bar
文字サイズ
わが街の環境マイスター 浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に
鈴木 吉春さん
環境ボランティアサークル 亀の子隊代表

漂着ごみが集まる渥美半島の先端。20年前、ここで始まった小学生のごみ拾いが、引率する先生の人生を変えた。


「西の浜はゴミ箱じゃない!」
 

愛知県東南部から東西に細長く伸びる渥美半島は、南は太平洋、北と西は三河湾、伊勢湾に面する、三方を海に囲まれた地域だ。半島先端に広がる「西の浜」は、湾への河川の流入と海流や風の影響で、ごみが大量に漂着する一帯となっている。

「昨日の南風で流れたのか、今日はごみがいつもより少ないです。私が子供の頃はきれいな浜でしたが、使い捨て文化がいつの間にかごみの量を増やしていたんですね」

 漂着ごみを手に話す鈴木吉春さんは、1955年、愛知県渥美町(現在は田原市)に生まれた。「環境ボランティアサークル亀の子隊」代表のほか、「海に学ぶ体験活動協議会(CNAC)」理事などの役職を担う環境教育の専門家だ。1998年から毎月1回おこなわれ、現在は年に延べ1500人近くが参加して3000㎏以上のごみを拾う「西の浜クリーンアップ活動」は、小学校教諭だった鈴木さんが、小学4年生の生徒14人と始めたごみ拾いがきっかけだった。

photo
地元生まれ。海と山に恵まれたこの地域を愛してくれる人を増やそうと、エコツアーも手掛ける

photo
前方は伊勢湾。市民が憩えるように整備されているが、ごみの漂着が悩みの種だ
 

「教員になってしばらくは内陸の学校で教えていて、海の環境変化を知らずにいました。98年に亀山小学校に赴任し、『ごみがすごいよ』と子供たちに聞いて西の浜に行き、本当に驚きました。茫然と眺めていたら、その場で子供たちがごみを拾い始めたんです。春から夏にかけて西の浜に通い、校長と相談して、近く導入されることになっていた『総合的な学習の時間』として西の浜の活動を始めました」

〈西の浜はゴミ箱じゃない!〉──活動後の感想で、生徒が書いた素直な怒りの言葉が、その後20年続いている西の浜クリーンアップ活動のスローガンになっている。そもそもは少年非行の問題に関心を持ち、高校教師を志望していた鈴木さんは、西の浜のごみを目にする前は環境問題に直接取り組むことはなかった。オイルショック後の就職難で志望がかなわず、数年間の講師生活を経て、愛知県の小学校教員になった。


 

「学生時代からフィールドワークが好きで、小学校の教員になってすぐに地域の歴史や文化を教材にして授業をしていました。対象が海の環境であっても、地域の課題を見つけてテーマにすることに違和感は覚えませんでしたね。海に囲まれた渥美半島では古くから製塩や漁がおこなわれ、海藻や木切れが燃料や肥料に使われていた。そんな故郷を愛する心を育てることを第一目標にして、西の浜の環境学習を始めたわけです」

 活動は新聞やテレビで取り上げられて話題になり、当初は「売名行為だ」「生徒に無理やりやらせている」「地域を巻き込むな」などと非難も浴びた。そこで西の浜の活動を学校の授業と切り離すことになり、99年、「環境ボランティアサークル亀の子隊」を設立して、西の浜の活動を続けることにした。

 

「いまでは学校と地域が協力して課題を解決する取り組みが当たり前になっていますが、当時は環境に対する意識が醸成されていませんでした。叩かれても続けたのは、1年目の校長のように『そのうちわかってもらえるようになるから、焦らずじっくりやればいい』と支援してくれる人がいたことと、最初に始めた子供たちの思いが強かったことが理由です。中学生になってもごみを拾いに来てくれる子たちの思いを潰したくないし、新たに来てくれる人もいる。隊員がいる間は続けようと思ううちに、社会的に認められて、もうやめられなくなりました(笑)」

photo photo photo
漂着ごみには、どこから流れてきたか、発生元がわかるものも多い

教師から環境カウンセラーへ
 

現在の亀の子隊は、亀の子隊員38名、保護者の中で活動を支援・協力してくれる親亀隊員17名、賛助会員や支援ボランティアで構成され、セブン‐イレブン記念財団も助成している。活動開始から20年。鈴木さんは2015年に教職を退職し、3年間の再任用を経て、18年3月に教員生活を終えた。退職翌年の16年4月に環境省認定環境カウンセラーの資格を取得。渥美半島の環境をよりよくする啓蒙活動を目的に、同年6月に渥美半島環境活動協議会を設立。そのほかにも資格を取り、さまざまなネットワーク作りに取り組む。

「総合学習で始めて以来、自分たちで考えて主体的に動く心の力を育むことを、亀の子隊の目的にしてきました。やっぱり、主体的な心の動きがベースにないと、表面的な環境学習で終わってしまうんです。私自身も、誰かのお手伝いをするよりも主体的に活動できるほうがいい。好きな地域教材を授業に取り入れていたら、総合的な学習の時間の開始で環境学習と出会い、いろんな人との縁が広がってきた感じですね」

photo
壁の地図には、判明した漂着ごみの発生元が記してある。驚くほど広範囲の地域から西の浜にごみが流れ着く

photo
photo
上=毎月おこなわれる西の浜の清掃活動 左=亀の子隊では観察会などのイベントも豊富
 

 渥美半島には伊良湖岬や恋路ヶ浜が先端にあり、高台や浜から望む太平洋の景色が見事だ。戦後、豊川用水が整備されて農業が主幹産業になり、マスクメロンや電照菊が特産品。アサリをはじめ、海産物も豊富だ。故郷の好きなところを挙げるなら、「海と山の自然の豊かさ」と、鈴木さんは言う。

「環境がいつの間にか悪くなったら、海からも山からも恵みを受け取れない時代が来てしまう。そうならないために、いまのうちに多くの人が環境に目を向けて、大切にするようになってほしい。海と山の環境がつながっていることを体験的に知って、身近なところから環境をきれいにしていけるといいですね。人間が汚したのだから、人間が協力して働きかけないともうきれいにはなりませんから」

 鈴木さんはずっと、子供たちや参加者と一緒に学び合う姿勢で、海や山の自然と向き合っている。

CONTENTS
------------------------------
コンテンツ
・きれいなだけではない、豊かな海に 志田 崇さん NPO法人 あおもりみなとクラブ 理事
・地域が育てる自然を愛する心 吉元美穂さん NPO法人 登別自然活動支援組織 モモンガくらぶ 事務局長
・中高生たちが体で覚える森の大切さ 宮村連理さん NPO法人 「緑のダム北相模」副理事長
・人の関わりが未来の豊かな湿地環境を育む 上山剛司さん 庄内自然博物園構想推進協議会鶴岡市自然学習交流館ほとりあ
・エコツーリズムで館山を元気に 竹内聖一さん NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 理事長
・竹林を舞台に地域の輪をつなぐ 豊田菜々子さん NPO法人 環境保全教育研究所 代表理事
・震災10年 子供たちの声が響く海を取り戻す 伊藤栄明さん 松島湾アマモ場再生会議 副会長
・都市のみどりを次世代へ 村田千尋さん 特定NPO法人 みどり環境ネットワーク! 事務局長
・釣り人の聖地・琵琶湖でごみを拾う 木村建太さん プロアングラー、淡海を守る釣り人の会 代表
・土木工学が出発点。海辺の環境保全に挑む「ハゼ博士」 古川恵太さん NPO法人 海辺つくり研究会 理事長
・故郷の廃村に新たなにぎわいを 松浦成夫さん NPO法人 時ノ寿の森クラブ 理事長
・荒れ果てた藪を、ホタルが舞い飛ぶ森に 伊藤 三男さん 学校法人田中学園 学校法人緑丘学園 監事
・美ら海への思いを大地に植える 西原 隆さん NPO法人 おきなわグリーンネットワーク 理事長
・都市の貴重な干潟を守るボランティアの力 橋爪 慶介さん DEXTE-K代表
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

ご利用にあたってプライバシーポリシー
Copyright(C) 2000-2019 Seven-Eleven Foundation All Rights Reserved.