先人の足跡を次世代へとつなげる

小川 浩子さん
(NPO法人 霧多布湿原ナショナルトラスト 理事長)

2000人以上の会員を持ち、順調に活動を拡大させてきた霧多布湿原ナショナルトラスト。さまざまな賞を授与されてきた活動の背景には、人と人をつなぐリーダーの思いがあった。

エゾカンゾウ
エゾカンゾウ
ノハナショウブ
ノハナショウブ
見慣れた景色“特別”

7月、町の花であるエゾカンゾウが、あざやかなオレンジの花を咲かせている。紫の花はノハナショウブ、木道の傍らにはワスレナグサ。次々教えてくれる小川浩子さんは、浜中町で生まれ育ち、“花の湿原”も子供の頃から遊び場にしていた。

「高校の先生が『霧多布湿原ファンクラブ』(1986年発足)の創立メンバーで、部活の帰りに、ファンクラブ創立者が湿原近くで営んでいた喫茶店に連れていってもらいました。先生たちが楽しそうに話すのを聞きながら、なんだか面白そうだなと興味を惹かれました。ただ地元の私は、湿原を特別なものとはまだ思っていませんでした」

浜中漁業協同組合に就職し、海外旅行がきっかけで英語を学び、イギリスに留学した。帰国した93年、オープンを控えた霧多布湿原センターの臨時職員になった。

「湿原がラムサール条約に登録された年で、国内外から訪れる関係者に出会い、湿原の重要さが分かってきました。湿原の魅力を面白く伝えたくて、浜中町出身の同僚と2人で絵本を手作りしたんです」

組織の歴史と未来を同時に見据える小川浩子さん。そのまなざしが職員と支持者の両方を育んでいる
組織の歴史と未来を同時に見据える小川浩子さん。そのまなざしが職員と支持者の両方を育んでいる

94年に出版した絵本『やちぼうずとヤチマナコ』。会報に四コマ漫画を連載していたことも
94年に出版した絵本『やちぼうずとヤチマナコ』。会報に四コマ漫画を連載していたことも

スゲ類が成長して塊になったやちぼうずと、湿原のあちこちに覗く水面が目のようなヤチマナコをキャラクター化した絵本は注目され、94年、出版に至った。小川さんは湿原センターを退職してニュージーランドに渡り、海外で働く夢を果たす。帰国し、本州での生活を経て浜中町に戻ったとき、湿原がかけがえのない、貴重なものだと実感した。

「こんなにきれいなところだったんだ、人里にこれほど近くて美しい場所は世界でも珍しいと再認識しました。花や、時間ごとに変わる風景にほっと一息つくことができて、あらためて湿原を好きになり、いろんな人に知ってもらいたいと思いました。もし開発されて、子供たちが湿原を知らずに育つことになったら悲しいし、地元のよさを内外に伝えられる人になってもらいたい。湿原を守る活動と英会話を教える本業の目的が一緒になり、NPO活動に本腰を入れるようになりました」

かつて「保全と言いながら手を入れている」とも言われた「仲の浜木道」だが、今は保全した湿原と人を近づける重要な役目を担う
かつて「保全と言いながら手を入れている」とも言われた「仲の浜木道」だが、今は保全した湿原と人を近づける重要な役目を担う
かつて「保全と言いながら手を入れている」とも言われた「仲の浜木道」だが、今は保全した湿原と人を近づける重要な役目を担う
転換期迎え活動内容

英会話教室を営みながら、「霧多布湿原ナショナルトラスト」の活動に理事として携わり、2019年7月、理事長に就任した。コロナ禍で来訪者が激減し、行動が制限される中、できる活動を続けた。

「実際に湿原に来て、見ていただくのが一番なのに、それができないので、湿原が変わらずにあることを発信しました。活動を続けるコツは、一緒に何かをすること、あきらめずに伝えることだと思います。企業や個人の方の応援は継続の大きな糧になっていて、これまで続いたのは皆さんの協力が第一でした。一緒に時を過ごすことで、なんらかの意識の芽生えやきっかけを提供していけたら次につながりますから、いろんな活動やツアーを企画しています」

霧多布湿原は3168haの広さがあり、うち1200haは民有地だった。00年1月、ファンクラブを引き継いでNPOが設立され、7月には湿原を買って保全するナショナルトラスト運動が始まった。セブン-イレブン記念財団と02年にパートナーシップ協定を結び、進めてきた民有地の取得面積は1063haに及ぶ(21年9月)。近年は湿地以外も買い取り、環境全体の保全に取り組む。

「私はNPO発足当時からかかわってきた人間で、地元の自然をどう守るかの推移を見て感じている世代なんですよね。前理事長はじめ、トラストの創立メンバーが残してきたものは、この湿原だけでなく人とのつながりで、その努力をさりげなくそばで見せてもらいました。ゼロから始めて土地を購入し、成果が目に見えていた時代から、これからは湿原をどう伝えていくかにシフトしていくと思います。創立メンバーの熱意と、関係性を築き上げていた時代があるので、私を含めてメンバーが交代し、自分たちで言葉にして伝えられるようにならなきゃいけないなと、そこが難しくて、苦労しているところかもしれません」

国内5番目の広さを誇る霧多布湿原を琵琶瀬展望台から望む
国内5番目の広さを誇る霧多布湿原を琵琶瀬展望台から望む
心がけるのは相互理解

理事の頃は、やりたいことを言う立場だったが、理事長になってからはNPOとして進められるよう、地元の人や職員の意見をくみ取れる理事長であろうと心がけている。

霧多布湿原センターでは職員一丸となり、地域と湿原を楽しむ様々なイベントを企画
霧多布湿原センターでは職員一丸となり、地域と湿原を楽しむ様々なイベントを企画

「今の職員は発足当時をじかに知ることのない世代で、そうすると、自分のやりたい仕事がうまくできているかどうかの繰り返しになりがちです。新しい関係性や手法はもちろん必要ですが、さらに先を目指すには、なぜ今まで活動が持続してこられたのかを捉える必要があります。そこで、ことあるごとに接点を設けて、対話をするようにしています。霧多布湿原の魅力は『素晴らしい湿原と人』の両方です。湿原を含めた人里と川と海がつながっていて、どこを外してもダメなんですよね。職員は私と違う感性を持っていて、知識も豊富です。大事なのは、そんな職員が一番手になって、来訪者と一緒に活動すること。その彼らと意見を交わしながら次の世代へつなげていくことが私の使命だし、それは組織を運営する上でも大切なことだと思っています。職員が活躍できる場所を作りたいし、ファンの人には居心地のいい場所を提供したい。ここは、いつ誰が来てもほっと一息つける美しい庭なんですよね」

「わが街の環境マイスター」バックナンバー

こちらより今回の秋号の一部をご確認いただけます。

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