セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

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ドイツで感じた、日本の環境NPOの道標(みちしるべ) 連載-第10回- 人材育成 〜タンポポの種が広く飛んで行くように〜

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国として取り組む青少年育成
 ドイツでの研修が進む中で、「やっぱ、ドイツはスゴイわ!!」と感じさせられたことが何度もあった。今回のコラムのテーマである「人材育成」についても、「スゴイ!!」と感じさせられたことのひとつである。
 みなさんは、「人材育成」と聞いてどんなことを想像するだろう? ましてや、「環境市民活動における人材育成」となるとどうであろう? 「NPOにおける人材育成」と言われれば、NPOのスタッフや職員への研修や制度などを思い浮かべるだろうが、ここで話したいのはそれではない。ドイツでは国として、環境ボランティア活動の実践の機会を青少年に与える制度が確立しているのだ。これにはほんとに驚かされた。
その名も「環境ボランティア研修制度」
海外研修
研修の様子
 その制度の名を、「環境ボランティア研修制度」と言う。開始から16年が経ちドイツ全土に広がっているこの制度は、高卒から26歳までの男女なら誰でも志願することができ、1年にわたり環境ボランティア活動に関する実践研修を受けることができるのだ。研修生はエコや環境に関することを学び、将来に役立てる。1年の研修期間にかかる一切の経費は、連邦と州が負担している。つまり税金でまかなっているのだ。ドイツ国民は間接的に環境ボランティア研修生を育てていることになる。年間2,400人くらいが研修を受けており、これまでに延べ25,000人が研修を受けたという。
 では、1年の中でどんなことを学ぶのだろう。研修の中身は、実技や実務によるいわゆる仕事が大半を占め、その他にセミナー5回を通した教育が行われている。研修先は多様だ。農業、園芸、畜産、団体や行政での広報活動、行政での企画立案、水質検査や農業試験場などの研究所などが受入先として用意されている。ドイツ全土に50ある事務局が、どういうジャンルの受入先を準備し、セミナーを何回開催するかなどを決めているので、地域により差はあるが、今回私たちが訪れたヘッセン州では毎年100カ所以上の研修先を準備しているそうだ。
研修中もこづかいが支給される
 日本では「ボランティア」というと、どうしても「無給」というイメージを持ってしまう。しかし本来はそういう意味の言葉ではない。ドイツのこの制度の研修生には、何と毎月150ユーロのこづかいが支給されるのだ。日本円にして約16,500円くらいだ。他にも、住居や生活費についても自己負担はゼロだ。保険にも加入してくれる。研修中のセミナー参加費や交通費も自分で負担する必要はない。すべて国と研修の受入先が出してくれるのだ。これって、すごいことではないか。国が青少年育成のためにここまでお金を使っている。研修生を受け入れている団体や法人も、賃金の代わりに制度の経費を負担するのだ。研修希望者は自己負担がゼロだから参加しやすい。研修費を自分で払って参加する日本の研修などとは大違いだ。
研修と言っても一人前の仕事を任せられる
 研修生の受入先も制度の経費を負担していると書いた。本来は労働に対する賃金を本人に支払うところだが、この制度では違う。私たちが訪れたヘッセン州では、受入先は事務局に月419ユーロを支払い、月230ユーロの保険代を負担していた。研修生1人につき、月に70,000円ほどの負担が発生する。研修生は果たしてそれ以上の仕事をしてくれているのだろうか。受入先にとっては以下のメリットがあることがわかった。
  • 研修生がいることでできるようになった業務やプロジェクトがある
  • 組織に新しい空気が入る
  • 研修生から想定外の質問を受けることにより、新しい気づきを得る
  • 研修後もつき合いが続く
  • 職業実習生として戻ってくるケースもある
  • 初めは教育に時間が取られるが、その後は労働力として非常にプラス
  • そのまま就職し、重要なポストに就いている人もいる→環境NPOにも研修経験者多い
海外研修
研修担当の先生
 実際に私たちも、5〜6週目の研修生の仕事ぶりを見せてもらったが、他の職員のサポートも特に受けずに一人前の仕事をしていた。植物園で来園者に案内をしてまわる彼女だが、お客様からは通常料金をいただき案内をしているそうだ。本人もすごくやりがいを感じて仕事をしている感じだった。「毎日ここに来るのが幸せに感じている」と話した彼女がとても印象的だった。
大学入学前の1年間で自分の将来とじっくりと向き合う
海外研修
研修制度について説明してくださった事務局長さん
 高校を卒業して大学に入学する前に、ふと立ち止まり自分の人生設計、将来設計について考えてみる。自分がやりたい仕事は? 自分に向いている職業は? この環境ボランティア研修制度は、そんな自分と向き合うことができる時間なのだ。将来就きたいと思っている職業を1年間体験してみると、その職業に自分が向いているのかそうでないのかがよくわかる。また、こうやって社会に一歩踏み出すことで、今まで見えていなかった自分の姿や他の職業などを知るきっかけにもなるだろう。
 研修生にとってもメリットは多い。
  • 研修期間中に、就職活動のための面接練習なども行われる
  • これまでの生活と1年距離を置くことで、新しい自分を発見することができる
  • 就職前に職場や実際の業務を経験することができる→他の職員と同様の仕事をする
  • 専門的なことを学ぶことができる
  • チームワークを学ぶことができる
  • 過去の研修生とのネットワークに参加できる
 これだけのメリットがあることを、自己負担ゼロで受けられるのだ。そして何よりも、エコや環境に関することを学び、それに関連した仕事に就く人が増えるのだから、それは国全体の環境意識の底上げに大きく貢献することは間違いないであろう。
タンポポの種が広く飛んで行くように
 環境ボランティア研修制度のロゴマークを見たら、タンポポの絵だった。茎が研修制度、種が研修生。種が広く飛んで行くようにと願い作られたロゴマークだ。制度開始から16年。すでに多くの種が地表に芽を出し、ドイツの環境活動を力強く引っ張っている。
 高校卒業くらいの段階で、自分が興味のある分野の仕事を1年にわたり経験できることは、とても大きな意義がある。こんな制度を日本でも始めたい。日本全体で制度化するのが難しいようであれば、自分の地域で、環境関連の企業やNPOなどが力を合わせて独自の制度を作っていけばよい。日本の環境市民活動を活性化していこうと考える中で、青少年に対する人材育成は避けては通れないところだと強く感じた。




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