セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

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環境ボランティアリーダー海外研修

2010年(平成22年)第13回環境ボランティアリーダー海外研修レポート

海外研修レポート 感想 NPO法人 ねおす
荒井 一洋 さん

1.  背景と目的

NPO活動は、より良い社会づくりに貢献することを目的に活動しており、市民からも支持を受けている。しかし、市民に「共感」してもらい、活動に「参画」してもらうまでにはなっていない。より良い社会づくりのためには、より多くの市民に「支持」され、市民が「参画」し、ムーブメントを生み出していくことが重要だと考える。

そこで、今回の研修では、日本でのNPO活動が、市民のニーズに応えられる活動になること、市民や行政から信頼され、活動に参画し易すくなることを目的に、組織の運営基盤整備について学んだ。

この報告では、研修プログラムを通して学んだことを整理し、NPO活動の組織体制についてと、NPO活動を支援する人材育成の仕組みづくりについての考えをまとめた。

2.  訪問団体の活動やマネジメントなど、どの部分を日本のボランティアリーダーとして生かせるか。

2−1.組織のポジショニングとそれに必要な組織体制
「組織のポジショニング」とは、連邦の環境省、州の環境情報センター、市町村、NPOなど、国レベルから地域レベルまで様々な組織がある中で、個々の組織がどのような立場と役割を担っているかを意味する。環境保護という目的に向かって、個々の組織が役割分担をし、自己組織の責任を全うすることが、社会的課題の解決に向けた効果的な方法だと考える。

例えば、NABUは「自然環境の保全を市民と一緒に実施していく立場」をとっており、連邦政府や州が提案する政策に意見したり、新しいプロジェクトを提案している。この存在により、市民が主体的に環境行政に関わったり、政策に対して市民が理解し納得するための議論や決定が行われていると感じた。

この役割を全うするためには、強固な組織体制とマネジメントが必要である。NABUはドイツ全体で40万人の会員を持ち、その運営のために連邦−州−地域グループに分けている。理事会には、教員・銀行員・生物学者・学生・主婦・弁護士などがおり、各分野の専門性を持ち寄ることでバランスのとれた経営を行い、社会的信用を得ている。

一方で、NABUの強みは強力な理事会だけではない。理事会の下にある州支部、その下にある地域グループでの意思決定は、上位組織の理事会がトップダウンで行うのではなく、担当している州や地域グループが自ら意思決定を行う。それぞれの組織が意思決定をすることで、地域課題に合った活動が展開され、参画者や会員が増え、多くの市民の理解を得ている。

つまり、地域へ意思決定の権限を委譲することで、地域に根差した特徴ある活動を実施し、地域社会から支援を受けることに成功している。そして、それら地域での信用を束ねて「40万人の意見」として、政治に働きかける体制をとることで、政府が無視できない存在として確立している。こうなると社会を変えるムーブメントを起こすことができる。

日本では地域に根差した活動が活発になされている。しかし、それが政策提言につなげる仕組みを持っている団体はほとんどない。BUNDやNABUのような数十万人の支持を得るのは簡単ではないが、ドイツの組織運営に学び、信用を高め、政策提言できる枠組みづくりを進めていくことができる。

そのために組織は、「社会状況の把握」「自組織のミッションの確認」「自組織の適正評価」を行い、社会における自組織のポジショニング(位置づけ)と、そのポジションに必要な能力を身に着けていくことが必要となる。

3.  研修を通して、日本の環境ボランティアリーダーを支援するためにどのような仕組みが考えられるか。

3−1 育てるべき人材は「専門家」
NABUやBUNDのような政治力を持った組織を目指すに当たり、人材育成は欠かせない。しかし、人材育成はコストがかかり、個々のNPOで行うのは効果的ではない。そこで、協働で人材育成を行う仕組みを考えたい。

今回の研修で、育てるべき人物像が見えてきた。1つ目は「専門性のある人」、2つ目は「高い顧客満足度を追及できる人」、3つ目は「自由な発想で自分の役割を全うできる人」である。

「私たちは専門的な知識や技術を持った集団です」とNABUラインランドファルツ州代表のSeigfried氏が言うとおり、NABUはスタッフのみならず、多くの会員がその地域の自然などについて専門性を高めており、その結果、専門的な能力をもった集団となっている。また、企業とNPOとの協働プロジェクトを手掛けるラインランドファルツ州自然環境財団のクレービュール氏がNPOと協働する時の最大のポイントに「専門性があるか」を挙げている。プロジェクトを実施する時には、個々の団体の専門性や強みを活かして役割分担がなされる。その役割を全うできる専門性があってこそ、社会に意味のある効果的な活動となることが強く意識されていた。

「高い顧客満足度を追求できる人」とは、様々な顧客(行政、地域住民、関係企業など)に対して、個別に的確な対応をとり、活動を支援してくれるすべての人を幸せに、満足させられる人である。NPO活動は多くの関係者が関わり複雑である。しかし、その複雑な関係性を丁寧にひも解き、必要とされている人へ、必要な対応を取ることが重要である。
例えばファドレイジング。NPOの課題の一つに資金獲得があるが、資金を得るには、資金を提供する側(顧客)の意図を理解した上での運用や、運用に関する丁寧な説明が求められる。その理解なしには、資金提供者の思いは達成されることがなく、事業は継続されない。活動の現場においても同様のことが言える。NPOや行政や地域住民の3者の思いをすべて把握し、そのひとつひとつに共感し、そのひとつひとつを丁寧にサポートしていくことで、信頼が高まり、継続的な支援を受けられるようになる。

「自由な発想で自分の役割を全うできる人」とは、自分の役割を認識し最大の効果を目指して、広い視野で革新的に動ける人である。
資金が少ないにもかかわらず多様で複雑なNPO活動では、一人が何役もこなす場面がある。その結果、仕事が中途半端になりクオリティが低くなるケースもある。この場合、個人がNPO活動を始めた原点にあたる「専門性」に立ち返り、自分の専門性を軸に自分の役割を明確にする必要があると考える。そして、その専門性を最大限に発揮することが、役割を全うすることになり、結果としてプロジェクトの成功と言う効果をあげられる。今回の研修で訪問した人たちは、皆、専門家でありその専門性に集中することで、誰にも真似できないハイクオリティなサービスや商品を生み出していた。

3−2 小さな成功体験の積み上げ
これらの人材を育てるための指導方法として「小さな成功体験の積み上げ」が考えられる。
FOYの研修を受け入れているパルメンガーデンのBreimhorst氏は、人材育成における最大のポイントは「肯定的な考え方」だと言った。これは「ないことねだりではなく、あるもの探し」。つまり、研修生が出来ないことを指摘するのではなく、その人が持っている強みを探して伸ばそうということである。強みを伸ばすには、小さな成功体験を積み重ね、成功するパターンを頭と体で覚えることが重要である。また、成功体験はやる気にもつながり、主体的な学びの姿勢が身につく。パルメンガーデンでは、(意図的ではないかもしれないが)このような状態になっており、研修を初めて6週間の高校を卒業した女性が、生き生きと私たちをガイドしてくれた。
そこで、ボランティアリーダーを支援するための仕組みとして、小さな成功体験を積める機会を様々な団体と協力して作ることを提案する。そこには2つのステップがある。1つは指導方法の確立。1つは多様なOJTの機会を提供できる仕組みづくりである。

NPOを行っていると日々の活動に忙しく後輩を指導する時間がない。或いは、やりながら学ぶという方針で、研修生の力量以上の仕事を任されているケースがある。これは、研修生の問題ではなく指導者の問題であり、これを解決しない限りは研修生の負担が大きく、持続可能な人材育成は出来ないと考える。

具体的な指導法については、ドイツの森の幼稚園での指導方針やNAJU(NABUの青年部)の活動方針を参考に、次のように考える。①指導者は、目的と方針を伝える。②やり方は任せる。③評価はダメだしではなく「出来たこと探し」にする。④指導者と研修生はプロセスを共有する。⑤研修生に責任をもって業務を実施してもらうが最終責任は指導者が持つ。指導者はこの方針に沿って、小さな成功体験を積み上げられるよう、研修生をよく観察し、的確なアドバイスを出すようにする。

NPO活動には様々な現場がある。現場が人材不足であるならば、その現場にOJTとして研修生を配置することで「人材不足を補いたい」と考えるNPOと、「新しい体験を通して成長したい」という研修生のどちらのニーズも満たすことができる。

そこで、人材育成に問題意識を持つNPOの協働プロジェクトとして、年数回の集合研修とOJTによる、1年間の人材育成コースの仕組みを考えたい。事務局となるのは中間支援組織である。事務局は、研修プログラムの企画、研修生の募集、受け入れ団体の募集・調整、研修生と受け入れ先のマッチング、研修生の指導を行う。受け入れ団体は、先の指導方法に合わせた現場対応を行う。

この仕組みについては、ドイツのFOYや日本の農林水産省「田舎で働き隊!」制度を軸に考えることができる。どちらも若者とNPO活動のマッチング制度である。どちらも様々な問題があるが、この解決策は中間支援組織のファンドレイジングにあると考える。人材育成はコストがかかる。それをだれがどの程度負担するのかが問題となっている。人材育成プロジェクトを実施する中間支援組織はファンドレイジングが重要な役割となり、その専門性を高める必要がある。

4.  全体を通しての感想

これまで説明してきた、「組織の運営体制」や「人材育成の仕組みづくり」の他に、「ミッションを明確にし、それをわかりやすく説明できること」、「組織がわかりやすくあること」、「透明性を高めることは、社会の信用度が高まること」、「ファインドレイジングに向けて一番最初にすること」「民主主義の考え方と教育手法」など、今後の活動につなげていく具体的なヒントを得ることができた。

これらのヒントは、各訪問先での事例や説明を受けただけではなく、毎回のメンバーとの議論から生まれたものである。ドイツの事例を把握したうえで、日本の活動にどのように活用できるか、皆の知恵を借りて考え出したものであり、とても創造的な時間を過ごすことができた。

このような創造的な場を一緒に作ってくれた小野さん、矢野さん、ファレンダーさん、田中さん、鳥羽さん、橋爪さん、明賀さんに感謝します。ありがとうございました。

今回の研修では、環境NPOや環境行政などドイツの様々なポジションで実践している人の話を聞くことができました。これまでの枠に捕らわれ過ぎず、自由な発想で今後の活動に取り組んでいくヒントを得ることができました。



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