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わが街の環境マイスター エコツーリズムで館山を元気に
竹内聖一さん (NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 理事長)

サンゴが育つ海を目の前にしながら、地元の人々はその魅力に気づいていなかった。エコツーリズムを通じて自然の楽しさと大切さを伝える移住者の活動とは――。

 

サンゴや温かい海の魚を観察できる館山
 

千葉県・館山市といえば首都圏の人々の別荘地として名高い。海岸に面した明るい街の雰囲気が絵になるためか、映画やドラマのロケ地として利用されることも少なくない。

しかし意外なことに地元の人々はこの街が持つ大きな魅力の一つになかなか気づかない。黒潮が流れ込む館山の海は温暖で、サンゴの北限域である。とくに砂州を渡って歩いていける離島・沖ノ島周辺ではエンタクミドリイシやキクメイシなどのサンゴが観測できるほか、季節によってはツノダシやクマノミなど熱帯の海に生息する色鮮やかな魚たちを観ることも可能だ。

NPO法人たてやま・海辺の鑑定団の竹内聖一さんは、沖ノ島を中心に、主に子供たちを対象にしたエコツアーを主宰し、館山の海の魅力を伝えている。東京都港区の出身で大人になってから館山市へ移り住んだ竹内さんは、この街では異色の存在だ。

「僕が小学1、2年生のころの東京湾はヘドロの海。きれいとは言い難い場所でした。しかし環境保全活動が活発になったためか、高学年になるころには海が急激にきれいになった。友人と一緒に釣りや潮干狩りに出かけて海に親しみました」

竹内さんの現在の活動は、このときの経験が原点となっている。

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館山に移住して20年になる。歩いていける無人島・沖ノ島を舞台に、海と森を探検するエコツアーを実施している
 

高校時代には千葉県市川市へ転居。その後、千葉県内の電気店に就職した。転機が訪れたのはバブル景気が終焉を迎えたころだった。物が売れずデフレが進み、残業時間だけが延びていった。どう生きていくべきか考え直したとき、週末よく遊びに行っていた自然豊かな館山に移住することを思いついた。運良くホテルに働き口をみつけ、2001年には館山での生活をスタート。働きはじめると、館山の雰囲気に惹かれてやってきた観光客がどこへ行っていいかわからず戸惑う様子が目についた。

「目の前にこんなにきれいな海があるのに、誰もその魅力を教えられずにいたんです」

 

館山市もその問題には気づいていたようで、同じころに市が環境プロデューサーの募集を始めた。竹内さんは応募するも、あえなく落選。しかし就任したプロデューサーの案により、自然体験を目玉にするプログラムが始まった。竹内さんは「海の体験養成講座」に参加、一連の活動を支援し、ホテルマンの立場からできるサポートをおこなった。やがて自然体験活動に可能性を感じてホテルを辞め、夏の間だけ沖ノ島のサンゴを観察するエコツアーを手伝うことになった。海の鑑定団の前身となるこの活動は好評で、2004年にはNPO法人化が実現した。


海を活用するなら保全はセット
 

現在では沖ノ島の保全活動にも力を入れる海の鑑定団だが、当初はエコロジー活動には主眼をおいていなかった。

「昨今、エコツアーをしていると、自然の様子が変わってきていることが目につくようになりました。海を活用するなら保全はセット。自然環境を守ることが重要と考えていなかったわけではありませんが、自然の変化を目の当たりにして取り組まざるを得ないと感じるようになりました」

沖ノ島はネット上で紹介されたことなどから、いまや人気観光スポットとなっている。

「沖ノ島はもともと多くの人が来ることが想定された場所ではありません。そのためルールがなく、心ない人のごみの放置や、自然環境への影響などの課題が浮き彫りになりました。環境を守るには人と自然が共存するルールが必要です。現在は館山市と協力して魅力ある自然を守っていくための取り組みを進めています」

現在の保全活動のメインフィールドは森だ。竹内さんは2013年ごろから沖ノ島の木々に元気がなくなってきたことを感じていた。

 
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森に覆われた沖ノ島。近年の大型台風で大木が倒れ、森に隙間ができてしまった。右=海辺を歩けばこんなお宝がざくざく
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沖ノ島は地層に興味がある人にとっても見応えのある場所
上=イソギンチャクとクマノミ。右=かつては伊豆半島が北限だったサンゴ、エンタクミドリイシ
 

「どうやら島の中にコンクリートで遊歩道を作ったことが影響しているようです。水や空気の循環が悪くなり、大きな台風が来ると大木が倒れるようになってしまいました。2019年の台風では樹齢約350年のタブが倒木しています。時期を同じくして海草や海藻類が減っていった。森で起きたバランスの変化が海の中に影響を及ぼしている可能性があります」

 

「皮肉なことに、自然に親しむための設備が島を痛めつけてしまっていた。竹内さんたちは現在、不要なところからコンクリートを外したり、新しく木が育っていくための整備をしたりすることで50年後の森や海が元気になるような活動をしている。

 

「気候変動の因子は複雑で、何が悪いのかを特定することは簡単ではありません。けれどここ数年で確実に大きな変化は起きています。まずはそれを多くの人に知ってもらいたい。沖ノ島の自然にふれて、未来に引き継いでいくべき環境について考えるきっかけをつくってもらえればと思います」

今年3月にはセブン-イレブン記念財団が海の鑑定団と協定を結び、沖ノ島周辺の海を「館山セブンの海の森」として、ともに保全活動を担っていくことになった。海を愛する人の小さな一歩が、島の持つ価値を未来に伝える大きな歩みにつながったのである。

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照葉樹の森をめぐって海岸へ。舗装された遊歩道の一部は、自然を守るため土に戻している
CONTENTS
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コンテンツ
・エコツーリズムで館山を元気に 竹内聖一さん NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 理事長
・竹林を舞台に地域の輪をつなぐ 豊田菜々子さん NPO法人 環境保全教育研究所 代表理事
・震災10年 子供たちの声が響く海を取り戻す 伊藤栄明さん 松島湾アマモ場再生会議 副会長
・都市のみどりを次世代へ 村田千尋さん 特定NPO法人 みどり環境ネットワーク! 事務局長
・釣り人の聖地・琵琶湖でごみを拾う 木村建太さん プロアングラー、淡海を守る釣り人の会 代表
・土木工学が出発点。海辺の環境保全に挑む「ハゼ博士」 古川恵太さん NPO法人 海辺つくり研究会 理事長
・故郷の廃村に新たなにぎわいを 松浦成夫さん NPO法人 時ノ寿の森クラブ 理事長
・荒れ果てた藪を、ホタルが舞い飛ぶ森に 伊藤 三男さん 学校法人田中学園 学校法人緑丘学園 監事
・美ら海への思いを大地に植える 西原 隆さん NPO法人 おきなわグリーンネットワーク 理事長
・都市の貴重な干潟を守るボランティアの力 橋爪 慶介さん DEXTE-K代表
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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