ、さまざまな方から、パートナーシップの重要性についてアドバイスをいただいた。「アイデア、プラン、そして何をすべきかわかっているなら、パートナーを見つけることです。私たちは常にパートナーを必要としている。パートナーがいることで、効率性が高まります。行政は市民の不満の窓口ではなく、市民との協力相手なのです。」「生物多様性の日のメインイベントの場所は、毎年変わります。パートナーも毎年変えることで、相手のネットワークやリソースをどんどん吸収していくことができます。パートナーの選び方は、開催場所と目的に対して、もっとも影響力をもっている企業、行政、学校など。相手もメリットがあることが大切です。」「NGOは企業、行政、学校の対等なパートナーです。新しい層に到達したければ、組む相手もそれに合わせればいいのです。」双方ともに、WINWINの関係を築いていくこと、そして明確なビジョンと目的の共有がなにより重要であると感じた。

②訪問先団体と自らの団体がパートナーシップを組むとすれば、どの部分に共感し、どのように展開するか:
パートナーシップを組むとすれば、やはり今回、研修期間中に一番多く訪問したBUNDをあげたい。三層構造を持ち、明確なビジョンと目的に沿った構造形態である。「ボランティアによって成す組織」という言葉に表れるように、その意思決定や仕組み、透明性、民主的な運営、アカウンタビリティの点においても、とても共感できる。私が所属するネットワーク『地球村』の組織形態は、二層構造であり、地域に根ざした活動を行っている多くの地域賛同団体(グループ)がある。BUNDとのパートナーシップを考えた場合の具体案を1つあげたい。

BUND青年部の活動にヒントを得た、ストップ・ザ・温暖化キャンペーンを日本で展開している。温暖化防止活動はBUNDの中でもひとつの重要な活動テーマであるので、日独の温暖化防止に対する市民の取り組みを共有・交換し、お互いのグッドプラクティスから、学んでいけるのではないかと思う。また、今後、気候変動の国際会議において、日独共通のアクション、キャンペーンの実施、開始前から日独での世論を高める同時開催イベントなどが考えられる。私たちがドイツへ訪問した際にも、温暖化防止アクションとして、マインツ駅前をダンボール箱を持って行ったアクションが写真入りで新聞に掲載された。独自に行うより、プレスへのアピールという面でも、メリットが高いと思う。

③日本の環境分野の発展のためにどのようなシステム(しくみ)が必要であるか:
まず大きく3つ、重点課題をあげ、それを踏まえた上で具体的なシステムについて述べる。

  • 広い視野、地域に根ざした活動
    日本の環境NPO全体の課題、重点分野など、日本全体、そして地球全体を視野にいれておくことがとても大切だと思う。そして、自分のやっている活動は、全体の中でどんな役割を担っているのか、把握しておくこと。そして、何より地域に根ざした活動を行っていきながら、環境分野全体への前進にむけて協力していくことが重要である。

  • 啓発活動と政策提言
    市民への啓発活動と政策提言は車の両輪である。啓発活動により、市民の環境に対する意識が高まり、世論となって、制度や政策をつくっていく上で後押しとなる。また、啓発活動によって高まった市民の高い環境意識を、継続させていくためにも、システム自体を変えていかない限り、その永続性は保障できない。現に、ドイツでも、都市に住む自然と触れ合ったことがない世代が増え、本来の人間の手の入っていない自然がなくなり、環境問題に対する世論の高まりや市民の環境意識は永久に継続していない、という現実がある。啓発の結果や、時流にのり、その折々に国の制度や法律として形にしながら、一歩一歩前に進んでいくことが、今の日本においてとても必要なことであると思う。

  • 団体の運営能力アップ
    今回、資金調達から広報、プロジェクトまでさまざまな角度から組織運営について学んだ。ドイツの環境NGOは、日本のNGOと同じような課題を抱えているとはいえ、そのベースライン(基礎力)は日本よりも高いレベルにある。課題や強み・弱みをよく理解したうえで、改善策を検討し、実践し、ノウハウは蓄積・共有されている。また何よりも、さまざまな課題に面する中でも、活動の目的とその意義について、明確に理解されているので、問題に面してもぶれずにいられるのではないかと思う。日本のNPO全体にいえることであるが、強い組織作りは、第一優先課題であるのではないだろうか。

  • 具体的なシステムについて
    以上の点を踏まえ、やはり今回訪問したファンドレイジングアカデミーのような、NPOの組織運営や資金調達の専門家を育て、コンサルテーションも行う機関が必要であると思う。アメリカなど海外の専門機関や、日本の企業からも、学ぶべき点が多いように思う。
    また、各分野の政策提言はもとより、環境NPO全体の共通課題に対する政策提言や、中間支援組織の支援など、全体的な視野のもとに分野を超えたNPOの協働・ネットワークがなにより重要になってくると考える。

④研修全体を振り返って
今回、具体的なアイデアや手法を学びとりたい、と思っていたが、振り返ってみると、具体的なことよりも、一番の収穫はこれからの日本社会の中で環境NPOの課題、進むべき道のぼんやりとした輪郭が見えてきたことであった。また、自分自身の目指す方向性についても、今まで確かな確信がもてなかったが、今はもやが晴れ、目の前に雄大なパノラマと指針が見えてきた感がある。
そして何よりの収穫は、研修を通して出会えた日本各地から集まったメンバーである。様々な分野で活躍するメンバーが、熱い想いや共有できるビジョンを持って日々活動しているということは、自分自身が活動を続けていく中での勇気にもつながる。そして精神的なサポートのみならず、実際にも協力して活動していきたいと話し合っている。このようなつながりが持てたこと、そしてこのような素晴らしい機会をくださった、みどりの基金のスタッフのみなさん、コーディネーターさん、JTBさん、募金を下さった皆さまへ、心から感謝の気持ちを伝えたい。本当にありがとうございました。




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