セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

※こちらはアーカイブ記事です。

 ホームへ戻る

 

文字サイズ
活動のご紹介

ドイツ環境街道をゆく 連載-第10回- 自然開発事業に意見するNPOの権利

→バックナンバー

海外研修
EUで定められた重要な生息地を示した地図
(写真提供:小野 弘人)

BUND・ラインラント・ファルツ州支部の活動内容にも、マインツ市支部の活動内容にも「行政による自然開発事業に対する意見声明」というものが含まれている(バックナンバー6参照)。
これは、今回の海外研修でもっとも感心したシステムの一つだ。 連邦自然保護法29条、州連邦自然保護法60条により、ドイツの環境NPOは、行政による橋の建設や道路の拡張等の自然開発事業に対して、公に意見を声明できる権利が保証されているのだ 1
BUND・ラインラント・ファルツ州支部には、行政から、年間約1,000の事業案が届き、基本的には、すべての事業案に対してポジション・ペーパー(意見声明文)を提出している。事業案は3ページ程度のものから、30ページにわたるものまであり、多大な労力と専門的な知識が必要とされる。BUND・マインツ市支部の担当者も、このポジション・ペーパーの作成がたいへんだと言っていた。
環境NPOに、こうした権利が保障されていることは確かに先進的である。
しかし、提出したポジション・ペーパーがすべて事業に反映されるわけではない。それでも、ポジション・ペーパーを提出していれば、裁判になった際に、それを有利にすすめる材料となる可能性がある。
例えば、モーゼル川のある地域に大きな橋を架けるという事業案が持ち上がった際、BUNDはEUで指定されている価値の高いビオトープを破壊するおそれがあるとして、「小さな道路をつくって、小さな橋を架けても同等の効果が得られるのではないか」という代替案を提出した。しかし、行政はその代替案に対する検討を行わず、事業をすすめようとした。そこで、BUNDは裁判をおこした。結果、裁判に勝訴し、現在でもその橋は架かっていない。
とはいえ、こうした裁判はどのような事業に対してもおこせるわけではない。多大なコストや労力、時間がかかるのである。ちなみに2003年度は、3つの裁判が結審し、そのうち2つに勝訴し、1つに敗訴した。裁判は最終兵器なのだ。
この意見声明の権利は、すべての環境NPOに与えられているわけではない。ある一定の条件を満たした環境NPOのみである 2。おおよその州では、この権利を有する環境NPOは3団体程度であるが、ラインラント・ファルツ州では、約10の環境NPOがこの権利を有している。
これに対して、BUND・ラインラント・ファルツ州支部の担当者は、10団体は多すぎて問題だと考えている。多くの場合、ポジション・ペーパーの有効性を高めるために、他の環境NPOと協力して一つのポジション・ペーパーをまとめ上げている。意見声明の権利を有する環境NPOの数が多ければ、意見が分散したり、その調整が困難となるからである。
現実的には、こうしたいくつかの課題はあるが、法律が、「行政による自然開発事業に対する意見声明」の権利を環境NPOに認めているのは画期的である。私も環境NPOに携わるものとして、わが国でも、このような制度が創設されることを願う。ただし、現段階で、このような制度が創設されても、それに耐えうるだけの環境NPOは、わが国にどれほどあるだろうか?
海外研修
蝶の美しいポスターが作られ、壁に掛けられている。
(写真提供:小野 弘人)

ちなみに、ドイツの環境NPOスタッフには、ドクター(博士課程修了者)も多い。このような制度は、専門家を常雇できるだけのNPOの実力に支えられていると言っても過言ではない。
そしてもう一つ。言うだけなら簡単だ。言った以上責任が伴う。ドイツの環境政策の基本的考え方の一つは、「環境保全行動の計画と実行に対して、当事者つまり環境汚染の潜在的被害者と加害者とが共同責任を持って協力する(参加する)」という協力原則なのである 3

1 【連邦自然保護法29条で承認される団体とその権限】
現行の連邦自然保護法は1976年に施行された。施行に先立って75年に作成された草案では「多くの団体をはじめとする、市民による自然環境づくりとその維持への積極的な参加は長い伝統を持つ。したがって自然保護への市民参加を促進することが望ましい」ことが明言された。その結果、29条に基づいた、自然環境づくりへの市民参加に関して、環境団体として承認された団体は、
[1]自然保護に関する命令やその他規則の草案
[2]自然保護構想や計画の準備
[3]自然保護地域や国立公園における禁止や規則の解除
[4]自然環境に影響を与える開発・建設計画の決定の手続き
において意見を表明し、またそれに関する専門家による鑑定を閲覧する機会が与えられる、とされている。
資料:今泉みね子『ドイツを変えた10人の環境パイオニア』白水社,1997年

2 【意見声明の権利を有するための環境NPOの用件】
団体の承認は、申請に基づいて行われるが、承認されるには
[1]規約によって持続的な自然保護と景観保全の促進を目標に定めている
[2]少なくとも一つの州全土にわたって活動領域を持つ
[3]上記の課題を果たすだけの専門的能力を持つ(活動の領域、種類、会員の範囲、活動の実績も含む)
[4]公益団体として法人税の免除をうけている
[5]団体の目的を支持する人なら誰もが入会できる
にの条件を満たしていなければならない。
それぞれの州の自然保護法にもこれと同じような趣旨の条項がある。
資料:今泉みね子『ドイツを変えた10人の環境パイオニア』白水社,1997年

3 この原則は、予防原則、汚染者負担原則と並んで環境政策の三大原則である(横川洋「農業環境プログラムにおける協力原則−ドイツの水質保全プログラムの事例から」.矢田俊文ら編『グローバル経済下の地域構造』九州大学出版会,341-358頁,2001.)。




このページの先頭へ
ご利用にあたってプライバシーポリシー
Copyright(C) 2000-2019 Seven-Eleven Foundation All Rights Reserved.