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「自然」に魅せられて
親子四代「ホーホケキョ!」いのちの響きを伝えたい
江戸家小猫(動物ものまね芸)
繁殖期のウグイスは1日1000回以上鳴くという。美しいだけでなく力強い ── その生命の息吹まで蘇らせるのが江戸家小猫さんの名人芸だ。親子四代、120年続く「動物ものまね芸」の真髄とは。
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江戸の昔は「猫八」だらけ!?
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祖父も、父も「江戸家猫八」の名跡を背負い、唯一無二の動物ものまね芸で一世を風靡した。十八番のウグイスやカエル、秋の虫など、さまざまな生き物の鳴きまねを至芸にまで高め、代々受け継いできたのは江戸家だけ。「世界に類を見ない」と小猫さんは胸を張る。
小猫

指笛でホーホケキョ!と鳴く江戸家のウグイスがお客様にウケるのは、一人一人の頭の中にちゃんとウグイスがいるから。その声のイメージに鳴きまねが重なって、「お、すごい」となるわけです。日本人は昔から、くらしの中で鳥や虫の声に自然と親しんできました。私たちの芸が根付いたのも、そういう独特の文化があったからだと思います。

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お家芸のウグイスを編み出した曾祖父が、初代・江戸家猫八として世に出たのは約120年前のこと。しかしその頃は「猫八」と呼ばれる芸人が全国に大勢いたという。
小猫

そうなんですよ。もともとは大道芸の一種で、江戸時代の末期、人家の門口で犬猫などの鳴きまねをして金品を受け取る芸人を「猫八」と総称していました。初代の曽祖父さんも、最初は神社の境内でアメを売るために猫八芸を披露していたんですが、それが面白いと評判になりましてね。見込まれて寄席に出たら大当たり! 一気に売れたと聞いています。初代が出演した旅回り興行のチラシには「ニセ猫退治に津々浦々、日本に一人の名物男」とうたわれているので、当時はまだ各地に猫八が残っていたんでしょうね。

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2013年のアフリカ旅行は亡き父・猫八さん(左)との大切な思い出。後方で群れをなすウシの仲間「ヌー」の鳴きまねもレパートリーに

ウグイスを鳴いてこそ江戸家
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そんな血筋に生まれ、子供の頃から祖父や父の芸に憧れてきた小猫さんだが、一方で「自分は芸人には向かない」と悩んでもいた。
小猫

根がまじめというか、カタいというか……祖父や父のような芸人らしい軽妙な感じがどうも苦手で。おまけに大病を患い、20代はほとんど療養生活でしたからね。やってみたいけど、無理だろうなと。病も癒えて、ようやく腹が決まったのは30歳のときでした。向く向かないはお客様に決めてもらえばいい。向かないと勝手に決めて、親の後を継がないのは、病気で心配をかけるより親不孝だと思い直したんです。

レパートリーの一つ、フクロテナガザル
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後を継ぐように強制されたわけではない。芸事は、人にやらされてできるほど甘い世界ではないからだ。ただ、父には「どんな道に進んでもウグイスだけは鳴けないと。それが江戸家だ」と諭された。小猫さんはどうやってそれを身につけたのか。
小猫

幼い頃から小指を曲げて吹く格好だけはよく真似していました。音は当然出ないのですが、あるとき、父がお風呂で私のちっちゃな小指を咥えて、ウグイスを鳴いてくれたんです。子供心に強烈な体験でしたね。自分の小さな小指でもちゃんと音が出る、あとはやり方次第なんだと。とはいえ、その後もなかなか音にはなりませんでした。ホーホケキョのホーの音がようやく出始めたのは、後を継ぐと決めて本気で稽古に励むようになってから。やっぱり覚悟の問題なんですね。江戸家の十八番を何とか覚えて、32歳でデビュー。そこからはもう日々精進です。

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「動物園の動物たちはウケようなんて思っていないのに、みんなを笑顔にしてくれる。私の芸の理想ですね」と小猫さん。柵の向こうの“師匠”は観るほどに、聴くほどに貴重な学びを与えてくれる

父に学んだ「音を観る」大切さ
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いまでは動物ものまねのレパートリーは100を超える、なかにはアルパカやテナガザルなど声がよく知られていない動物もあるが、その鳴きまねがまた面白い。実際に野山や動物園を巡って研究を重ね、芸の説得力を高めているからだ。それは父譲りの探求心の賜物である。
小猫

三代目の祖父は話術の人で、鳴きまねのネタは20あるかないか。意地悪なお客様からのリクエストで「ゴキブリ」なんてお題を頂くと、「ホイホイ」と切り返す洒落っ気が魅力でした。祖父の真似をしても、勝ち目はない。自分らしい芸を追求しようと考えた父は、新しいネタを探して各地の野山を訪ね歩く中で、野鳥への関心を深めていったのです。それはもう芸人というより、研究者さながら。国内外で野鳥のメッカといわれる場所には私もよく同行し、いろいろなことを学びました。その一つが「音を観る」という姿勢です。鳥の鳴き声を聴いただけでわかった気になっちゃいけません。ちゃんと実物の姿を観て、囀るときの筋肉の使い方や息遣いまで観察しないと。そういう野生の息吹を体感して鳴きまねをするのと、知らずに鳴くのとでは、芸のノリも、お客様の反応も全然違ってきますからね。

「向かない」と思った芸の世界も11年。芸人らしからぬ雰囲気が独特のユーモアを醸し出し、トークでも耳の肥えた客席を唸らせる(撮影:横井洋司)

芸を自然への興味の入り口に
小猫

父は野鳥観察を通じて、虫が減り、鳥が鳴かなくなるなど自然の異変にも気づくようになりました。そして本業のかたわら、各地で環境保護や生物多様性への思いを訴える講演活動に力を入れたのです。講演といっても、そこは芸人ですから、堅苦しいものじゃありません。動物ものまねを交えながら、あくまでもわかりやすく、面白く。私もいま、父と同じように環境分野への発信を強く意識しています。音を介して、自然や動物と関わってきた江戸家の芸の新しい可能性が、そこにあると確信しているからです。

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その発信の一つが、各地の動物園の来園者らを対象に開催している「どうぶつなきまねライブ」である。動物園を学びの場とし、現場の飼育スタッフとも交流を深めてきた小猫さんならではのパフォーマンスに、来園者の反応も上々だ。
小猫

見て楽しむだけが動物園じゃありません。音にも意識を向けて、もっと動物を聴いてみてください。耳を澄ますと、驚くほどさまざまな音が聞こえてきて、何の声だろう、どんな姿で鳴いているんだろうと、声の正体に俄然興味がわいてくる。野生の生き物との向き合い方も同じでしょう。でも、最近は自然の音が人々の暮らしから遠くなりました。もしかするとウグイスだって、いまのアルパカみたいに「鳴き声をよく知らない動物」になってしまうかもしれない。ウチにとっては死活問題ですよ(笑)。鳴きまね芸で自然の音を思い出してほしい。そして動物への興味の扉を開くきっかけにしてもらいたい。それが、令和の時代の江戸家の使命かもしれません。

Profile

えどや・こねこ 1977年年東京都生まれ。8歳で初舞台を踏むも高校時代に大病を患い、療養生活を経て、2009年に父の四代目江戸家猫八に入門。11年に二代目小猫を襲名し、寄席を中心に講演や動物園イベントなど活躍の場を広げている。20年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
CONTENTS
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コンテンツ
・果樹の国から発信日本初の「4パーミル」活動 坂内 啓二(山梨県農政部長)
・ササを守り、京文化を次世代へ 現役囃子方研究者の挑戦 貫名 涼(京都大学大学院助教)
・葦船を編めば世界も渡れる 石川 仁(探検家・葦船航海士)
・虫目線で見た神の森 伊藤 弥寿彦(自然史映像制作プロデューサー)
・親子四代「ホーホケキョ!」いのちの響きを伝えたい 江戸家 小猫(動物ものまね芸)
・「長高水族館」は本日も大盛況! 重松 洋(愛媛県立長浜高校教諭)
・走れQ太! 森を守るシカ追い犬 三浦 妃己郎(林業家)
・消えた江戸のトウガラシが現代によみがえる 成田 重行(「内藤とうがらしプロジェクト」リーダー)
・山里のくらしを支える石積みの技 真田 純子
・溺れるカエルを救いたい!秘密兵器を開発した少女 藤原 結菜
・音楽界に革新!?クモの糸でストラディバリウスの音色に挑む 大﨑 茂芳
・ふるさとの空に赤トンボを呼び戻す 前田 清悟(NPO法人たつの・赤トンボを増やそう会理事長)
・大自然がくれた至福の味 カニ漁師奮戦記 吉浜 崇浩(カニ漁師、株式会社「蟹蔵」代表)
・カラスを追い払うタカ─害鳥対策の現場から 石橋 美里(鷹匠)
・タカの渡りを追う 久野 公啓(写真家、渡り鳥研究家)
・微生物が創り出す極上ワイン 中村 雅量(奥野田葡萄酒醸造株式会社 代表取締役)
・「海藻の森づくり」で海も人も健康に 佐々木 久雄(NPO法人 環境生態工学研究所理事)
・大学をニホンイシガメの繁殖地に 楠田 哲士(岐阜大学応用生物科学部准教授)
・面白くて、おいしい「キッチン火山実験」 林 信太郎(秋田大学教授、秋田大学附属小学校校長)
・世界で唯一、エビとカニの水族館 森 拓也(すさみ町立エビとカニの水族館館長)
・都会の真ん中に“山”をつくる 田瀬 理夫(造園家、プランタゴ代表)
・一粒万倍 美味しい野菜はタネが違う 野口 勲(野口のタネ/野口種苗研究所代表)
・都市の里山に宿る神々 ケビン・ショート(ナチュラリスト、東京情報大学教授)
・ムササビ先生、今夜も大滑空観察中 岡崎 弘幸(中央大学附属中学校・高等学校教諭)
・保津川下り400年─清流を守る船頭の心意気 森田 孝義(船士)
・小笠原の「希少種を襲うノネコ」引っ越し大作 小松 泰史(獣医師)
・チリモンを探せ! 藤田 吉広(きしわだ自然資料館専門員)
・スズメバチハンター走る! 松丸 雅一(養蜂家)
・東京湾のサンゴを見つめて 竹内 聖一(NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団理事長)
・芝とシカのふしぎな関係 片山 一平(京都府立桂高校教諭)
・ドブ池ドブ川奇跡の復活炭博士が行く 小島 昭(群馬工業高等専門学校特命教授)
・「木一本、鰤(ぶり)千本」─豊かな海を育んだ海底湧水の秘密 張 勁(富山大学教授)
・わくわくドキドキ! 夏の夜の生きもの探し 佐々木洋(プロ・ナチュラリスト)
・かわいい変顔 虫目で見つけた! 鈴木海花(フォトエッセイスト)
・癒しの森でいのちを洗う 降矢英成(心療内科医)
・ブナの山が育てた神の魚 杉山秀樹(秋田県立大学客員教授)
・自然と調和する酪農郷 二瓶 昭(酪農家、NPO法人えんの森理事長)
・漁師が見た琵琶湖 戸田直弘(漁師)
・田んぼの恵みはお米だけじゃない 石塚美津夫(NPO法人「食農ネットささかみ」理事長)
・「結」の心を伝えたい 和田利治(屋根葺き技術士)
・多摩川復活の夢 山崎充哲(淡水魚類・魚道研究家)
・モイヤー博士の愛した島 中村宏治(水中カメラマン)
・白神山地が育む奇跡の菌 高橋慶太郎(秋田県総合食品研究センター主席研究員)
・ありがとう、ハチゴロウ 佐竹節夫(コウノトリ湿地ネット代表)
・ヤイロチョウの森の守り人 中村滝男(生態系トラスト協会会長)
・水辺って、こんなに面白い! 井上大輔(福岡県立北九州高等学校教諭)
・地熱染め 色彩の魔術 高橋一行(地熱染色作家)
・里山っ子ばんざい! 宮崎栄樹(木更津社会館保育園園長)
・金沢和傘の伝統を引き継ぐ 間島 円(和傘職人)
・「竹のこころ」を伝えたい ジョン・海山・ネプチューン
・クマのクーちゃん 人工冬眠大作戦! 小宮輝之(上野動物園 園長)
・まつたけ十字軍がゆく 吉村文彦(まつたけ十字軍運動代表)
・氷の匠──冬に育む夏の美味 阿左美哲男(天然氷蔵元)
・日本でただひとりのカエル捕り名人 大内一夫(カエル販売業)
・「村の鍛冶屋」の火を守る 野口廣男(鍛冶職人)
・杉線香づくり100年 駒村道廣(線香職人)
・空師(そらし)──伐って活かす巨木のいのち 熊倉純一
・日本ミツバチに学んだこと 藤原誠太
・満天の星に魅せられて 小千田節男
・ブドウ畑に実る夢 ブルース・ガットラヴ
・タゲリ舞う里を描いて 森上義孝
・ホタル博士、水辺を想う 大場信義
・左官は「風景」を生み出す職人 挟土秀平
・僕は「SATOYAMA」の応援団長 柳生 博
ムツカケ名人に学ぶ──豊穣の海に伝わる神業漁法 岡本忠好
・イチローの バットを作った男 久保田五十一(バットマイスター)

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