セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

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環境ボランティアリーダー海外研修

2005年(平成17年)第8回環境ボランティアリーダー海外研修レポート

海外研修レポート 感想 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究課
杉浦 拓郎 さん

環境先進国として名高いドイツ。幸運にもそこへ7日間の研修で行かせていただくことになった。多くのドイツ人は自然エネルギーを使い、街にごみはなく、多くの人が環境に優しい生活をしている、とういのが私のドイツのイメージだった。人々や行政の意識も高く、制度も整備されたドイツでたくさんの素晴らしい事例を学ぶことができるのだと思っていた。しかし、私が想像していた理想のドイツはそこにはなかった。
ドイツの一般的な市民の環境に対する意識は実はあまり高くはなかった。もちろん意識の高い人もたくさんいるのだが、むしろ日本の方が良いのではないかと思うこともしばしばあった。ではなぜドイツは環境に優しい国と言われるのか。その一つの答えとして挙げられるのが「制度」である。9月末のドイツは涼しいと聞いていたので少し着込んでいたのだが、空港に降りてみると夏のような暑さであった。空港からのバスに乗り込んだがバスも非常に暑い。ドイツではアイドリングが法律で禁止されているため、駐車時にエンジンをかけることができずクーラーをかけていなかったのだ。また、後日スーパーへと買い物に行くと、入口のところで自動販売機のような大きな機械の前にビンをたくさん入れた袋を抱えた人が並んでいた。何かと思い横から見ていると、機会にビンを入れて出てきたレシートをレジに持っていきお金をもらっていた。飲料水を買うと容器代があらかじめ料金に含まれており、飲み終わった後にそれを返却すると容器代を返してもらえるというデポジット制度である。そして、スーパーで買い物を終えレジへ向かうと、最後に袋はいりますか?と聞かれる。袋にもお金がかかるのである。そのためほとんどの買い物客はマイバッグを持参しているし、レジの横にたくさんのエコバッグが売られている。市民の生活から少し離れたところでも、私たちが宿泊していたマインツという街の近くにあるヴェールシュタットでは、ローカルアジェンダを推進するために市民ネットワークがアジェンダに関するプロジェクトを地域行政に提案する権利が認められている。また、特定の団体は行政の開発計画に対して訴訟を起こす権利も有している。このように、市民の生活に密着したところでは環境に興味のない人でも参加が半ば強制される仕組みになっており、行政レベルでは環境保護団体に広範な権利が認められているのである。
一般的な市民の意識は特に高いわけではないといったが、これは当然青年層にも当てはまる。ドイツの若者は環境や社会に対して様々なアクションを起こしているものだと思っていた。訪問した団体へ何度か若者に関する質問をぶつけてみたのだが、残念ながらドイツでも若者の無関心というのは深刻な課題のようであった。しかし、ここでもまた環境ボランティア研修という制度が興味深い示唆を与えてくれる。この「環境ボランティア研修制度」は16才〜26才を対象として、環境に関するあらゆる分野の団体で一年間研修を行うというものである。若者が社会に対して無関心であると述べたが、関心がないのではなくどの分野に興味があるのか、どういう接し方をすればいいのかわからないという声がある。また、自分のこれからの人生について深く考える期間として、社会経験を手に入れるためといったような目的で参加する人が多いようである。この研修では、参加者は貴重な体験をし、受け入れ先は若者の柔軟性や視点を得ることができ、財政的に厳しいところは少ない負担でスタッフを増やすことができる。資金の8割は州からの負担によるもので残りは国と受け入れ先が負担している。
こういった環境と社会と経済とを連携させるような制度、仕組みはまだ日本ではあまり見られないように思う。国民の意識レベルは変わらない、経済界の環境への取り組み・技術は世界トップクラスであるが行政に大きな差があるのである。行政の環境問題や環境団体に対する理解の差、実行力の違いが日本とドイツの大きな違いである。それがドイツが環境先進国と呼ばれる所以ではないだろうか。このような制度や仕組み作りは日本でも参考にできる。
そして行政を動かすには、政策を変えるには市民の力が必要である。ドイツの環境保護団体は政治的影響力を持つことを目的の一つとしている。そのために組織を巨大化させている。実務として世の中を変えていくのは政治である。その部分に関して影響力を持たないのであれば活動をする意味はないとまで言い切る。これらの政治的影響力を持つ団体のロビー活動により国や地域の政策が変わることもあるのだ。この部分も日本との大きな違いだろう。日本の団体は政治色がつくのを嫌がるが、本当に社会を変えたいと思うなら政治は避けて通れないものである。ドイツのように地域に根付く小さな団体をネットワークし、より大きな団体へ、それらをまた束ねてさらに大きな影響力を持つ団体を作るということも実現していかなければならないだろう。

そして、日本とドイツの違いについて興味深かったのは、言葉の解釈の違いである。例えば、広報というと日本ではあるイベントなどに対する参加者を集めるというように思うが、ドイツではイベントそのものが広報であると捉えている。広報と啓発は同時に行われるものといった感覚のようだ。実際に、温暖化防止のキャンペーンとしてドイツ語と日本語で書いたメッセージを貼ったダンボール箱を持ってマインツの駅まで歩いたときも、私たちやダンボールのメッセージを見て興味を持ってくれたり、新聞に載れば名前も広まるということで広報になるということだった。日本では完全にキャンペーンと呼ばれる活動である。また、森の学校のキャンペーンをしたときに、参加者となる子どもたちの後ろにいる親にアクセスすることを目的とした戦略をとって大成功したと言っていた。子どもを対象にしたプログラムを親への広報のために利用したと言える。この発想にはとても驚いた。
ファンドレージングも日本では単に資金集めといったように考えられているが、ドイツでは団体の長期的な成功を目指すためのものである。特に印象的であったのは、ファンドレージングにおいて最も重要なことはとにかく調べることだという言葉である。寄付をする人がどういう人間かは調べなければわからない。とにかくあらゆることに関して調べるということであった。そして、ドイツでの最近の調査によりわかったことは、今後の寄付に関して、遺産を寄付するという行為が急激に増えるということである。各団体ではすでに遺産についての戦略を立てており、今から始めてももはや手遅れということであった。さらに、日本において寄付行為は一般化しないという最も一般的な批判として税制の問題が挙げられるが、優遇税制を持つドイツでの寄付をする理由の上位10番以内に税金に関する意見は出てこない。こういったことをしっかり調査し、データとして利用できれば日本での批判的な意見も減らし、寄付を促進させることができるのではないだろうか。社会の流れを先読みし、よく調べ、長期的な戦略を立てることがファンドレージングでは重要であるということだった。
上に挙げた例からわかることは、物事を一側面だけで捉えていないということである。様々な角度から捉えることで見えていなかったものが見えてくる。この多様な捉え方、考え方、行動は日本でも役に立つものであると感じた。
これに関連もするのだが、ドイツのNGOは非常に冷静で客観的であるという印象を受けた。自分たちの社会の中での位置というのを明確に見極め、目的遂行のために最も適しているパートナーをその時々で選ぶ。日本でもこのぐらいの冷静さをもって状況を見極める団体が増えてくると良いと思う。

私の日本でのテーマは、いかに若者に社会への興味を持ってもらうのかということである。次代を担う青年世代の社会に対する無関心は、環境だけでなく日本の社会そのものにとっても非常に大きな問題だ。ドイツでは、環境や政治に対する市民の意識が高いというイメージがあるので、ドイツには私のテーマに対するヒントがたくさんあると思い、若者の環境や社会に対する意識や起こしている行動などについて、直接彼らに聞く機会を得たことはとても幸運だった。しかし、残念ながら今回は直接的なヒントを得るには至らなかった。ドイツの若者の多くは日本の若者と同じく、社会問題に関してあまり関係を持たないようだった。ドイツの環境保護団体は地域とのつながりを非常に大切にする。地域を変えずしてそれより大きなものは変わらないのだ。そのため、今回は地域の活動と若者にしか接することができなかった。例えば、都会に行けばまた違ったものが見えたのかもしれない。ヒントを得ることができなかったことは残念だったが、日本でもドイツでも抱える重要な課題をテーマとしていることに意義深いものを感じた。ここで何か達成することができれば非常に意味のあるものになるだろう。青年の社会への関心というテーマに関しては決意を新たにすることができた。
今回のドイツ研修では、環境先進国と言われるドイツの先進的な事例から、団体の運営に必要不可欠である組織、ファンドレージング、プログラムマネージメント、広報、人材育成など、日本での活動におけるヒントやきっかけをたくさん学ぶことができた。また、様々な分野の専門家に質問をぶつけることができたのもとても良い経験だった。研修の合間に見たマインツの街並みやぶどう畑と青い空はとても美しいものであったし、炭酸水を飲むといった生活習慣の違いについても知ることができた。この濃密で充実した研修を組んでいただいたセブンイレブンみどりの基金のみなさま、事前から本番まで私たちをコーディネートしてくれた柳澤さん、研修以外の部分でいろいろとお世話していただいたJTBの島野さん、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。



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