セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

※こちらはアーカイブ記事です。

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活動のご紹介

環境ボランティアリーダー海外研修

2009年(平成21年)第12回環境ボランティアリーダー海外研修レポート

海外研修レポート 感想 持続可能な松本平創造カンパニーわおん
山田 勇 さん

1.訪問団体の活動やマネジメントなど、
   どの部分を日本のボランティアリーダーとして生かせるか

【行政と市民の関わり方】
 今回訪問したNABUやBUNDは、全国で40万人を超える会員を抱える団体で、まるでひとつの政党かのように、政治にも影響力を与えている団体である。日本においても行政だけが公益事業を行なうのではなく、市民団体が公益事業に関わるようになってきている。また、政権交代も起こり、どこが与党になるかによって、生活や環境に大きな影響を及ぼす時代へと突入していく。
 守るべきものを守るためには、行政に頼るのではなく市民が直接訴えかけることが重要になる。そこで、NABUやBUNDのように多くの市民を会員として取り込み、市民団体が行政と一緒に政治に影響を与えられるようにしていくことが一番の使命であると感じている。
 NABUにしてもBUNDにしても、もともと各地域で活動していた団体がだんだんと大きくなったとのこと。そうであれば、全国的な活動まではしていない、地域の各団体であっても、現在の活動が先進的なものになり、運営システムについても整理、確立されていけば、地域から始まって日本全体に影響力を与えることができるNPO/NGOができる可能性はある。今の自分にできるのは、まずは自分が住んでいる地域のNPOと行政、そして企業や学校などを巻き込んだ街づくりを進めていくことだと改めて感じた。
 具体的な活動としては、自分が今住んでいる地域で、行政と一定の距離を置きながらも対等に話し合うことができる新しい団体を立ち上げる。新しい団体とは言っても、既存の各分野の団体や企業、学校や大学の先生、学生を巻き込んでいくネットワーク団体である。
 ドイツの人口は約8200万人。そのうち40万人が会員と言うことは、国民の約0.5%が会員になっている計算になる。これを単純に日本の地域に当てはめるとすると、人口7万人の都市であれば、その都市の中の350人が会員なれば同じ割合になる。ひとつの地域で活動していくことを考えれば、ドイツの巨大な環境NGOと同等のことができるはずである。
 現在の自分の役割を考えると、地元において市役所とは違う、「もうひとつの行政(Another Government Organization)」を市民でつくり、新しい行政と市民との関わり方を創造していきたい。

【「もうひとつの行政」の背景】
 以前と比べると、行政と市民団体の対話から始まる協働の機会は増えてきている。しかし単に協働と言っても、実際にはその実態はさまざまである。 ドイツで感じた理想的な行政と市民団体との協働の姿は、「市民団体と行政がお互いにアイディアや企画を出し合い、それについて建設的に議論をして、政策を立てていくという関係づくりをしていくこと」である。今回の研修で出てきた言葉をあげると、市民団体側からみる協働に対する思いは、「行政と市民団体は一定の距離を置き、行政の政策に対する評価を考え、客観的な視点を市民に伝え、よりよい政策を提案・実行していく役割を果たす」ということだった。また、行政側から見ると「市民団体との協働は、メリット、デメリット関係なく、環境保護にとっては良いことだと思うので、行政が協力するのは義務だ思う」とのことだった。

 ところが、日本における行政と市民との対話では、市民一人ひとりが自分の考えを行政に伝え、行政としては、それを聞きはするものの参考意見として扱うだけで、行政と市民が一体となって何かを決断するところまでは至っていない。
 それは、行政側に課題があるのだという市民が多い。しかし、実は、市民同士での対話の機会がなく、「市民の声」=「いち個人の声」になっているところが大きな課題ではないかと考えている。
 そこで、まずは市民の意見を集約して、市民同士でしっかりとディスカッションをし、その結果を行政側に伝えていくという仕組みが必要ではないかと考えた。この市民同士でしっかりとディスカッションをする場が「もうひとつの行政(AGO)」となる。



【AGOのメンバー構成】
 AGOのメンバーについてBUNDやNABUの例を参考にすると、市民の政治力を高めていくためには、街にかかわるさまざまな立場の専門家が必要になる。例えば、ドクターや大学、学校の先生、研究者などの専門家を環境や福祉、観光、商業等々、分野ごとに集めることが理想となる。また、政治家であったり、地域の産業界に深く関わっている方であったり、弁護士などの他に、事務や経営の専門家、広報の専門家、政策・事業のコーディネーターが集まることが望ましい。
 その中でも、今回の研修で学んだ重要なポジションは、広報の専門家である。

【広報力を活用する(1):市民団体の抱える課題】
 現在、多くの市民団体が課題としてあげていることは、人材育成と活動資金だろう。
 人材育成とは、専門的な知識を持った人であったり、実際に活動ができる人であったりする。例えば、環境教育団体について言えば、自然環境の専門家であったり、地球温暖化の専門家であったり、教育の専門家であったり、または事務関係の専門家を育てていこうというもの。これは、多種多様な市民が団体のメンバーになっていただくことである程度解決することができる。あたらしく育成するよりも、今いる専門家を仲間に巻き込んでいく方が、より専門性が高いメンバー構成となる。

 もう一つの課題が、活動資金の不足。今回学んだファンドレージングでもヒントをいただくことができたが、他にも各環境NGOのお話を聞く中で、大切なことはまずは団体のことを知ってもらうことであった。

【広報力を活用する(2):広報で仲間を募る】
 この2つの大きな課題を解決するために有効なのが、「広報」である。これは、自分たちの団体が行なうイベントの告知をしていくと言うことではなく、特に、「どのような活動をしているのか」、「活動することにより、地域に対してどのような成果をあげているのか」を広く知らせていく。特に活動の成果を広報することで、多くの市民から信頼を得やすくなる。逆に、多くの市民から信頼を得ることができなければ、政治に対する影響力はなくなる。
 NABU やBUNDも州支部になると広報を担当している人がいて、自分たちの団体がどのような思いで活動をしているのかを、どうすれば広く市民に知らせていくことができるかを考え、実行している。何かをするときには、常にマスコミに情報を流す。例えば、BUNDでは、州支部の理事会が月に1回開催されているが、その都度記者会見を行なうとのことである。
 より多くの市民が団体の存在を知り、興味を持つようになれば、より多くの人に会員になっていただける可能性が広がる。その市民の中には専門家も含まれる。こちらからお願いして入っていただくよりも、相手側から興味を持っていただいて、入会していただけるようになるぐらい広報に力を入れる。

【広報力を活用する(3):広報で資金を募る】
 また、事業を行なう際には、事業の趣旨に賛同してくれる企業や、事業と関連しそうな企業に声をかけて、スポンサーになっていただく。スポンサーを募集する際にも広報は重要ではあるが、スポンサー企業が決まった後にこそ、広報の力が試されるのではないかと今回の研修を受けて強く感じた。
 スポンサーは自分たちの利益を削ってまで、その団体に資金を提供している。そのスポンサーがあってこそ事業が成り立っているのだ。そのことに感謝し、スポンサーのためにできることをしていく。そのひとつが広報である。事業で立てた看板の中にスポンサーの名前を入れるのはもちろんのこと、もっと目立つようにロゴを入れる。他にも私たちが研修を受けるときにも、スポンサーのロゴ入りグッズを配布してくださったり、スポンサーの商品を持って写真撮影をしたりしていた。
 広報担当者にとって、ドイツから遠く離れた日本からわざわざ訪れてくると言うのはチャンスである。そのチャンスを逃さずに、新聞社を呼んだり、自分たちのパンフレットの一部に紹介したりするようである。その際にスポンサーの商品を持って写真撮影をしたと言うことは、日本の皆さんにも商品を勧めておきましたよという企業側へのPRになっている。企業にとって見れば、ここまでしてくれるのであれば、次の事業にも協力しようと思うだろう。そうなるように誠意を込めて、スポンサーの存在を明記しながら広報をしていくことが、次の資金調達へとつながっていくのだと強く感じた。

 人材を集めるためにも、活動資金を調達するためにも戦略的に広報を考えられる専門家、デザイン力だけではない、広報の仕方を考えられる人と組み、AGOのメンバーを集め、そして、活動を進めていきたい。

【AGOの可能性】
 AGOの活動目的のひとつは、多様な市民が集まって、意見を集約して行政に政策提案すること。そして、その提案が実行されるように働きかけていくわけだが、一方で、行政側で、必要性は共感できても、どうしても予算がつかないという場合もある。そこで、政策提案内容を実行に移すことができる団体に、AGOの活動資金を分配し実行してもらうという構造づくりを目指す。
 地方の一団体がファンドレージングをすることや、広報担当者を雇うことは現実には多くの課題が生じるであろう。そこで、地域を代表してAGOが中間支援的な役割を果たしていくことで、各団体の負担を減らし、効率性を高めていくことを目指す。

 AGOは、地域における行政と市民との新しい関わり方になり得ると考えられる。ひとつの地域で成功すれば、BUNDやNABUのように、それがだんだんと広がり、各市町村のAGOから都道府県レベルで政策提案、実行を行なうAGOへ。そして、全国レベルで政策提案を行ない、その提案を実行できるAGOへと育っていくきっかけになるのではないかと願う。



【活動の効果を可視化する】
 上記のAGOに限らず、広報力を活用することは課題解決の有効な手段だと感じた。その際に重要になるが、活動の効果をPRしていくこと。そして、そのために必要なことが活動の効果を測定すること。普段の活動についてはこれが簡単ではない場合が多い。特に自然体験を中心とした環境教育では、環境教育を受けた参加者にどのように影響したかを測定するのは研究機関でないと容易ではない。
 しかし、その団体自体をPRしていくには、活動の成果があがっていた方が、説得力が増す。そこで、現在の活動に沿う範囲で効果の測定しやすい活動を取り入れることも検討する。市民を巻き込んで地域に住む生物の数を調査しその結果を報告したり、教育の効果をPRするのではなく、例えば、幼稚園で自然体験を行なう際に、何カ所で実施しているか、その割合はどれくらいか、もしくは市内の全ての園で実施しているかといった、数が見える部分をピックアップしてPRしたりすることも、会員を獲得したり、活動資金を獲得するうえでは重要なことではないかと感じた。


2.研修を通して、日本の環境ボランティアリーダーを支援するために、
   どのような仕組みが考えられるか

【行政システムを変えていく動き】
 今回の研修で感じたことは、ドイツは環境先進国と言うよりも、NPO活動であったり、行政との協働であったりという部分が進んでいる国だと感じた。その背景には、行政のシステムの違いがあった。職員が数年で変わると言うことはなく、行政職員がプロフェッショナルになっていくことができる。
 日本とドイツのここの差は大きいのではないかと思う。さまざまなNPOの活動者に話を聞いてみても、行政職員が途中で変わるということに好意的な反応をする人はいなかった。これは行政職員の中にも口には出せなくても、同様な意見を持っている人もいるのではないかと感じている。
 そこで、行政システムを変えていくことに賛同する仲間を全国で募り、変革に向けて活動していくことが必要になるであろう。自分の力だけでは何もできないが、動きがなければ全く何も変わらない。今すぐに具体的な動きの案は出てこないが、行政システムを変えるための動きができるきっかけづくりについても、今後の課題にしていきたい。

【学びを広げる】
 今回の研修で学んだこと、NPOにとっての活動のヒントを地域に広げていくことが重要である。ドイツとの違いやNPOがどのように政治力を持ち、広報をいかに大切にしているのか、そして、ファンドレージングの方法など、日本で広めるべきことを広げていくことができる仕組みをつくる。
 例えば、環境ボランティアリーダー会において、各地域に広げることを目的とした追加研修を実施し、地域に伝えるためのプログラムやテキストを開発し、一定の要件を満たした人が講師として実際に各地域をまわり伝えていく。
 研修を受けた一人ひとりが地域で広げることも重要ではあるが、質を維持し、確実に広げていくためには、ある程度のシステム化が必要だと思う。
 また、ドイツと日本の違いを配慮した、日本型環境ボランティアリーダー像を教え、伝える養成講座があっても良いのではないかと思う。例えば(社)日本環境教育フォーラムが行なっている「自然学校指導者養成講座」のような長い期間かけて実施する研修や、(社)日本ネイチャーゲーム協会が行なっている「ネイチャーゲームリーダー養成講座」のように2泊3日で実施されるような研修のシステムをつくっていくと、より多くの国民に広がっていく。
 課題としては、実際にドイツで学ぶことと比べると、インパクトはやはり落ちてしまうこと。研修のクオリティを保てるように試行錯誤をしながら、海外研修+国内での研修制度を模索していくことが必要ではないだろうか。


全体を通しての感想

 本当に良い体験ができました。研修参加申込時の課題作文から始まり、面接、ドイツに来るまでの期間の自主学習、そして実際の研修期間。全てが本当に自分にとって大きな学びでした。
 自分がこれから何を目指して活動していくのかが、ぼやけていた時期に課題作文を書いたことで、自分の課題が何なのかがはっきりとしました。そして面接時にお会いした小野さんを始め、面接官のみなさんのお話を伺い、自分の活動を進めていくだけではなく、政治に訴えかけることもしていかなければ、世の中変わらないと言うことを学びました。
 そして、今までの研修内容や参加した方のレポートを読む中で、自分の課題解決の方向性が見えてきて、実際にドイツに来て学んだことで、より具体的な道のりが見えました。帰国後は、その道のりを試行錯誤しながらも前を向いて進んでいきます。10年後、自分の道のりをふりかえったときに、今年は明確な分岐点になっていると思います。
 この研修に関わってくださった全てのみなさんから刺激を受けました。受け入れ先のみなさんや一緒に参加したみなさんはもちろん、通訳さんや運転手さん。さらに、今回の研修は、セブン-イレブンの店頭に設置してある募金により運営されています。募金をした方がいたからこそ、この研修があり、その善意を無駄にしないようにと懸命にコーディネートしてくださった、小野さんと近藤さん。本当に「感謝」という言葉がじわじわと染みてきています。
 この研修で学んだことをいかして、地元での成功事例をつくり、それが全国へと波及するきっかけをつくることで、恩返しにかえていこうと思います。ありがとうございました。




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