セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

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環境ボランティアリーダー海外研修

2006年(平成18年)第9回環境ボランティアリーダー海外研修レポート

海外研修レポート 感想 ストップフロン全国連絡会
桃井 貴子 さん

 今回の研修で、私が最も刺激を受けたのは、BUNDのNRW州支部のヤンゼン事務局長に連れていってもらったドイツ最大規模の石炭採掘場の現場でした。大規模に掘り起こされた採掘場は地平線のかなたまで続いて地層がむき出しになり、丘の上から見下ろすと、蟻粒ほど小さく見えるショベルカーやトラックがちょこまかと動いているのがわかります。採掘場の隣の地区では採掘拡大計画があるため、すでに住民は立ち退き、古き良き町並みもゴーストタウンと化し、その地下に眠る石炭が掘り起こされるのを待つばかりの状態です。
 BUND-NRW州支部では、国と電力会社によるこの石炭採掘事業が、①石炭発電が地球温暖化防止政策に逆行すること、
この地域のビオトープを破壊し、野鳥の生息に悪影響を与えること、近隣住民に粉塵による健康被害を与えること、地下水の水源枯渇につながること、といった理由から計画に反対し、数十年にわたる長い戦いを繰り広げ、今もなお、周辺の土地を購入し訴訟を起こすまでの反対運動を展開しているのです。
 「これが『環境先進国』といわれるドイツの持つ「負」の一面です。」と語るヤンゼン事務局長は、まさしく闘士そのものです。「巨大な電力会社に対して我々の抵抗は本当に本当に小さなものだけれども、環境保全、持続可能な社会のために必要なことなので20年間続けてきたし、今後も続けていくつもりです。」という活動姿勢に、これぞ環境保護の真骨頂!との思いにかられました。
 事前のヤンゼン事務局長のレクチャーによれば、BUND?NRW州支部の活動は、地球温暖化防止や遺伝子組み換え問題を二大テーマとして取り組むほか、野生生物の保護や湖沼保全、ゴミ問題などにもプロジェクトベースで取り組むなど幅広い活動を展開しているとのことでした。こうしたプロジェクトが、企業や個人の寄付、あるいは財団や政府からの助成金または委託費などで実施される一方、採掘場の反対運動はそういった支援を受けることができなくても、組織的にプライオリティのNO1に掲げて活動をしていることをこの現場で明かしてくれました。
 このような泥臭い活動が先細りにならずに自立型で継続できることは、40万人の会員に支えられる組織力と一人のリーダーの強いモチベーションがあることはもちろんのこと、それを展開しうるだけのNPOの歴史的蓄積とその間培ってきたNPOマネジメントの秘策があるように思えました。

 この研修は、ドイツのNPOマネジメントの「秘策」が何たるかを少しでもたくさん吸収して日本での活動に活かせるようにと、日本の多くの環境NPOがかかえる課題「人材育成」と「資金調達」の2大テーマに絞って綿密に組まれた10日間のプログラムでした。
上述のBUNDの一例以外にも、実際にこの目で見て話を聞くことで、自分自身の意識の持ち方、活動のあり方と比して非常に参考になる部分が多く、今すぐにでも取り上げたい部分、中長期的に見直していくべき点、日本全体を見渡したときの制度的な政策提言の必要性を感じた部分などが数多くあり、今後自分なりに咀嚼して今後の活動に活かしていくこととし、ここでは与えられた3つのテーマについて報告していきたいと思います。


① 訪問団体の内容を日本のボランティアリーダーとして活かせるか。
ここでは、今回の私自身の活動の課題であった
人材確保、資金調達、活動の評価手法の3つに絞って活かすべき話題を取り上げたいと思います。

▼人材確保
<ボランティアのモチベーションを保つ秘訣>
 ドイツ最大規模の環境NGO、BUNDもNABUも共通の課題がありました。それは、かつてはボランティア活動をする会員が多かったものの、今は活動をするのではなく会費を支払うだけで終わっている会員が増えていることです。会員数が地道に増加傾向にあること自体はなんともうらやましい限りですが、「いかに会員にボランティア活動に参加してもらうか」というのは日本とまったく同じ課題です。また、会員や活動する人の「高齢化」も課題だとのことでした。活動する人の世代交代がうまく図られず、いかに若い人たちに参加してもらうかが彼らにとっての最大の課題のようです。
 NABUでは、若手にターゲットを絞って比較的ハードルの低い活動メニューを用意し参加意識を高めていくことや、団体運営継続のために地域事務所を配置してスタッフが明確なミッションのもとに関係者のWIN−WINの関係をはかりつつ、活動を積極的に盛り上げています。どんな活動であれば若い人にも参加してもらえるか分析し、ボランティア活動ができる場の提供を徹底して行い、相手のWINも提示すること、これが鍵と言えそうです。
 アイフェル国立公園支援協会の事例も参考になりました。現在、国立公園内を案内するインタープリターとは別に、ボツシャフトラー(情報発信者)という国立公園に関する情報を外部に伝えていくための人材育成を行っています。ボツシャフトラーは質の高い研修を一定期間受けて知識やノウハウを習得し、その後イベント開催や町の中でのアピール展示などを行い、一般の人たちに普及することが役目です。ほぼ無償に近いボランティアですが、交通費とわずかな日当は当てられます。そんなボツシャフトラーのボランティア精神やモチベーションを維持するために、国立公園支援協会側で特に注意を払っているのは、NABU同様、参加できる活動を定期的に開催して参加の場を増やすことであり、人と人とのコミュニケーションを絶え間なく図ること、ボランティアの方に対する敬意を表すること、というなんとも「当たり前」のことでした。しかし、いざ自分の活動に翻ってみると、そんな「当たり前のこと」も本当にちゃんと実践できていたかどうか、仲間同士で共有できていたかどうか、もう一度見直す必要があるような気がします。小さい団体でも、大規模の団体でも基本は人と人とのコミュニケーションなのです。

<会員獲得>
 日本で有効な手段だとは思いませんが、NABUとBUNDで新規会員獲得に現在最も有効な方法が外部委託だというのには驚きました。委託先となっているその会社は、オーストリアの学生をアルバイトとして雇って、一件一件個別訪問をして会員を獲得するのだそうです。歴史があって名声も高いNABUやBUNDだからこそできる会員獲得方法なのかもしれません。ただ、もしかしたら将来的に日本でもこんな形態があるかもしれないと思うと、今やるべきこととして、質の高い活動を積み上げ、名前を世に知らしめることも意識しておきたい部分です。

▼資金調達
<経常経費の確保>
 ファンドレイジングアカデミーのハンズヨーゼフ氏の講座では、「寄付」の獲得方法についてレクチャーを受け、ターゲットの絞込み、メッセージの受け手側の視点でのDMの作り方など具体的に踏み込んだお話があり、また午後には個別団体のコンサルティングまで受けることができ、大変ありがたい限りでした。
 団体の自立性を確保するための収入形態は個人の寄付や会費であるということは理解していたつもりです。しかし、いざ今までの活動を振り返ってみると、イベントやキャンペーンを展開するときに、情報を提供するだけに終わってしまって、せっかくの会員獲得のチャンスをみすみす逃してしまっていたのではないかと思うのです。人的にも時間的にも財務的にも余裕がなかったのは確かですが、もっと寄付や会員募集を念頭において、積極的に会費を集め、それを積み上げていくことが、持続的な活動の基盤になっていくのだと思います。団体の「経常経費を確保する」ことを直接アピールすることでは寄付は集まりません。BUNDやNABUは、「最初のうちはほっておいても会員が集まる」というバブル期があったようですが、日本ではそれは期待できません。キャンペーンを利用して積極的に会員獲得を図ることが、経常経費獲得の第一歩です。

▼活動の評価手法
 3つ目の課題として、それぞれの団体で「活動の評価手法」があれば参考にさせてもらおうと思っていました。しかし、私が求めていたような明快な回答を得られたわけではなく、まずは中長期的なビジョンがあり、それに対して個別プロジェクトの目標設定や目的の明確化が基本にあり、活動評価を行うというごくシンプルなものでした。
 日本では行政からの委託事業をする場合など、単年度予算で短期的な事業成果を求められることがありますが、ドイツでは人材育成や環境教育などの分野では中長期的に描くビジョンを元に予算が当てられているものが多く、たとえば、州の支援を受けて行っているボツシャフトラーの制度でも、単年度では数値的には計れない効果があることを前提としているのです。
 まずは中長期的なビジョンがあり、それに対して個別プロジェクトの目標設定や目的の明確化が基本にあり、活動評価を行うこと。これこそ私たちはきちんと実行していかなければならないことだと再認識しました。


② 研修を通して、日本の環境ボランティアリーダーを支援するためにどのようなしくみが考えられるか。

 まずは環境ボランティアに関わる人を増やすことが第一だと思います。環境ボランティア関わる人が増えればその中からリーダーになる人もおのずと増えるはずです。今回の研修では、ドイツで環境ボランティアリーダーが育つ素地を様々な形で見ることができました。日本でも同様のしくみは今後考えていく必要があると思います。

1.行政主体の環境ボランティア制度の導入
 ドイツのFOJのように中長期的に青年の育成にポイントをおいた環境ボランティア制度のような政策が日本にはありません。地域によっては学校の夏休みなどを利用してボランティアに参加させたり、大学の単位としてボランティアを位置づけたりするものがありますが、公的なドイツのような制度ではありません。あるいは、日本ではニート対策などや職業訓練所などが行っている制度の中に似たようなしくみはあるのかもしれませんが、そこに「環境」というテーマを一つの主軸にすることに大きな意味があると思います。
 政府が率先して「環境」という分野で青年を育成していくという視点、持続可能な社会を構築するために次世代を中心的に担う人物になっている人を育てるという点でぜひ日本でも政府レベル、地方行政レベルなどにおいて必要な政策ではないかと思います。
 NRW州の場合は、もともと環境に関心のある人というわけではなく、人生をもう少しじっくり考えてみたいという若者を対象にしています。今すぐリーダーにということではなく、中長期的な視野で人を育てるという観点が今の日本にはかけているように思います。

2.環境NPOに青年グループをつくること
 NABUが青年グループであるNAJUや、BUND青年局のように年齢を20代以下に区切って実施していることが象徴しているように、青年自身が主体になって決定権も持ち、プロジェクト運営から事務局経営までを行うような体制は非常に有効だと思います。日本でもA SEED JAPANやエコリーグなどの青年環境NGOがあり、全国的に幅広く活躍していますが、OJTで実践してきた彼らの一部は今社会に出て、今環境分野のいろいろなところで貢献しています。こうした自発的な青年活動を積極的にサポートするのも一つの方法かと思います。

3.プロとしての教育
 日本の市民活動はどうしても、すべてがボランティア活動に終わってしまいがちです。しかし、リーダーたる人は、団体の分析やファンドレイジング、広報戦略などNPOマネジメントに必要なノウハウを徹底して習得していくことが必要だと思います。しかし、基盤の弱いNPOがそこに投資するだけの財力もないので、マネジメントとは程遠いのが現状です。マネジメントを専門的に習得できる場をつくることが、リーダー支援のしくみになると思います。


③ 全体を通しての感想

 
今回の研修は、何をとっても学びの連続でした。上記に書いたこと以外にも、地球温暖化防止の具体的な対策メニューや地域で活動する市民のネットワークFUgEのこと、最初に見た自然保護歴史ミュージアムの展示手法なども参考になることが多々ありました。
 そして何よりも、とても素敵なメンバーに恵まれた研修でした。最初にBUNDの採掘場反対活動について書きましたが、この現地見学の帰りのバスの中で、「BUNDはすごいと思う人!」とのかっしー(口井さん)の掛け声に、「ハーイ!」と研修生全員が手を挙げ、ささいなことながらも、このとき私は仲間意識をいっそう強めた感があります。一方で、地方自治について、ネットワークについて、行政との連携についてなどなど、皆さんが違った視点をもって研修に参加されており、バスの中や食事の時間などを通じて様々な議論をすることで、新たな気づきをいただきました。
 今回の参加者の皆さんに、またドイツでOJTで学び取った経験を生かして今回のコーディネートと通訳をしてくださった柳沢義人さんに、そして研修生一人ひとりを育てようと叱咤激励をしてくださった事務局の方々に、この貴重な機会を与えてくださった関係者の皆々様に心よりお礼を申し上げて私の報告とさせていただきます。どうもありがとうございました。



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