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わが街の環境マイスター ら海への思いを大地に植える
橋爪 慶介さん
NPO法人 おきなわグリーンネットワーク理事長

沖縄のサンゴ礁を守るカギは陸上にある。地元特有の赤土流出を防ぐため、西原さんたちは植栽活動に汗を流す。青い海への思いが赤い大地にしっかりと根づくように。


海を濁らせる赤土はどこから
 

琉球の島々では、台風時や梅雨の季節などに雨が続くと、青く澄んだ美ら海がたびたび赤く濁る。亜熱帯特有の激しい降雨で、県内の陸域に広く分布する赤土土壌が浸食され、川へ流れ出てしまうからだ。これを防ぐために、イネ科の植物ベチバーなどを畑の周辺に20〜30cm間隔で植えつけて、耕土流出を食い止めるのが「グリーンベルト」と呼ばれる手法。西原隆さんが理事長を務める、地元のNPO法人おきなわグリーンネットワークの活動の柱である。

「沖縄の赤土は粒子が細かく、脆いため、農地などの露出した部分から崩れやすく、海面に出ると拡散しやすいのです。いったん沈殿しても、波や潮の干満の影響で海底からまき上げられ、サンゴ礁の海をくり返し汚染する。本当に厄介ですよ」と、西原さんは顔を曇らせる。

海が濁るとサンゴの光合成が妨げられ、海水温の上昇とともにサンゴ死滅の原因となる。また、流出した大量の赤土はマングローブや干潟を陸地化させ、南国ならではの景観を損なうだけでなく、生き物の棲みかまで奪うのだ。赤土流出はいまや、沖縄の自然環境にとって最も深刻な脅威の一つといっていい。

 

「沖縄では、産業やくらしが自然と深く結びついているだけに悪影響は計り知れません。水産業や観光業はとくに大きな痛手です」

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「子供の頃は那覇近くの渚でも美しいテーブルサンゴが見られました」と語る西原さん。大地と土に向き合ういまも故郷の海への思いは深い
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赤土流出で景観が一変。天候が回復しても、ダイビングなどのマリンレジャーや観光は台無しに

沖縄の味は赤い大地のめぐみ
 

1995年、県の条例で大規模な開発事業に赤土流等出防止対策が義務付けられた。それ以降、開発による流出は大幅に削減されたが、農業については努力義務としているため、近年は農地からの流出割合が全体の8割超を占めるようになった。

高齢化の進む農家が個人で対策を担うのは難しい。そこで、県がグリーンベルト植栽事業を2年間の期限付きで実施。その委託先企業に在籍して植栽事業に携わったのが、西原さんがこの活動に出会ったきっかけだった。2011年のことである。

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グリーンベルト植栽体験に参加した修学旅行生に、手作り模型を使って赤土流出のメカニズムを説明する西原さん(写真中央)
 

「サンゴを守る活動と聞いて参加したのですが、海ではなく、まさかサトウキビ畑に連れてこられるとは思ってもみませんでしたね」と西原さんは笑う。事業終了後も活動を継続しようと、2013年に自らNPOを立ち上げた。

「以前は県内の漁協に勤めていたんです。農家が赤土を垂れ流して海を汚しているという、漁業者の厳しい声も耳にしましたよ」 だが、活動を通じて農家と交流し、陸側の事情を知るうちに、「赤土や農業を目の敵にするのは違う」と、痛感するに至った。

「赤い大地を守ることが、青い海を守ることにつながる。海はもちろん沖縄の宝ですが、赤土もまた大切な島の宝ですからね」

一般に、赤土土壌は農業に不向きとされるが、沖縄を代表する農作物にはサトウキビやシークヮーサー、マンゴー、ウコンなど、赤土を好むものが少なくない。国内生産のほぼ100%を占めるパイナップルは、酸性の強いやせた赤土でないとよく育たないほどだ。これが畑から流れ出てしまうと、漁業者だけでなく、農家にとっても大きな損失となる。「だからこそ、地域全体で連携して対策に取り組まなければならない」と、西原さんは力を込めた。


農家さんにもっと近づきたい
 

実際、グリーンベルト植栽をおこなうことで、農地からの赤土の流出量は従来の50%程度まで抑えられるという。だが、農家にそのメリットを納得してもらい、活動を受け入れてもらうことは容易ではない。

「最初の頃は、各区長さんなど地域で信頼のある方を通して理解を得ていきました。とにかく活動を続け、地道に実績を積み重ねないと地域や行政に信用してもらえません。その意味で、セブン‐イレブン記念財団の助成金を2カ年活用できたのは大きかったですね。作物を栽培する前の畑に緑肥植物を植えて土壌の露出を防ぐ対策法など、新たな取り組みも進めやすくなりました」

 

漁協職員だった経験を活かして、各地の活動に地元の漁師たちを巻き込んだり、環境教育や企業等の社会貢献と絡めて、県内外から植栽体験ツアーを呼び込んだり、西原さんが仕掛けてきた活動のインパクトは、地域の一体化や活性化という面でも特筆に値する。

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一株ずつ丁寧に植え付けられるベチバー。苗の栽培は福祉施設に委託し、障がい者の就労支援にもつなげている
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地元の高校生と植栽したウコン畑のグリーンベルトは「風よけや敷き草としても効果的」と農家にも好評だ
 

現在、グリーンベルト植栽活動は沖縄本島の9市町村にまで広がり、延べ3763人が参加。農地周辺の約14kmにベチバーなど約8万5000本を植えつけるに至った。この流れを次の世代へと引き継ぐべく、西原さんは小学校などへの出前授業にも心血を注ぐ。子供たちに、ふるさとの海だけでなく、土や大地にも誇りをもってほしいから──。

 

「サンゴの移植や稚魚の放流など、美ら海を守るさまざまな活動が進められていますが、海の汚染源の一つである赤土流出という陸側の問題についてはまだまだ対策が追い付いていません。農業や土壌は奥が深い。もっと農家さんに近づいて、一緒に解決していきたいですね」

CONTENTS
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コンテンツ
・きれいなだけではない、豊かな海に 志田 崇さん NPO法人 あおもりみなとクラブ 理事
・地域が育てる自然を愛する心 吉元美穂さん NPO法人 登別自然活動支援組織 モモンガくらぶ 事務局長
・中高生たちが体で覚える森の大切さ 宮村連理さん NPO法人 「緑のダム北相模」副理事長
・人の関わりが未来の豊かな湿地環境を育む 上山剛司さん 庄内自然博物園構想推進協議会鶴岡市自然学習交流館ほとりあ
・エコツーリズムで館山を元気に 竹内聖一さん NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 理事長
・竹林を舞台に地域の輪をつなぐ 豊田菜々子さん NPO法人 環境保全教育研究所 代表理事
・震災10年 子供たちの声が響く海を取り戻す 伊藤栄明さん 松島湾アマモ場再生会議 副会長
・都市のみどりを次世代へ 村田千尋さん 特定NPO法人 みどり環境ネットワーク! 事務局長
・釣り人の聖地・琵琶湖でごみを拾う 木村建太さん プロアングラー、淡海を守る釣り人の会 代表
・土木工学が出発点。海辺の環境保全に挑む「ハゼ博士」 古川恵太さん NPO法人 海辺つくり研究会 理事長
・故郷の廃村に新たなにぎわいを 松浦成夫さん NPO法人 時ノ寿の森クラブ 理事長
・荒れ果てた藪を、ホタルが舞い飛ぶ森に 伊藤 三男さん 学校法人田中学園 学校法人緑丘学園 監事
・美ら海への思いを大地に植える 西原 隆さん NPO法人 おきなわグリーンネットワーク 理事長
・都市の貴重な干潟を守るボランティアの力 橋爪 慶介さん DEXTE-K代表
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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